第5639回「劇場版 涼宮ハルヒの消失 感想、ストーリー、ネタバレ 石原立也総監督」 | 新稀少堂日記

第5639回「劇場版 涼宮ハルヒの消失 感想、ストーリー、ネタバレ 石原立也総監督」

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 第5639回は、「劇場版 涼宮ハルヒの消失 感想、ストーリー、ネタバレ 石原立也総監督」(2010年)です。劇場用アニメとしては、異例の長尺である163分です。普通の演出であれば、上映時間100分で収まる内容なのですが、それだけ丹念に描かれています。印象としては、きわめて感傷的で、抒情的です。


 ウィキペディアから、この映画に対する評価を引用しますと、『映画評論家の前田有一とは本作を高く評価しており、「まさに非日常を日常のように体感させてくれる斬新なアニメーション作品」「ちょちょいと作ってしまおうという安直さはまったく感じられない」「実写の日本映画でこれほどの演出技法を見る機会は極めて少ない」と語っている』と正に激賞です・・・・。


 原作は、谷川流さんのライトノベルなのですが、一筋縄ではいかないライトノベルに仕上がっています。数多くのSF小説を読んできたファンをも驚嘆させる設定が、数多く織り込まれているのです。私自身、このシリーズを読んだきっかけも、知人のSFファンからの奨めでした。


 ストーリーとその感想につきましては、既に2回に分けてブログに取り上げています。些細な設定変更はありますが、基本的なプロットの改変は行われていませんので、少し長くなりますが、再掲することにします。


 その前に、主要キャラクターであるSOS団のメンバーを簡単に紹介しておきます。


① キョン(写真中央 声:杉田智和さん)・・・・  妹からも、"お兄ちゃん"とか名前ではなく、あだ名のキョンと呼ばれる高校生です。彼の"一人称"で物語が進ます。映画の終盤では、彼の長台詞が続きます・・・・。


② 涼宮ハルヒ(右側から2番目 声:平野綾さん)・・・・ SOS団の団長、西宮に降臨した"唯一神"ですが、当人はそのことを知りません・・・・。


③ 朝比奈みくる(写真右端 声:後藤邑子さん)・・・・ ハルヒを監視させるために、未来から送られてきた時間旅行者です。女子高生と成人女性の2バージョンがあります。


④ 長門有希(左から2番目 声:茅原実里さん)・・・・ シリーズの途中から主人公のハルヒを喰っている人気キャラクターです、ある意味、この映画では主人公な存在です。宇宙知性体が、ハルヒの暴走を食い止めるために、生体アンドロイドとして送り込んできました。キョンにとってもSOS団にとっても、最も頼りになる団員です。


⑤ 古泉一樹(写真左端 声:小野大輔さん)・・・・ 限定的超能力者、ハルヒが彼を気に入ったのは、転校生だというのが理由です・・・・。ハルヒが作る異次元空間を封印するために、"機関"から送られてきました。


 『 世界が12月18日を境に、すべてが変わった・・・・・、元の世界の記憶を持つ者は、ただ"俺"のみ、という展開です。すべてが変わったといっても、極端に変わったわけではありません。ほんの少しずつ変わったのです。


 このような現象を扱ったSFは、「パラレルワールド(多次元世界)」ものとか、「タイム・パラドックス」ものと呼ばれています。"俺"の置かれた状況を説明する仮説は、多くあるかと思いますが、代表的なものを挙げますと、


1. "俺だけ"が並行世界に跳び込んでしまったと言う設定です。代表作品としては、「リアル鬼ごっこ」(※)が挙げられます。その小説では、主人公・佐藤が並行世界にワープします。そこは、全国の佐藤さんが狩られるという世界でした。


2. 世界がある"もの"によって、強制的に改変させられたとする設定です。歴史にイフはありません。それは、過去へのタイムトラベルは不可能だからです。ですが、SFの設定は自由自在です。しかし、自由に条件設定できるとはいえ、一旦設定された条件から逸脱することは出来ません。このジャンルのSFは数多く出版されました。


3. 最も単純な説明があります。いわゆる"夢落ち"です。すべては"俺"の夢だった、読者が怒りそうな解決です。ですが、落語を含め、数多くの作品があります。ですが、このシリーズはハードSFではありませんが、本格的なSF路線を踏襲しています。


 "俺"が、飛び込んでしまった世界から元の世界に戻るには、それぞれ方法が異なります。

 "1"(並行世界)の場合には、元の世界にワープする方法を見出す必要があります。

 "2"(歴史改変)の場合には、歴史の改変時点にまでもどり、その原因を除去する必要があります。

 "3"(夢落ち)の場合は簡単です。「キョン、いつまで寝てるの、起きなさい。団長命令よ」で、解決します。


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 物語は、SОS団の部室から始ります。


(マイナス 2日) ハルヒは、クリスマス・パーティ開催を宣言します。部室でクリスマス・パーティを開くというのです。


(マイナス 1日) 俺は、"アホ"の谷口に、SОS団のパーティについて話します。(同級生の)谷口は、クリスマス・イブには、近くの女子高の生徒とデートだと豪語します。そして、あくる朝、・・・・。


(異変後 第1日) 登校した谷口は風邪のためマスクをしています。デートの話も否定します。"俺"の後の席には、ハルヒではなく、委員長の朝倉が座っています。朝倉は、"俺"を殺そうとし、長門有希に消去されたはずなのですが・・・・(『憂鬱』)。


