終末の唄_004
♯01
「やれやれ、またこの事件かい?」
ひょろっと背の高い高年の刑事が、その面長な顔――額と頬骨がひとより少し出っ張っていて、瞼が奥まった目の上に重く垂れ込めている――に、不快極まりないという表情を浮かべながら、しわがれた声で吐き捨てるように呟いた。
「――これは、ほんとうにひどいっスね。また、血の海だ」
茶色い髪と無精髭を伸ばした若い方の刑事が、白い手袋をはめながら、言った。
ふたりの刑事はべつの事件の聞き込みをしていたところ、署から殺人事件発生の緊急連絡を受け、G市内にある現場のこの理髪店に急行してきたところだった。
理髪店の入口には黄色いテープが張り巡らされ、その前を数人の警察官が警備している。何事かと集まってきた大勢の野次馬が、そのまわりをざわざわと取り巻いている。通りには数台のパトカーが駐車されていて、その開け放たれた窓から聞こえてくる無線のくぐもった声が、現場の緊張感をいくぶん高めていた。
理髪店の中は男性用化粧品やシェービングクリームの清潔な匂いがした。店の造りは古い狭い造りだったので、警官や関係者が中に数人いるだけで自由に身動きがとれない状態だった。
若い茶髪の刑事の名は、津川といった。彼はベージュ色のコートの内ポケットから手帳を取り出し、現場にいた警官に事件についてのおおまかな状況を訊いて書き留め、それを真栄田という高年の刑事に報告した。
「犯人は、理髪店の店主――S。事件後、店に居合わせた客の通報で、店主Sは駆けつけた警官に現行犯逮捕されました。
殺された被害者の男――Dは、この理髪店の常連客で、店主との間には、とくに人間関係上のトラブルはなかった、ということです。今日もいつものとおり、とりとめのない世間話をしながら、穏やかに髭を剃ってもらっていたそうですよ。
ところが、突然店主の形相が急変し、大きな叫び声をあげたかと思うと、その手に持っていた鋭く研ぎあげられたカミソリで、Dの首筋をすっぱりと、いきなり斬りつけたんだそうです」
そこで津川刑事は眉間に皺をよせ、苦しげな表情でネクタイを緩めた。真栄田刑事も同じように苦々しい表情を浮かべ、エンジ色のネクタイを緩めた。真栄田刑事のネクタイは背が高い分、中途半端に短く首からぶら下がっている。
「ふうむ」
真栄田刑事は右手で帽子を少し持ち上げ、頭頂部が薄くなった頭を左手で掻きながら、うなずいた。そしてコートのポケットからタバコを取り出して、どこかのバーでもらった紙マッチで器用に火をつけた。深く吸って、ゆっくりと煙を吐き出しながら、彼は現場の状況を奥まった、けれども隙のない目で、じっと見回した。
To be continued.