ミモザとタツノオトシゴ

 

 

1月下旬、25年近くお付き合いいただいている大切な人から、「余命宣告を受けた」と聞かされました。

 

ご病気であることは知らされていたので取り乱すことはなかったのですが、「お葬式や墓地の手配もすでに済ませたよ」との言葉に、静かに泣きながらうなずくことしかできませんでした。

 

満ち足りた人生を過ごすことができ、今、何も“恐れ”は無いとのこと、口数の少なくなった私を慰めるように、「肉体に永遠はないからね」と微笑みました。

 

これまで通りのペースで、これまで通りお会いすることを約束して別れたのですが、なんだか思考も感情も湧き上がってこない奇妙な無の状態で、自宅まで帰りました。

 

家に着いて、「2024年は元旦から、肉体が有限であることをまざまざと思い知らされる出来事が続くんだな……」と、半ば諦めにも似た気持ちで、大した目的もないまま、スマホに手を伸ばしました。ネットニュースをスクロールしていると、米国の俳優デミ・ムーアのインタビュー記事が目に留まりました。

 

認知症を公表している元夫ブルース・ウィルスについて問われたデミ・ムーアは、彼と過ごすにあたり、彼との間に生まれた娘たちに下記のようにアドバイスしていると答えました。

 

子どもたちに言っていることをここでも言いたい。それは今いる場所で向き合うことが大切だということ。今ここにないものにはしがみつかず、今ここにあるものをしっかり掴む。なぜならそこから素晴らしい美や優しさ、愛情、喜びが生まれるから

 

“What I’ll share is what I say to my children, which, it’s important to just meet them where they’re at, and not hold on to what isn’t but what is,” Moore said.

“Because there’s great beauty and sweetness and loving and joy out of that.”

 

 

 

 

過去や未来にとらわれずに今ここを生きる――よく言われる言葉ですが、なかなか自分事として理解することは難しく、分かったような分からないような感覚でいました。ただ、この時ばかりは、なぜか素直に「ああ、そうか」と納得したのです。

 

二十代の頃に楽しんだハリウッド映画で親しみを覚えた俳優さんの言葉だったからか、同世代を生きてきてそれぞれに悩みを抱える現状に共感したのかは分かりませんが、彼女の言葉から、過去を悔いて未来を恐れ“今がすっぽりと抜け落ちている”自分自身に気づくことができたのです。

 

ああ、今この瞬間の、虚ろな心や悲しい想いは、そのままでいいんだ……

 

“今この瞬間”は、たちどころに過去へと流れていきます。“今”をしっかりと丁寧に積み重ねていくことで、過去は悔いるものではなく、多くの学びを与えてくれる貴重な経験へと姿を変えていきます。

 

次回、大切な人と会う時には、その人の存在に対する敬意や感謝、会話を交わし笑い合える喜び……様々な想いが交錯することでしょう。ひとつひとつの想いを大切に、共に過ごせる瞬間を存分に楽しもうと思います。

 

過去の経験から学び、今ここを生きる――その先には、きっと穏やかで満足できる未来が待っていてくれると信じて……