第7089回「春琴抄 谷崎淳一郎原作 百恵・友和映画第5作 衣笠貞一郎脚本 ネタバレ」 | 新稀少堂日記

第7089回「春琴抄 谷崎淳一郎原作 百恵・友和映画第5作 衣笠貞一郎脚本 ネタバレ」



 第7089回は、「春琴抄 谷崎淳一郎原作 百恵・友和映画第5作 西河克己監督 衣笠貞一郎脚本 感想、ストーリー、ネタバレ」(1976年)です。


 原作は、大谷崎の耽美実験小説です。句読点が極力排除されており、実に読みづらい中編に仕上がっています。読み始めた途端、後悔したことを記憶しています・・・・。ただ、プロットは起伏に富んでおり、しっかりしています。


「プロローグ 描かれざる前史」

 「明治初期、大阪の道修町(どしょうまち)には、多数の薬種問屋が連なっていました。町人と言えども、封建制ともいうべき厳しい身分制度がありました。そんな大店のひとつが鵙屋(もずや)でございます。


 次女のお琴は9歳の時、病のために失明しましたが、美しい娘に成長しました。丁稚の佐助は13歳から奉公しており、表向きの仕事だけでなく、お琴に仕えてきました・・・・」(ナレーション)


「第1章 鵙屋の人々」

 お琴(山口百恵さん)は美しい女性に成長しただけでなく、高飛車なわがままな娘でもありました。女奉公人では彼女の仕事は勤まりません。自然、佐助(三浦友和さん)に声がかかります。次女であるお琴は、春松検校(中村伸郎さん)に師事し、琴と三味線を習っていました。検校は、お琴の上達を評価します。


 父親の安左衛門(中村竹弥さん)としても異論はありません。母親も考えを同じくしていました。お琴の音曲狂いに反感を抱いたのは長女のお良でしたが、両親が説き伏せます・・・・。お良は、将来は婿を迎えて、鵙屋を継ぐ予定です。


「第2章 佐助、お琴の専従に」

 佐助は、奉公人が寝静まった後、三味線の練習をしていました。お琴の琴をイメージしながら、心の中でコラボします・・・・。それが問題になったのは、ある雪の降る夜でした。突然現れた番頭さんが、三味線を取り上げ、叩き折ったのです。「佐助、何のために働いてるんや。奉公人が音曲をやるなど、わてが決して許さへんで!」


 そんな佐助を自室に呼び入れたのが、お琴でした。自分の三味線で弾かせます・・・・。佐助に噛みついたのは、番頭さんだけではありませんでした。長女のお良も、お琴の部屋で佐助を叱りつけます。「今日は大晦日やないか。みんな忙しく働いてる、そやのに何や、おまえは三味線など弾いて」


 しかし、お琴は一歩も引きませんでした。むしろ、安左衛門はこの事態を好機ととらえました。「佐助には鵙屋を辞めてもらい、お琴の専従で働いてもらおう。これなら、誰も文句言えへんやろ」、以降、佐助は春松検校に弟子入りします。ただ、実質的な師匠はお琴です・・・・。


「第3章 師匠お琴の指導」

 ところで、町中でお琴を見初めた男性がいました。美濃屋の若旦那・利太郎(津川雅彦さん)でした。女好きの若旦那は、お琴を落とすために、春松検校に弟子入りしますが、不熱心なために破門されます。それでも、利太郎のお琴への執着は消えませんでした。このことが、後に禍(わざわい)をもたらすことになります。


 一方、佐助の上達には目覚ましいものがありました。検校は褒めます。ですが、お琴にとっては、満足のいくものではありませんでした。自然、厳しいものになります。怒りに任せて、お琴は佐助の手の甲を傷つけます・・・・。


 気まずくなったふたりを救ったのが、意外にも地震でした。脅えたお琴は佐助を抱きしめます。「佐助、一生、離れんといて!」・・・・。朝起きてから寝るまで、一時も離れることなく、佐助はお琴に仕え続けます。そんな時に事件が起きました。お琴が鵙屋から姿を消したのです。


