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救急疾患の急性中毒のお話。
今回は急性中毒の基本処置で解毒・拮抗薬の説明です。
あいかわらず写真が見難いです(泣)。

★[解毒・拮抗薬]antidotes、antagonists★
●薬毒物とその解毒薬
この世のあらゆる化学物質、動植物に至るまで急性中毒の原因となりうる物質は6万種類以上ありますが、世界保健機関(WHO)が有効と評価した解毒薬は23種にすぎません。
下記に表,WHOの資料に基づき、最適投与時間別解毒薬の種類、対象薬毒物および作用機序を示します。

 表 擴鯑婆瑤亮鑪爐搬仂殘物およびその作用機序】
 [30分以内に投与すべき解毒薬]
 解毒薬               対象薬物           作用機序
 亜硝酸アミル          シアン化合物         キレート 
 チオ硫酸ナトリウム                        毒物不活化作用
 亜硝酸ナトリウム注射液                     毒物不活化作用
 ヒドロキソコバラミン                        毒物不活化作用
 ナロキソン            麻薬               受容体拮抗作用
 メチレンブルー         アニリンなど          代謝または変換酵素賦活作用
 カルチコールゲル剤     フッ化水素、シュウ酸塩    毒物不活化作用
 4-メチルピラゾール     エチレングリコール       代謝酵素阻害作用
 ニトロプルシド         麦角アルカロイド        平滑筋拡張作用
 フィゾスチグミン       アトロピン、三環系抗うつ薬   代謝酵素阻害作用
 ジゴキシン特異抗体     ジゴキシン、ジギトキシン    毒物不活化作用

 [2時間以内に投与すべき解毒薬]
 解毒薬              対象薬物              作用機序
 N-アセチルシステイン     アセトアミノフェン         細胞内解毒機構修復作用
 L-メチオニン                              細胞内解毒機構修復作用
 フルマゼニル          ベンゾジアゼピン系薬剤     受容体拮抗作用
 フォリン酸(ロイコボリン)    葉酸代謝拮抗薬         代謝または変換酵素賦活作用
 ジメルカプロール(BAL)     ヒ素                キレート生成
 デフェロキサミン         鉄                 キレート生成
 プラリドキシム(PAM)      有機リン剤            代謝または変換酵素賦活作用
 プルシャンブルー        タリウム              不活化物質

 [6時間以内に投与すべき解毒薬]
 解毒薬              対象毒物            作用機序
 ジメルカプロール(BAL)    金、無機水銀          キレート生成
 デフェロキサミン        アルミニウム          キレート生成
 エデト酸二ナトリウム・     鉛                キレート生成
 カルシウム(EDTA-Na2)
 D-ペニシラミン         銅、鉛、無機水銀        キレート生成

解毒薬がない薬毒物による中毒では、胃洗浄、吸着剤、下剤の投与などの基本的初期治療と対症療法によって対処するしかありません。
《シアン》
 シアン中毒は致死、速効的で、古くから自殺、暗殺に使用されており、メッキ工場、倉庫の燻蒸による産業事故の原因にもなります。
 一枚目の写真はシアンの毒性と解毒薬の機序を示しています。
 ミトコンドリアの電子伝達系酵素であるチトクロムオキシダーゼの鉄イオンとシアンが結合し活性を障害し、その結果、アデノシン3リン酸(ATP)が生成できなくなり細胞内呼吸が障害され、最終的に全組織の障害が生じます。
 解毒薬として亜硝酸とチオ硫酸を用います。
 亜硝酸は血液のヘモグロビンをメトヘモグロビン(Met-Hb)に転化します(日本では亜硝酸アミルの注射薬がないため、亜硝酸アミルを吸入)。
 Met-Hbはチトクロムシキンダーゼと複合体を形成しているシアンと結合してシアンを除去します。
 Met-Hbとシアンの複合体はチオ硫酸ナトリウムによりチオシアンイオンとなり、尿中に排泄されます。

《ヒ素、金、無機水銀》
 重金属は生命維持に必要な化学反応である細胞呼吸に不可欠なチオール(SH)酵素と結合し、その機能を阻害します。
 ジメルカプロールのSH基と重金属が結合して安定なキレート化合物を生成し体外へ排泄します。
 ヒ素は有機物より無機物の方が毒性が高く、三酸化ヒ素(亜ヒ酸、和歌山カレー毒物混入事件で使用)は最も毒性が高いです。

《アセトアミノフェン》
 アセトアミノフェンは鎮痛解熱薬としてほとんどの風薬に含有されています(PL、新セデス錠、サリドンエースなど)。
 成人の致死量は13~25gと高用量のため、自殺には大量服用されます。
 服用24時間以内は無症状ですが、24~48時間後に生じる重篤な肝障害により死亡します。
 アセトアミノフェンは通常投与量では肝臓で代謝され、大部分がグルクロン酸および硫酸抱合体になり、一部がチトクロムP450系により酸化されて、肝毒性をもつN-アセチル-P-ベンゾキノンになります。
 これは正常ではグルタチオンにより代謝され、無毒なメルカプツール酸化合物として尿中に排出されますが、大量投与によりグルタチオンが使い果たされN-アセチル-P-ベンゾキノンが増加し数日後に肝細胞壊死が生じてきます。
 もうひとつの活性代謝物であるアセトアミノフェノールはメトヘモグロビン血症を起こします。
 グルタチオンそのものでは肝臓に入らないため、その前駆物質であるN-アセチルシステインあるいはメチオニンを使用し、アセチルシステイン内容液17.6%を経口投与します。
 経口投与が困難な場合は胃管または十二指腸管により投与します。

《有機リン剤》
 有機リンは非可逆性コリンエステラーゼ阻害作用により強い副交感刺激作用を示します。
 プラリドキシムpyridine-2-aldoxime methiodide(PAM)は、リン酸化されたコリンエステラーゼを賦活化し、コリンエステラーゼ活性を復活させます。
 毒ガス(サリンなど)の解毒薬としてもPAMが使用されます。