清水忍の「インストラクションズ」    -25ページ目
ご飯を食べにお蕎麦屋さんに入った。

狭いテーブルの隙間を通り、くるりと振り返って椅子に座った。

すると隣のテーブルで食べていた30歳くらいの女性から

「バッグ、気をつけて下さい。顔に当たりそうでしたよ」

と少し厳しく注意された。

振り返った時に、肩にかけていたバッグが顔をかすめたようだ。


反射的に

「はっ、申し訳ありませんでした」

と、本当に恐縮して答えていた。


その後、注文したお蕎麦を食べながら、なぜかすがすがしい気持ちで考えた。

まず、

僕は、僕が先ほどやってしまったような事に対して、教え子たちにも強く注意してきた。

自分が知らず知らずにどれだけ周りに不快な思いをさせているか、よく感じながら行動するように指導してきた。


電車の中でのリュックがどれだけみんなの邪魔か。

イヤフォンからの音漏れがどれだけみんなに不快か。

喫茶店での大声の会話がどれだけみんなに迷惑か。

などなど


自分で気づかずにやっている迷惑行為にもっと注意するように伝え続けてきた。


しかし、自分でやってしまっていた。


本当にこんな事に気づかない自分が恥ずかしくなったが、

でも、この隣でお蕎麦を食べている女性の、僕への注意の仕方で、本当に救われた。

ほどよく厳しく、そして後を引かない歯切れ良い叱り方。

僕の非常識な行為が発端だが、

注意されてなぜか気分がよかった。

上手に叱れば、叱られた人は受け入れる。


帰りにその女性にもう一度お詫びしたら、本当にかすかに、

ニコッ

としてくれて、僕はその店を出た。

しばらくいい気分だった。










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