未来のシナリオ 7 | スナミちゃんのひとこと

「はい、お客さん、終点だ。

 気をつけて行きなさいよ。

 まぁゴールデンウィークで

 これほど登山客が少ないのも

 珍しいわな・・・

 これじゃ、あがったりじゃあ」

 

運転手が、あまりにあっさりと

普通の人間くさい言葉を呟いたので

それまでの緊張の糸が切れて

疲れがドーッと出た。

 

「な~んだ・・・

 普通のオジサンだね・・・

 猫に変身するかと思って

 もう・・・怖くて・・・」

 

「俺も・・・

 ピリピリしてたァ・・・

 疑心暗鬼ってこのことだ・・・

 怖いと思うとなにもかもが怖くなる」

 

「でも・・・わかんないよォ。

 今頃、帰りのバスの中で

 あの運転手さんが

 油をペロペロ舐めてたりして・・・」

 

「ニャオ~ンってかァ」

 

俺は猫が舌舐めずりする

真似をしてふざける。

 

登山口に向かって

段々畑が連なる村道を

笑いながら急ぐ。

道なりに点在する

いくつかの農家に

大きな竹竿が立ち

風をいっぱいに受けて

赤・青・黒の鯉のぼりと

五色の吹流しが

翩翻(へんぽん)と翻っている。

鍾馗(しょうき)様や

桃太郎を描いた

巾1m、長さ5mの幟(のぼり)も

パタパタと風にはためいている。

長男・博志とか、次男・剛次とか

幟に墨で黒々と描かれた文字は

その家の男の子の将来と

幸せの祈願なのだろう。

こういう風習は

この地方だけなのだろうか。

青空を背景に、

尾を左右に跳ねて泳ぐ鯉の姿は

たくましく美しい。

こんな風に気持ちよく

未来を泳ぎきりたいな・・・と

元気が心の中に

湧きあがりはじめた時

彼女がビクッと

俺の腕を掴み

不安に満ちた小さな声で呟く。

 

「ねぇ・・・

 怖いよ・・・

 気がついた?!

 各家の門や塀の隅っこに

 必ず猫がいるの

 ジッと私たちを

 見張っているみたいに・・・」

 

あまりにも

オロオロとして表情に

 

「えっ?!

 俺は鯉のぼりの

 かっこよさばかり・・・

 上ばかり見てたから・・・」


確かに、怪しくおかしい。

 

 

 

〈つづく〉