「第4章 お琴の妊娠、そして、・・・・」

 お琴が妊娠したのです。安左衛門は穏やかな口調で問い詰めます。「佐助、おまえがお琴から目を離すことはなかった。男は誰や?わしは、むしろ佐助だったらいいと考えている。婿に迎えたいとも思っている」、しかし、道修町の掟が許すはずがありません。佐助はあくまで否定します。


 一方、母親もお琴を問い詰めますが、お琴は結局男の名前を明かしませんでした。こうして、ひっそりと有馬温泉で生まれた赤ちゃんは、里子に出されます。誰の子とも明かさずに・・・・。


 さらなる出来事が起きます。安左衛門が急逝したのです。後を追うように、春松検校も・・・・。ただ、春松検校は生前に、お琴に春琴の名前を与え後継に指名していました(以下、春琴と表記)。こうして、「鵙屋春琴」の看板で、春琴は音曲の師匠を始めます。下働きの女中ふたりと共に、4人での暮らしでした。


「第5章 春琴の日常」

 春琴の日常は、すべて佐助任せでした。化粧も佐助任せです。高飛車なところは変わっていません。そんなふりたりを女中が噂します・・・・。弟子入りは順調でした。若旦那の利太郎も弟子入りします。そんな時に、ヤクザ風の男が怒鳴り込んで来たのです。「芸者が顔を傷つけられちゃ、黙ってられねえ」


 春琴が弟子の練習に怒って、三味線のバチで額を傷つけたのです。割って入ったのは、利太郎でした。金で済まします。この貸しを利用して、別荘のこけら落しに春琴を招待します。利太郎はチャンスを待ち続けていたのです。


「第6章 春琴の反撃と利太郎の報復」

 多数の客が招かれ宴席が開かれます。その余興として、春琴の琴が演奏されます。客の数に応じた芸妓も呼ばれていました。若旦那の利太郎は、個室に春琴を案内させます・・・・。一方、佐助を含めて客たちは座敷で饗応されます。芸妓だけでなく幇間も座を盛り上げます。


 断る佐助に芸妓は酒を奨め続けます・・・・。その時、春琴の叫び声が上がったのです。春琴は無事でしたが、利太郎の額からは血が流れていました。「あの女、許さん!」


 深夜、ひとりの男が春琴の家に忍び込みます。手には、煮えたぎった湯の入った鉄瓶が握られていました。眠る春琴の顔面に熱湯をぶちまけます・・・・。春琴の悲鳴を聞きつけたのは佐助でした。「顔は見んといて。痛い!」、利太郎があのヤクザ風の男を使ってやらせていたのです。


「最終章 佐助の選択」

 火傷は治りますが、醜い傷跡は残ります。「佐助、見ないで!」、ふすま越しの会話が続きます。医者が来たので、佐助は席を外します。春琴が嫌がっていたからです。佐助が女中部屋に足を踏み入れた時、畳の上に縫い針が落ちているのを目にします。針仕事をしていた女中を使いに出します。


 「明日には包帯がとれます、すっかり治っていますよ」と医者は快活に話していました。「お薬をもらってきなさい」、医者を見送っている際に、もうひとりの女中に命じます。女中部屋の窓、襖をすべて閉め切ります。そして、佐助は、鍼を握り手鏡に見入ります・・・・(実に長い間合いです)。


 針を目に近づけます。手鏡が佐助の顔を隠します。頭を振り下ろすように針に向かって・・・・。そして、もう一方の目も・・・・。


 「佐助、佐助」と春琴が呼ぶ声が聞こえます。しかし、もはや目の見えない佐助は庭に転げ落ちます。春琴も声を頼りに動きますが、やはり庭に転落します。そして、ふたりは手探りでお互いの居場所を確認します・・・・。


「エピローグ その後」

 「春琴と佐助は終生、共に暮らしたが、結婚することはなかった。春琴は音曲界で名をはせたが、佐助も検校の位を得るまでになった。春琴は時に弱さを見せたが、佐助が愛したのは、あくまで高飛車で傲慢でわがままな春琴像だったのかもしれない」(ナレーション要旨)


(蛇足) 山口百恵さんの映画では、秀作に属する作品だと思っています。厚塗りのメイクと大谷崎の耽美譚が、山口百恵さんのイメージに上手く合致していました。