第9334回「浅田次郎短編 その1~その3 鉄道員、ラブ・レター、オリオン座からの手紙ネタバレ」 | 新稀少堂日記

第9334回「浅田次郎短編 その1~その3 鉄道員、ラブ・レター、オリオン座からの手紙ネタバレ」

 第9334回は、「浅田次郎短編 その1~その3 鉄道員、ラブ・レター、オリオン座からの手紙 ストーリー、ネタバレ」です。


 浅田次郎氏の「鉄道員(ぽっぽや)」は珠玉の短編集でした。映画化、漫画化など再三されていますので、今さらながらブログに取り上げることにしました。初回は、既にブログに取り上げている3作品を一挙に取り上げることにしました。




「その1 鉄道員(ぽっぽや)」

 高倉健劇場の一作として取り上げたブログから全文再掲することにします。


『 浅田次郎氏の原作を降旗組が映像化した映画です。「不器用ですが」、そんな日本のおとうさんの背中が画面からあふれ出ていました。


 やはり、ぽっぽやをやれる男優は、高倉健さんしかいません。ストーリーの紹介にあたりましは、原作とは関係なく章とサブ゛タイトルを付けさせていただきますが、ストーリーそのものにつきましては、小説版をベースにしています。


「プロローグ 仙次の想い」

 仙次(小林稔侍さん)は、機関車に乗り終点の幌舞の駅に向かいます。幌舞駅で駅長を勤める迎える乙松とは同期です。仙次も同じ機関士から出発した国鉄マンでしたが、要領の悪い乙松よりはるかに出世しています。仙次はJR北海道の関連会社への再就職が決定しましたが、3月に定年の乙松は・・・・。


 そんな乙松の再就職先を考えて、幌舞駅に向かっていると言うのが実情でした、もちろん一緒に酒を飲めると言う楽しみもありますが・・・・。そんなふたりの想いをつないでいたのが、キハ12でした。


 『 キハ12形は、酷寒地向けの便所付き両運転台車で、1956年に22両が製造され、全車が北海道内で使用された。キハ11形100番台との相違は、側窓が二重構造となったことである。


 当初は、デッキ部の仕切り壁は設置されていなかったが、後年の改造により設置された。定員は、基本的な車体構造が同じキハ11形と同一である。老朽廃車は1976年から始まり、1980年までに全車が除籍された。 』(ウィキペディア)


 トンネルを過ぎると、幌舞駅まではわずかです。やがて、駅頭に立つ乙松(高倉健さん)の姿が見えます。「かっこいいよね、乙松さん、絵になるべ」、若い機関士の実感でした。


「第1章 元日に出会った見知らぬ小さな女の子」

 仙次は、ひとり身の乙松のために、おせちを持ってきていました。年末を一緒にすごす予定だったのですが、年を越えてしまったと言うのが実情でした。仙次が再就職を勧めても、乙松の気持ちは変わりませんでした。「おらあ、ぽっぽやだから、他にはなにもできないっしょ」


 そこに入って来たのが、小学生高学年ぐらいの女の子です。昼間、その女の子の妹らしき女の子が、キューピー人形を駅の待合室に置き忘れて帰ってしまいました。その小さな女の子は乙松の足にすがりつくようにしていました。人見知りしない幼い子どもに、乙松は亡き娘の雪子を想い出します。


 翌朝、仙次はキハ12に乗り帰っていきます。


「第2章 乙松の前に現れた第三の少女」

 乙松は、あの姉妹は円妙寺の住職の孫だと考えていました。姉妹は両親の名前を告げなかったことと、住職の義理の娘の顔立ちとそっくりだったからです。そして、午前早々に仙次の息子の秀男(吉岡秀隆さん)から電話が入りました。秀男は新年のあいさつと共に、幌舞線の廃止決定を、ひたすら詫びます。秀男はJR北海道の本社に正社員として勤務していたのです。


