第6850回「サード 東陽一監督 寺山修司脚本 川上皓市撮影 感想、ストーリー、ネタバレ」 | 新稀少堂日記

第6850回「サード 東陽一監督 寺山修司脚本 川上皓市撮影 感想、ストーリー、ネタバレ」

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 第6850回は、「サード 東陽一監督 寺山修司脚本 川上皓市撮影 感想、ストーリー、ネタバレ」(1978年)です。東監督の劇映画デビュー作であり、永島敏行さんの実質デビュー映画です。記録映画を長年撮られてきた東監督らしいドキュメンタリー風の作品に仕上がっています。


 舞台は、首都圏に位置する架空の少年院です。主人公は少年院に送られる際に、海で闘う神輿の祭りを目にしています・・・・。映画そのものとしては映画教本ともいうべき優れた作品なのですが、日本映画史に残る傑作かと言いますと、疑念が残らざるを得ません。


 サードとは、主人公のあだ名です。少年院に送致される前、野球部でサードを守っていました。「上手くはないが下手でもない」、本人の評です。そして、サードを取り巻く数々の少年たち、一種の青春群像劇に仕上がっています。


「プロローグ 関東朝日少年院の一日」

 映画は、早朝の薄暗い少年院の廊下から始まります。整列させられた矯正中の少年たちは、点呼を取られます。少年たちの、氏名と収監された理由が赤字でテロップされます。婦女暴行、殺人、窃盗・・・・。点呼後、少年たちは食堂で朝食をとります。反省室に送られた少年には、トレイに載せて・・・。


 食事の後は、グラウンドでラジオ体操です。そして、班別の矯正プログラムに則り作業が科せられます。ある班では菜園作り、別の班では溶接作業・・・・。そして、夜になり、集団での入浴、少年院での一日が終わります。


「第一章 サードの一日」

 少年院の一日と同時並行で描かれています。


 サードこと妹尾新次(永島敏行さん)は、殺人で少年院送致になりました。母親(島倉千代子さん)が面会にきます。「悪い友だちと付き合ったから、こんなことになったのよ。恥ずかしいことじゃないわ、出院の日までには、仕事を探しておくから、戻っておいで」


 サードは母親に反発します。母親との会話は、サードに過去の記憶を蘇らせました。高校生活、そして、家庭裁判所審判部での決定、さらに移送中の思い出・・・・。汽車で最寄駅まで護送されたサードは、覆面パトカ―に乗り換え、この少年院にやってきました。


 パトカーは、群衆の中を徐行しながら通り抜けました。九月の秋祭りのシーズンだったのです。商店街の道路には、神輿だけでなく人々が溢れかえっていました。数台の神輿は、やがて海に入っていき、相争います・・・・。「出院すれば、この町まで走ってくるんだ。そして、町中を突っ走るんだ」、それがサードの夢になりました。


 反省室の中で、サードの一日は終わります・・・・。


「第二章 ボランティア団体SBCの慰問」

 三か月に一度、ボランティア団体が慰問に来ます。おばさんを含め若い女性も多数います。少年院に隔絶された少年たちにとっては、数少ない楽しみだったのです。談話室での会話と、ソフトボールに興じます。


 その日、後にⅡB(吉田次昭ささん)と呼ばれる少年が連れてこられました。髪をバリカンで刈られ、他の少年たちと合流します。「こんなところ嫌だ」、力なくⅡBはつぶやきます。あだ名の由来は、彼が唯一得意だったのが数学ⅡBだったからです。


 その夜、少年たちは、ボランティアの女性をオカズに手を動かしていました・・・・。


「第三章 サードの犯した罪と罰」(サードの長い追憶)

 サードの高校生活には閉塞感が漂っていました。そんな想いを抱いていたのは、彼だけではありませんでした。「このつまらない町を出るにも、お金が必要よ」と言ったのは、新聞部(あだ名、森下愛子)とテニス部(あだ名、志方亜紀子さん)でした。男女四人は、ペアになって売春を計画します。


 サードが組んだのが新聞部でした。サードの友人がテニス部とペアになります。サードと親友が客引きをしたうえ、新聞部とテニス部に斡旋することになります。しかし、新聞部もテニス部もまだバージンでした。童貞ふたりが頑張ります・・・・。


 ポン引きの手口は実に雑でした。最初は断られていたのですが、ついに最初の客が付きます。その深夜、「金はわたしが預かるわ」と言い出したのは、新聞部でした。その後、トラブルもなく客を取り続けます。男ふたりは、行為中は表で待機することにしていました。


 ある日のことです。「あの白い服の男がいいわ、声かけて」と言ったのは、新聞部でした。サードは、ヤクザに見えるから止めようと説得しますが、新聞部は聞き入れませんでした。三時間たっても、男の部屋から新聞部は出てきません。「見に行った方がいいぜ」と親友が言います。


 ドアをノックして出てきたのは、紋々が背中一面に彫られた男でした。「まだ、終わっちゃいねんだよ」、サードを殴打します。しかし、サードも敗けてはいませんでした。気が付けば、手近にあった鈍器で何度も殴打していました・・・・。サードは、裸の新聞部を連れて逃げ出します・・・・。


「第四章 脱走者と出院者」

 少年ふたりが仮退院します。「暴力に走りがちなわたくしが、この少年院にて矯正を図ることができました。模範的な社会人として今後生きていくことを誓います」(要旨)、と宣誓します。「雨がどんなに降ろうとも♪風がどんなに吹こうとも♪僕たちは負けないさ♪」(私の記憶)、少年たちが斉唱し、ふたりを見送ります。


 一方、脱走を図る少年もいました。畑からひとりが逃亡したのです。それにつられて、ⅡBも脱走します。ⅡBは簡単に捕まりました。そんなⅡBの頬をサードが張ります、「おまえには、覚悟が足りないんだよ」・・・・。最初に逃げた少年の身柄は、未だ確保されていません。


 外部講師の講演に反発したサードは、わざとオナラをします。反省室送りになります・・・・。


「最終章 走って、、走って、走りきるだけ」

 サードは、これまでに何度も、ホームベースがないため、延々とランニングする夢を見ています。悪夢とも言うべき夢です。


 懲罰の一部でしょうか、教官はサードとⅡBをグラウンドで走らせます。サードは次第にペースを上げます。彼の脳裏には、九月の町と呼んでいる秋祭りの光景が蘇ります。さらに力強く走り始めます。サードの足だけが映し出されます。長いワン・カットです、エンディング・ロールが流れます。


(蛇足) サードの幻覚でしょうか、ラスト近くにテニス部が反省室に現れます。「新聞部は結婚して出て行ったよ。私たちが稼いだ金を持って・・・・。あたしは、スーパーで働くことにした。いずれ優しかった客と結婚するつもりよ」