終末の唄_020 | talk show

終末の唄_020

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 やはり、雨はポツリポツリと降りだした。

 カフェを出て、かをりと別れたあと、ぼくはもう家へ帰ろうとJRのG市駅に向かって歩きだしていた。雨はすぐに、ポツリポツリとは言っていられないくらいに激しい勢いで降りだした。
 ぼくはあわてて肩に掛けたトートバッグの中から折りたたみ傘を取り出して、差した。それでももどかしく傘を広げている間に、すでにぼくは相当濡れてしまっていた。
 それほど雨は激しく降りだしていたんだ。

 時刻はちょうど帰宅のラッシュ時で、駅のコンコースはひどく混み合っていた。
 この近くには、私立の女子校と男子校がそれぞれ一校ずつあるし、市の官公庁街で公務員も多い。みんな少なからず髪や肩を濡らしながら、うんざりとした顔をして急ぎ足で歩いていた。
 大嫌いな雨と人混みとが重なって、ぼくももちろんうんざりしていた。もう少し早く帰るか、あるいは遅らせていればよかったな、といまさら後悔していた。

 プラットホームの上も溢れんばかりの人混みだった。
 もうすっかり暗くなった空から降り注ぐ銀色の雨は、その頃にはもう庇の下にいても濡れるくらいの激しい降りになっていた。
 ぼくのベージュ色のチノーズの裾とベロアの靴も、ひどく濡れて黒く変色していた。
 どこからか、携帯電話の着信メロディーが聞こえてくる。その曲はぼくが気になっている、あの曲だ。
 ぼくはぐっしょりと濡れた傘をふるふると降って水気を払い、湿気を含んで少しカールしかけた前髪を掻き上げたあと、だれも出ない携帯の曲を聴きながら、目を伏せて電車がくるのをじっと待った。

 ぼくのうしろには、ひどくくたびれた中年のサラリーマン風の男が並んでいた。
 彼は今日会社で何か嫌なことでもあったのか、苦虫を噛み潰したようなひどく苦々しい顔つきをして、傘でしきりに地面をイライラと突っついていた。
 その彼のぐっしょりと濡れた傘が、先ほどからぼくの足に何度もあたってきて、ぼくはそれが気になって仕方がなかった。
 これだけ混み合ったホームに並んでいるのだから、多少のことは我慢しなければならないということはぼくにもわかってはいるけれど、彼の場合は少しひどすぎる。ひとに対する気遣いがなさ過ぎた。
 次に傘があたったとき、ぼくは反射的にうしろを振り向いた。けれども男はメガネの奥のキツネのように細い目をなおさら細くして、「仕方ないだろう?」という表情をしただけで、少しも申しわけないという風ではなかった。
 ぼくはあきらめ気味に小さくため息をついて、前を向き直った。

 通過の電車が間もなくぼくらの並んでいるホームに入ってくるという注意のアナウンスが、降りしきる雨の音と、ざわざわとした喧噪をかいくぐってスピーカーから聞こえてきた。
 ちょうどそのとき、ホームの少し向こうの方で、悲鳴や罵声をともないながら、人波が波紋のようにうねっているのが見えた。
 いったい何だろう? とぼくは思った。
 そのうねりがだんだんとぼくの並ぶ列の方へ近づいてくるにつれて、それが、溢れんばかりに混雑したホームを、だれかが無理やり縦断しようとしているためだということがわかってきた。
 汚れた作業着を着て、大きなボストンバックを背負ったその男は、ひとの迷惑などかえりみず、まわりの非難など気にも留めずに、人混みをぐんぐんかき分けて、ただホームの前方を目指していた。
 彼によって列から押し出されたり、ボストンバッグに背中を殴られたりしたひとたちは、みな眉をひそめ口を尖らせて迷惑がっていた。
 その作業着の男がとうとうぼくのうしろを通り過ぎようとしたとき、ぼくの肩に掛けたトートバッグが彼のボストンバッグに引きずられてどさりと足下に落ちてしまった。その拍子に、バッグの中から先ほど買ったばかりの本が、いくつもの濡れた靴に踏みつけられてぐしょぐしょに汚れてしまったホームの上に飛び出した。
 男はそれに気づきもしないでぐいぐいと先を進み、そのまま人混みの中に消えてしまったのだ。
 取り残されたぼくは、ますます憂鬱になるばかりだった。けれども何とか気を持ち直し、本を拾おうとその場にしゃがみ込んだのだった。

 事件は、そのとき起こった――


To be continued.



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