 幌舞の子どもたちは、乙松に駅から見送られて高校に通い、帰りには乙松に迎えられて育ったという経験を共有しています。それだけに、秀男としても存続に尽力したのですが、赤字路線の廃止は既定の事実になっていました。


 そんな中、昨日駅にやってきた姉妹の姉と思われる女子高生(末広涼子さん)が制服姿でやってきます。住職に電話した際、そんな孫などいないと言われています。「乙松さんもボケとるのかな」、住職の想いでした・・・・。


 乙松はその女子高生に自らの人生を語ります。3人姉妹が、亡き雪子が成長する過程を自分に見せるために現れたと考えたからです。


「第3章 乙松の語る鉄道マンとしての人生」

 17年前、まだわずか2か月だった雪子は、母親の静江(大竹しのぶさん)に抱かれキハ12に乗り、病院に行きました。乙松は仕事のために一緒に行けませんでした・・・・。静江は死せる雪子を連れて帰ってきます。長い結婚生活で、静江が夫を責めたのはその時だけでした。静江以上に激しく責めたのが、仙次の妻(田中好子さん)でした。そんな静江も、乙松に看取られることなく世を去っています。


 「だども、おら、ぽっぽやだべさ、仕方ないっしょ」、乙松は亡き妻にも、いま目の前に現れている雪子にも詫びます。「あたし、何も思うとらん。とうさん、ぽっぽやだもの」、雪子は父親を恨みに思ってなどいない語ります。そして、父親のためにふたり分の料理を作ります。ところで。絵の構造は、待合い室、駅長室、そして、奥の住居スペースにつながっています・・・・。


 「ゆっこ、飯食って、風呂さ入って、一緒に寝るべえ、なあ、ゆっこ」


「エピローグ 老鉄道マンの死」

 翌朝、乙松の死体を発見したのは始発の機関士でした。手旗をもってホームの端に倒れていたそうです。「駅長さん、ええ顔をしてたな。不思議だったのは、食卓に向かい合わせに、ふたり分の食事が置かれていたことだべさ」、そう語る機関士の口を仙次は封じます。「もう言うな」・・・・。 』(以上再掲)


 乙松がみたのは何だったのでしょうか。読んだり観たりした人が、それぞれの感慨が持てるような作品になっています。「泣かせようと思って(小説を)書いたら、必ず失敗する」、そう語ったのは浅田次郎氏でした・・・・。


 思いつく解釈を列挙することにします。

1, 乙松は、霊としての雪子をみた。

2. 雪子を見たいと望んだ乙松自身が作り出した幻覚である。

3. 自然の摂理(神)が、乙松に授けた奇跡である。

4. すべては、乙松が死ぬ瞬間に見た長い夢である。

5. その他





「その2、ラブ・レター」

 ながやす巧さんのコミック版で既に取り上げています。ストーリー部分のみ再掲することします。


 『 浅田次郎氏は、1997年、短編集「鉄道員(ぽっぽや)」で受賞しました。山本周五郎とは作風が異なりますが、やはり人情話です。その一編が「ラブ・レター」です。ヒロインは、いわゆる"偽装結婚"で、日本に来た中国人女性です。


 チンピラ・吾郎が、釈放されはじめて聞いた話が、「カミサンが死んだ」というものです。吾郎は、偽装結婚の女か、と気付きます。若干の葬祭費用を組から受け取った吾郎は、弟分と一緒に千葉に向かいます。千葉駅で乗り換え、さらに田舎に向かいます。警察、病院、葬祭場、手続きを済ませます。

 

 ですが、吾郎は普段の吾郎ではありません。女の手紙を読んだからです。遺品の中に入っていました。そこには、綿々と吾郎への愛が綴られていました・・・・・。吾郎は、帰りの電車の中で、慟哭します。


 初読の際、リアリティが感じられませんでした。中国人女性ではなく、東南アジアの某国とすれば、それなりのリアリティがあっと思うのですが・・・・・。泣ける話だけに、残念です。 』




