第6845回「乙一 失はれる物語 第7話 マリアの指 ストーリー、ネタバレ」 | 新稀少堂日記

第6845回「乙一 失はれる物語 第7話 マリアの指 ストーリー、ネタバレ」

 第6845回は、「乙一 失はれる物語 第7話 マリアの指 ストーリー、ネタバレ」です。110ページほどの中編です。高校二年生・鈴木恭介の"僕"という一人称で出来事が語られます。以下、恭介と表記させていただきます。恭介の両親事故のため亡くなっており、姉と二人暮らしです。


「プロローグ 鳴海マリアは殺されました」

 恭介は、自動車に何者かを残して、大学の研究室内に入っていきます。「大事な話があります。鳴海マリアさんは、自殺ではありません。殺されました、僕は犯人を知っています」


 物語は、マリアの死んだ夜に戻ります。その夜、失火の責任を押し付けられた野球部の後輩と一緒に花火をしました。場所は大原陸橋の近くでした。この陸橋では、飛び降り自殺がありました、下を電車が走っていたのです・・・・。しかも、田園地帯で人目もありません。花火には打って付けの場所でした。


 姉を誘うために、携帯で連絡を取りますが、すげなく断られます。しかし、野球部の後輩がもってきた花火は湿気ていました、火がつきません。その1分後でした、マリアが市街地の陸橋から飛び下りたのは・・・・。


「本編 マリアの指と指輪」

 マリアは特別な子でした。小さいころから美少女だったのですが、突飛な言動も繰り返していました。長じても凄い美人であることに間違いはありません。「彼女を目にした人は、男女を問わず必ず振り返るわ。でも、その後、目を伏せるの」、そう評する友人もいたのです・・・・。


 姉に連れられ、マリアの通夜に行きます。5歳違いの姉は働いていました。しかし、マリアが通う大学の研究室に足しげく顔を出していたのです。マリアの研究室仲間3人と姉は話し始めます。そんな姉を残して、恭介は先に帰ります。


 恭介にはマリアに対して特別な思い入れがありました。年上の女性に対する思慕だったかもしれません。亡くなった陸橋の近くで、マリアが何度か白猫を可愛がっているのを目撃しています。自然、恭介も猫と親しくなります・・・・。そんな白猫が、事故後3日ほど経った頃でしょうか、指をくわえて庭に入って来たのです。


 恭介は、マリアの指だと直感します。学校の理科室からホルマリン漬けのカエルの標本を持ち帰り、指をビンの中に入れます・・・・。ところで、マリアの死を警察は自殺だと断定しています。そんなある日、マリアが所属する研究室の仲間が線路上にいるのを目撃したのです。


 マリアの死体は粉々に轢断されていました。しかし、警察の鑑識の調べでは指の一本が見つかっていないとのことです。轢断された可能も否定していませんが・・・・。彼らが線路を調べていたのは、その指を探すためでした。指輪がはめられていた"はず"の指を・・・・。


 最も熱心だったのは、恋人とされている芳和(姓)という男性です。実にさえない、極めてマリアとは不釣り合いに思える男性でした。「あの夜、僕と付き合う気があるのなら、指輪をはめてきてほしい。そうでなければ・・・・」と言ったそうです。それだけに、指輪にこだわっていたのです。現場からは指輪は発見されていません。


 そうであれば、見つかっていない指にはめていたのではないか、芳和はそう考えていたのです。芳和の指輪探しは連夜続きます。それに付き合い続けたのが、恭介でした。指と指輪探しは、当然、電車の走っていない深夜に限られます。芳和はまだしも、恭介の学校生活にも影響が出始めます。部活にも参加していなかったのです。


 そして、日に日に体調がおかしくなります。「最近、クロスを張り替えたりしていないかい?きみの場合、シックハウス症候群に思えるんだが」、医者の診断でした。たしかに、マリアの指を入れているビンには破損が見られます。そこから、微量ながらもホルマリンが洩れているのではないか・・・・。


 芳和の指輪探しは未だに続いています。しかし、マリアの指を告白するタイミングは既に逸していました。そんな時に、恭介の脳裏に殺人の可能性が浮かんだのです。マリアを慕っていましたが、恭介も数々の噂を聞いています。マリアの心ない言動が、研究室のひとりを自殺に追いやったことも・・・・。「天罰よ、自業自得だわ」と言う女性もいました。


 以下、結末まで書きますのでネタバレになります。作者は、読者を唯一の犯人に誘導していきます。


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 恭介が疑問に思ったのは、殺人であるとすれば、なぜ市街地の陸橋で犯行を行ったか、ということでした。自殺者が出た大原陸橋であれば、ほとんど人通りがありません。あの夜、大原陸橋にいたのは、恭介と後輩だけでした。そして、姉に電話を掛けたことを思いだします。


 「事情は分かんないけど、姉さんがマリアさんを殺したんだ。犯行の痕跡を消すために痕跡のあった箇所をレールに乗せて・・・・。そして、切断した指もレールに乗せたと思うよ。あの夜、姉さんに電話を掛けた時には、既に殺していたんだ。大原陸橋にはぼくたちがいたから、危険を冒して市街地で死体を処分したんだ」


 その他についても、恭介は傍証を列挙して姉の犯行を裏付けます・・・・。最初は否認していた姉も犯行を認めます。「マリアは、私が愛した男性を死に追い込んだのよ」


「エピローグ 犯人は?」

 そして、冒頭のシーンに戻ります。恭介を自動車で送り続けた人物は姉でした。恭介はホルマリン漬けの指と姉が奪った指輪を持って、研究室で芳和に会います。そして、姉が犯した犯罪を語り、指と指輪を置いて帰ります・・・・。


 芳和は、ビンから指を取りだし、窓際に行きます。そして、切断された指に指輪をはめます・・・・。


(蛇足) 恭介は姉を警察に告発すると語っています。姉を弾劾した夜以来、姉は失踪しています。後味の悪さが残る中編です。


(追記) 短編集「失はれる物語」については、順次ブログに取り上げる予定です。

「Calling You」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-11640721624.html

「失はれる物語」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-11643304393.html

「傷」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-11644468209.html

「手を握る泥棒の物語」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-11651506400.html

「しあわせは子猫のかたち」http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-11655998569.html

「ボクの賢いパンツくん」 掌編ですので、最終話と一緒に書くことにます。