第6853回「亜愛一郎(の狼狽) 第1話 DL2号機事件 ストーリー、ネタバレ」 | 新稀少堂日記

第6853回「亜愛一郎(の狼狽) 第1話 DL2号機事件 ストーリー、ネタバレ」

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 第6853回は、「亜愛一郎(の狼狽) 第1話 DL2号機事件 ストーリー、ネタバレ」です。帯にも書かれていますように、「亜 愛一郎」シリーズは、チェスタトン的なプロットを持った本格ミステリ作品になっています。また泡坂妻夫氏のデビュー作でもあります。


 全3巻、全24話について、一作ずつブログに取り上げていきたいと考えています。ところで、この短編集の探偵役である亜愛一郎は、亜(あ)が姓、愛一郎が名前です。職業は学術的カメラマン、地味な仕事です。ウィキペディアから、そのキャラクターを引用することにします。


 『 背が高く彫りの深い気品のある美貌の持ち主で、そのため初対面の女性にはたいてい好感を持たれる。が、言動にはだいぶおかしなところがあり、しばらく一緒にいると落胆される事もしばしば。


 なぜか行く先々で偶然にも殺人事件にでくわす事が多いのだが、いつもそれをさして捜査めいた行為もせずに観察と推察だけで事件の全容を推し量り、犯人を突き止めてしまう。そこへ至る思考のプロセスは常に非常に論理的。


 頭の中で真相にたどりついた時、その事に自分でもショックを受けるのかそれとも思考に集中するとそうなるのか、両目そろって白目をむいてしまうという癖がある。 』


 1970年前後の時期は、爆破事件が多発していた時期です。丸の内三菱重工爆破事件(1974年)などは今でも強く印象に残っていますし、「クロコーチ」のモデルになっている府中三億円事件(1968年)も、世の中のそのような風潮を巧みに犯行手口に取り入れていました。


 そして、爆破事件(予告を含む)だけでなく、旅客機のハイジャック事件も多発していました。この第1短編は、そのような背景のもとに書かれています。


「第1話 DL2号機事件」

 宮前市は、1年前に大地震に見舞われました。市街地だけでなく、空港も被害を受けました。空港施設は最低限の復旧はしていますが、今なお地震の痕跡が残されています。宮前では、50年周期で、大地震が発生していると言われています。


 そんな空港近くで、雨の中、憮然として立っていたのが、羽田(はた)刑事でした。到着予定のDL2号機に爆弾が仕掛けたとの爆破予告が入っていたからです。ですが、厳格な荷物検査の結果、予定通りフライとしたという経緯があります。


 雨の中、3人の男たちが写真を撮っています。「あ」とか「ああ」とかいうような名を呼んでいます・・・・。また、見覚えのある緋熊五郎という運転手も出迎えに来ています。彼は、今年、人身事故を起こしたばっかりだったのですが、奇特にも実業家の柴という男に雇われていました。


 芝は、大震災直後に宮前氏に大規模な工場を建設し、自宅も東京からこの地に移しています。羽田刑事が見守る中、DL2号機が着陸します。「へたくそな着陸だな」と話していたのは、例の写真3人組でした。そして、横付けされたタラップから乗客を降りてきます。


 太った男が降りてきたのですが、タラップと施設の階段で2度よろけます。その太った男こそ、実業家の柴だったのです。羽田刑事に近づき、毒づきます。「きみは刑事だろう?わしは爆破予告があったことを聞いてるぞ、何だ、この警備体制は?きみぐらいしか見当たらんじゃないか。署長に厳しく抗議しておく」


 柴がよろけた階段を調べていたのが、3人組の中で最も頼りなさそうに見える男でした。彼は刑事に気づき自己紹介します。「カメラマンの亜愛一郎です。雲を撮っていました。もちろん、DL2号機の着陸も撮っていますが・・・・」、羽田刑事はとりあえず、3人組の宿泊先を聞いておくことにします。宮前では最も安いホテルでした・・・・。

 

 翌日、羽田刑事は柴邸に向うことにします。激しい抗議を受けていたからです。しかし、またしても3人組と出会ったのです。彼らは、雲を撮っていると言います。「ここが最高の撮影ポイントなんです」と亜は言います。しかし、その時、血だらけの緋熊運転手が飛び出してきたのです。


 以下、結末まで書きますので、ネタバレとなります。


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 当時は携帯電話がありませんでしたので、柴の屋敷の電話を借りるため、亜の仲間が屋敷内に入ろうとします。しかし、止めたのは亜でした。そこに斧を振りかざして、柴が飛び出してきます。幸い、羽田刑事が柴を取り押さえました・・・・。


 亜たち3人も警察に同行を求められます。そこで、亜は柴が犯行に至った経緯を語ります。亜は一同に語りかけます。「あなた方がサイコロを転がし、仮に"1"の目が出たとします。次には何に賭けますか。

賭博師に多いパターンが、再度"1"に賭けるというものです。

冷静な人は、次の確率はいずれの目も1/6だと考えます。

最も多くの人が陥りやすい考え方が、"1"以外の目が出るというものです」


 そして、前説を終えた後、亜は柴の思考過程を語ります。「柴さんは、最後のパターンの人だったんです。

50年に一度の地震が発生したから、自宅を含めて工場も宮前に移設した。

爆破を通報したのも彼です。一度爆破予告をすれば、二度とする人はいないだろう。

さらに階段でよろめいたのも、一度転げそうになれれば、転げることはないだろう。

交通事故を起こしたばかりの緋熊さんを雇ったのも同じ論拠でした」


 さらに、今回緋熊を襲ったのは、誰かが襲われれば二度と殺人は起らないと考えたからだと付け加えます。


(蛇足) 多少(かなり?)無理はありますが、面白い短編です。誰しも持つ強迫観念をモチーフにしています。ところで、亜と同行していたのは、クライアントである地震学を専攻する大学教授でした。地震雲の観察をしていたのです。当時、余震も多発していましたので・・・・。