「その3、オリヲン座からの招待状」

 劇場版に基づき、既にブログに取り上げています。少し長いですが、再掲することにします。丹念かつ繊細な映画に仕上がっています。


 『 舞台は、京都西陣の映画館「オリヲン座(オリオン座)」です。戦後にオープンした映画館もついに終焉の時を迎えます。ストーリーの紹介にあたりましては、原作とは関係なく、章とサブタイトルを付けさせています。なお、年号につきましては、私の記憶に拠っています。


「プロローグ オリヲン座からの招待状」(現在)

 東京で暮らす三好良枝(樋口可南子さん)の元に、オリヲン座から招待状が届きます。その中には、往年の切符が入っていました。彼女は早速、別居中の夫・祐次(田口トモロヲさん)に連絡します。「一緒に行こうよ、懐かしいじゃない」、しかし、祐次は消極的でした・・・・。物語は過去に遡ります。


「第1章 ぼくを働かせてください」(昭和32年、1957年)

 オリヲン座に掛けられていた映画は、「二十四の瞳」と「君の名は」の二本でした。夕刻、重そうなバッグを抱えてやって来たのが、千波留吉(加瀬亮さん)でした。切符を売っていたのが、豊田トヨ(宮沢りえさん)でした。既に最終回が始まっています。留吉に半額でいいと言おうとしましたが、タダで入らせます。


 映画は終わりましたが、留吉は座席に座ったままでした。留吉はトヨに声を掛けます。「支配人に会いたいんですが」と言うと、トヨは映写室から降りてきた夫の松蔵(宇崎竜童さん)を紹介します。「ぼく、映画が大好きなんです。大津から出て来たんです。ここで働かしてください」


 オリヲン座は夫婦ふたりで十分やっていける小屋でした。ですが、留吉の熱意に負けた松蔵は留吉を雇うことにします。ここに3人の不思議な生活が始まります。


「第2章 留吉の日常と松蔵夫婦の愛情」

 留吉の最初の仕事は、自転車でフイルム缶を運ぶことでした。少しでも遅れると、松蔵は怒鳴ります。落ち込む留吉を優しく励ましたのはトヨでした。「あの人な、あないなこと言うてるけど、留やんのこと評価してはるんやで」、トヨの言葉に嘘も誇張もありませんでした。


 子どものいない松蔵夫婦は実の息子のように留吉を可愛がります。孤児同然に大津を飛び出した留吉にしさては、家族とも言うべきふたりでした。しばらくすると、松蔵は留吉に映写も任せ始めます。「留やん、わしはな、残念なことがひとつあるんや。板妻の『無法松の一生』、あれを掛けたかった」


 そんな松蔵が、写真館のおやじを呼び、小屋の前で、3人で写真を撮らせたのです。留吉にとっては幸せな日々でした。気になるのは、松蔵がやたらに咳をすることぐらいだったのですが・・・・。


「第3章 松蔵の死とオリヲン座の閉館?」

 そんなある日、ついに松蔵は帰らぬ人となりました。トヨは閉館を決意します。しかし、必死に存続するよう説得したのが、留吉でした。「あねさん、オリヲン座の火消したらあかん、そう言うてはったのは、親方や。わいも気張らせてもらいます。どうか小屋を閉めんでください」


 トヨは留吉の熱意に押されます。ところで、留吉は2階で暮らしていました。食事はトヨの作ったものを食べていました。そのことが、御近所の邪推を生むことになろうとは、その時のふたりには思いも寄らぬことでした。


 オリヲン座再オープンの日がやってきます。劇場の前には、花が並べられます。上映作品は、松蔵が一度は掛けたかった坂東妻三郎主演の「無法松の一生」です。客席を観客が埋め尽くします・・・・(さわりの部分が映しだされます)。


「第4章 映画の斜陽とあらぬ噂」(昭和36年、1961年)

 街角では、電気店の前などに人だかりがしています。いわゆる街頭テレビです。テレビの勃興と逆比例するかのごとく、オリヲン座の観客数は目に見えて減ってきました。ふたりの生活も厳しいものになります。


