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膠原病・免疫・アレルギー性疾患のリウマチ性疾患のお話。
今回はその1つ、結節性多発動脈炎(古典的多発動脈炎)の説明です。

★[結節性多発動脈炎]polyarteritis nodosa★
【概念】
主として中・小型の動脈壁の中膜に壊死性の炎症を生じる疾患です。
全身諸臓器の血管に病変を生じることから、多彩な症状を呈します。
古典的多発動脈炎と顕微鏡的多発血管炎(顕微鏡的多発動脈炎)の2病型があり、両者は類似点も多いですが相違点も多いので、別々に記述します。

[古典的多発動脈炎]classical polyarteritis
【概念】
中型の筋性動脈に壊死性血管炎(フィブリノイド型血管炎)を生じる疾患で、時に小型の筋性動脈にも病変が及びますが、毛細血管には病変は波及しません。
したがって半月体形成性腎炎を呈しません。
腎不全や脳出血、腸出血、心筋梗塞などで死亡することが多いです。

●疫学
日本で1年間に約50症例の新規発症があると推定されます。
発症後1年以内に約45%の症例が死亡します。
男女比は3:1で男性に多く、発症は50~70歳に好発年齢があります。

●成因・病態生理
ウイルスなどの抗原に対し抗体が産生された免疫複合体を形成し、補体の活性化から血管壁の透過性亢進を招き、血管壁中膜に免疫複合体の沈着をきたし、血管炎を生じることが考えられています。

●臨床像
38~39℃の高熱の持続、体重減少、急速に進行する腎不全、高血圧、脳出血・脳梗塞、心筋梗塞・心外膜炎、胸膜炎、消化管出血・腸梗塞、多発性単神経炎、皮膚潰瘍、紫斑・皮下結節、関節痛・筋痛などを呈します。
病初期には原因不明の高熱を示し、抗生剤抵抗性の病状を呈することが多く、その後、急速進行性腎炎を伴いながら、多彩な症状が出現します。

●検査成績
尿に蛋白、沈渣で赤血球を認め、血沈亢進、CRP陽性、白血球増加、血小板増加をきたします。
HBs抗原やHCV抗体陽性のことも存在しますが、その頻度は少ないです。
本疾患に診断特異的な疾患マーカーは存在しません。
血管造影で、中・小動脈に多発性の動脈瘤が認められます。

●病理組織像
鬼釗変性期、挟釗У淦炎症期、郡釗肉芽期(修復期・増殖期)、鹸釗п躡期に分けられます。
挟釮龍收動脈の中膜部位の壊死性病変が主要所見ですが、病初期(鬼釗砲籬躡期(鹸釗砲料反チ釮楼曚覆蠅泙后
すなわち、病初期の変性期は中膜の浮腫性変化のみです。
治癒作用が働く肉芽期や瘢痕期は、中膜や内膜の細胞増殖により内腔狭窄をきたします。
なお、病初期には免疫グロブリンや補体の沈着が中膜にわずかに認められますが、以降の病期ではこれらはほぼ認められません。

●診断
2000年の厚生省の診断基準によります。
(1)主要症候
  1)発熱(38℃以上、4週以上)と体重減少(6ヶ月以内に6kg減少)
  2)高血圧
  3)急速に進行する腎不全
  4)脳出血、脳梗塞
  5)虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)、心膜炎、心不全
  6)強膜炎、肺出血
  7)消化管出血(吐血、下血)、腸梗塞
  8)多発性単神経炎
  9)皮下結節、皮膚潰瘍、壊疽
  10)多発関節痛、多発筋痛
(2)組織所見
  中・小動脈フィブリノイド壊死性血管炎の存在
(3)血管造影所見
  腹部大動脈分枝、特に腎内小動脈の多発小動脈瘤と狭窄・閉塞
(4)参考となる検査所見
  1)白血球増加(10,000/μℓ以上)
  2)血小板増加(400,000/μℓ以上)
  3)赤沈亢進
  4)CRP強陽性
(5)判定
  1)確実definite:主要症候2項目以上と組織所見のある例
  2)疑いprobable:ー舁彎標2項目以上と組織所見のある例
           ⊆舁彎標?里Δ1)を含む6項目以上ある例

確実例は、主要症状2項目と組織所見と組織所見のある症例とし、疑い例は、主要症状2項目以上と血管造影所見のある症例か、主症状の,魎泙6項目以上ある症例とします。

●鑑別診断
顕微鏡的多発動脈炎、Wegener肉芽腫症、アレルギー性肉芽腫性血管炎、SLEやRAによる血管、川崎病血管炎などがあります。
本疾患では、疾患そのものによる肺病変や肺出血をきたすことはまれです。

●治療・予後
発病初期(変性期、急性炎症例)と内腔狭窄期(肉芽期、瘢痕期)の治療方法は異なります。
初期の治療は、免疫抑制療法であり、ステロイド・パルス療法とシクロホスファミド(1mg/kg/日)を併用し、寛解導入できたならば、免疫抑制薬を中止し、ステロイドを減量し、維持投与量とします。
内腔狭窄期には血管拡張薬、血栓溶解薬、抗血小板薬などを投与し、血流の確保に努めます。
腎不全には血液透析を、消化管出血には腸切除術を要することがあります。
発症後6ヶ月以内に死亡する頻度が高く、1年以内に約45%が死亡します。
以降の死亡率は少なく、5年生存率は約50%です。

●コラム
20~30年前ごろ、HBウイルスに関連する症例が欧米で多数報告されましたが、最近はHBやHCに関連する血管炎の報告は非常に少なく、抗原が不明の症例が多いです。

●分子生物学から
壊死性血管炎を示すモデル動脈があり、その発症機序も異なることが知られています。
 1)(NZB×NZW)F1マウスは、SLEのモデル動脈と考えられていますが、内在性C型レトロウイルスの膜抗原のgp70に対する抗体が産生され、gp70-抗gp70抗体の免疫複合体が形成され、血管壁に沈着して生じる祁織▲譽襯ーによる発症機序が考えられます。
 2)SL/Niマウスは、中膜平滑筋細胞にC型レトロウイルスが感染し、これに対する抗体が産生され、in situで免疫反応が生じることから、況織▲譽襯ーの機序による発症が考えられます。
 3)LTR-env-pXラットはヒトT細胞白血病ウイルスのenvとpX遺伝子注入を受けたラットです。
  壊死性血管炎を生じ、周囲に著明に細胞浸潤を認めます。
  浸潤細胞はCD4陽性T細胞であることから、厳織▲譽襯ーによる機序も加わっていることが考えられます。
これら1)~3)の機序を介してヒトの壊死性血管炎も生じていると推定されます。