スースーする後ろ姿、
さっぱりした頭で、
飴玉を口の中に
コロコロ回しながら帰る道は、
それなりに甘く楽しく、
スッキリとした気分だった。
中学時代、友人の話では、
他店では試供品の整髪料や
安い櫛などをお土産に
くれたらしいが、北島理髪店は、
そうした関連業界との
繋がりにも見放されていたのか・・・
相変わらず飴であった。
高校時代も、浪人として19歳になった
ボクに対しても、飴玉一個であったが、
その歳でも飴玉をしゃぶりながら
意気揚々と帰路につくボクは、
変といえば変だったのかもしれない。
その時点で、店は本当に
落ち目の三太郎で、
1日に1人か2人の客しか来ないと、
年老いたオヤジはボヤキつつ、
ボクの髪にハサミをいれていた。
息子も腕の自信をなくしたのか、
店に立つこともなくなり不在。
何処に行ったのか・・・
聞くにも勇気がいる。
主人も黙して語らず、
決してこの話題には触れなかった。
息子も消えて、一年ほど
オヤジ1人が店に立つ。
誰が見ても、もうつぶれる寸前だった。
世の中全体は、高度経済成長が拡がり、
神武景気から岩戸景気に続く登り坂を
邁進する時代。
食糧難から食えない時代を卒業。
家も立ち経済的にも基盤ができ、
少し儲かっている店や企業は、
銀行からお金を借りてでも、
店内改装や設備投資に
英断と勇気を持って
踏み込みつつあったが、
北島理髪店だけは、
扉を木戸からガラス戸に
変える程度の決断で、
椅子も鏡も昔のまま。
床屋のサインは汚れ、
ほとんど廻らずボロボロ。
最初に通い始めた頃の
大混雑の店内や客の華やぎも
スッカリ消え去り、
高度経済低成長・・・
破滅の危機は目の前。
もう時間の問題・・・
というところまで切迫していた。
〈つづく〉