 さらに追い打ちを掛ける事態が発生していました。「あのふたり、できているんや、死んだ松蔵はんが可哀そうや。わては絶対あの映画館は行かん、子どもにもいかさん」、居酒屋ではそんな会話が交わされていました。


 「取り消してください、わては何言われてもええけど、かみさんが気の毒や」、留吉が抗議すると、逆に酔っ払いから殴られます。その噂は、トヨの耳にももちろん入っていました。ですが、トヨは何も言いません・・・・。




「第5章 厳しさを増す映画館経営、そんな中、・・・・」(昭和39年、1964年)

 テレビは、街頭から家庭に浸透する時代に入っていました。この頃になりますと、テレビの影響が顕著に顕れています。そんな中、留吉は奮闘しますが、成果はありませんでした。前金が払えないばかりに、配給会社からフィルムの貸与を拒否されたのです。


 「おかみさん、すんまへん、わしが至らんばっかりに。親方が生きてはったら・・・・」とトヨに謝罪します。しかし、トヨには分かっていました。「留やんのせいやない」と答えます。ですが、悪いことばっかりではありませんでした。近所の女の子・良枝と男の子・祐次が映画館に遊びに来始めたのです。


 「オリヲン座行ったらあかん、ってお母さん言いはるけど、うちオリヲン座好きや」と言っていたのは良枝でした。一方、祐司の両親は喧嘩ばっかりしており、家庭は荒んでいました。正直、祐司は家に帰りたくなかったのです。そのことは、トヨにも留吉にも良枝にも分かっていました。


 ある日、オリヲン座に長居した祐司と良枝のために、トヨたちはケーキを渡します。「ハッピー・バースデイ・トゥ・ユー♪ハッピー・バースデイ・トゥ・ゆうちゃん♪・・・・」、祐司は家庭で誕生日を祝ってもらったことがなかったのです。


 「おっちゃんが、うちらのお父さん、おばさんが、うちらのお母さんや」、良枝はそう言います・・・・。


「第6章 結ばれた留吉とトヨ」

 ある夏の日、留吉は河原へ行きます。うっそうと生い茂った草陰から光が飛び立ちます。ホタルの群れでした。留吉は、ホタルを掌で優しく捕まえます。家に帰ると、トヨが蚊帳の中で寝ようとしていました。「じっとしてて」、留吉は蚊帳の下をめくりホタルを放ちます。


 ホタルが蚊帳の中を飛び交います。「きれい」、そう言うと、トヨは静かに留吉の手を握ります(短いエピソードですが、実に抒情的です)。


「最終章 オリヲン座の終焉」(現在)

 良枝はかつて暮らしていた路地を歩いていました。懐かしんでいる良枝に声をかけたのは、意外にも祐司でした。「来(こ)うへんかと思ってたわ。オリヲン座へ行きましょう」、ふたりは仲良く歩き始めます・・・・。一方、トヨ(中原ひとみさん)と留吉(原田芳雄さん)は、担当医からトヨの余命を告げられていました。


 「ほなら、オリヲン座に帰りましょう」、留吉はそう言って良枝を背負います。これまでにも何度かあったことです。「恥ずかしがんでええがな」、西陣の街を歩きます。オリヲン座閉館を記念した特別興業に多数の客が詰めかけていました。良枝と祐司の姿もあります。トヨは映写室から観ることにします。


 スクリーンの前で、留吉は館主として挨拶します。「映画館続けるために、貧乏してきました。三食、売店のパンでしのいだこともあります。映画館やめたら、正直何もできやしません。それでもここまで頑張ってこれたんは、みなさまのお蔭やと思うております。永年ありがとう存じました」(要旨)


 閉館の出しものとして選んだ作品は、「無法松の一生」でした。松蔵が大好きな映画であり、留吉にとっても主人公に自分自身が重なる思い出の作品でした。楽しい記憶も辛かった過去も、留吉の脳裏に去来します。映画は終わりました。静かにトヨの手を取ります。トヨの首が不自然に傾(かし)げます・・・・。 』