 異変はそれだけではありません。古泉がいた1年9組の部屋自体が消えていたのです。当然、古泉は学校に在籍していません。それだけでなく、ハルヒも在籍していません。朝倉みくるさんは、"俺"を知りません。そして、長門有希さんも、"俺"を知らないと言います。しかも、元のめがねっ子に戻っています。


 "俺"は気が狂ったのでしょうか、最も簡単な説明です。ですが、やはり解決のキーは、有希にあるように思えます。何度も助けてくれたスーパー・ウーマンです。"俺"の闘いが始まります・・・・。


(異変後 第2日、12月19日) 事件(?)を解決に導ける人物は、有希以外にいません。わらをもつかむ気持ちで、再度文芸部の部室に行きます。そこは、もはやSОS団の面影はありません。"俺"は、有希が以前薦めてくれた一冊のSF大作(灰べりオン・シリーズの一冊)を手に取ります。そこから、栞(しおり)が落ちてきます。過去にもあったことです。


 その時のメッセージは、『午後七時。光陽園駅前公園にて待つ』です。異変後のメッセージは、『プログラム起動条件・鍵をそろえよ。最終期限二日後』です。鍵を探せといわれても、・・・・・。その日、"俺"は、有希のマンションに行きます・・・・。


(異変後 第3日、12月20日) 俺は、谷口からハルヒが駅近くの"女子高"に通っていると聞きます。異変後の世界でも、東中時代、有名人だったのです。


 早退した"俺"は、女子高に向かいます。この世界では、男女共学の進学校になっていました。ハルヒは簡単に見つかります。ですが、その傍らには古泉が・・・・。"ジョン・スミス"というキーワードが、ハルヒの態度を変えます。3年前、七夕の夜、俺がハルヒに名乗った偽名です(『退屈』中の『笹の葉ラプソディ』)。


 ですが、ハルヒはさらに言います。別れた後、『世界を大いに盛りあげるためのジョン・スミスをよろしく!』と、"俺"が言ったというのです。俺にそんな記憶はありません。"俺"たち3人は、喫茶店で、俺の体験を話します。ハルヒの"神"としての能力は消えていますが、性格はそのままです。興味津々です。


 そんな興味津々のハルヒは、北高に乗り込むといいます。そして、SОS団の5人を部室に集めます。その時、パソコンが自動的に起動したのです。有希からのメッセージです。画面には、『これをあなたが読んでいる時、わたしはわたしではないだろう』


 さらに、『このメッセージが表示されたということは、そこにはあなた、わたし、涼宮ハルヒ、朝比奈みくる、古泉一樹が存在しているはずである』、 『それが鍵、あなたは解答を見つけ出した』と続きます。最後に、エンターキーを打てば、世界は再度改変の方向に、その他のキーを打てば、世界はこのままだと告げます。


 以下、最後まで書きますので、ネタバレになります。


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 渡されていた文芸部の入部届けを有希に返します。そして、エンターキーを打ち込みます。世界は暗転します・・・・。


(マイナス 3年前、7月7日) 気付くと、ハルヒを含めて誰もいません。"俺"は、コンビニに駆け込みます。新聞の日付を確認します。"俺"とハルヒがはじめてあったあの七夕の夜だったのです。公園に向かいます。「笹の葉ラプソディ」に書いたブログから一部再掲します。


 『 ・・・・ 記憶がとぎれます。そして、目覚めます。しかし、先に目覚めていたみくるはすぐに眠ります。現われたのは、成長後の大みくるです。大ミクルは、"俺"に東中に行き、ひとりの生徒を助けるようにと言い、姿を消します。眠った小みくるを背負い、東中のゲートに行くと、ひとりの少女がいます。中学1年生(3年前)の涼宮ハルヒです。校庭に入っていきます。・・・・ 』


 "俺"は、約半年前の"俺"の後を追わず、大みくるの後を追います。そして、"俺"と大みくるは、この状況について、話し合います。校庭に巨大落書きを終えて帰ろうとしているハルヒに、『世界を大いに盛りあげるためのジョン・スミスをよろしく!』と言った後、"俺"たちが向かったのは、有希のマンションでした・・・・。


 マンションに入りますが、隣の部屋には入れくれません。半年前の"俺"と小みくるが、部屋ごと時間凍結されているためです。長門有希は、解決方法を提示してくれます。さらに、世界変換の犯人の名前を告げます・・・・。


(ゼロ時点 12月18日) "俺"と大みくるは、3年後の12月18日早朝の北高近くにジャンプします。"修正プログラム"は、拳銃の形で撃ち出す仕組みになっています。撃つタイミングは、犯人が世界を改変した直後です(何故そのタイミングなのか、"俺"にも解りません)。


 世界を改変した犯人が現われます。長門有希です。すべて、有希が行ったのです。有希のプログラムにはバグが蓄積していました。ハルヒをめぐる事件の解決のため、有希もストレス(バグ)が溜まっていたのです。ですが、ハルヒが無力化された世界を望むかどうかの選択は、"俺"に任せたのです。そのため、"俺"だけを元のままにしていたのです。


 強大な時間震が発生します。修正プログラムを射出すべきタイミングが来たのです。俺は、躊躇します。 (ここからは、ライトノベル的なウェットな描写が続きます)  その時、委員長の朝倉が現われたのです。朝倉はナイフを振りかざします。俺は、刺されます。乱闘の中、一瞬、小みくるを見かけたのですが、俺は、昏倒します・・・・。


(回復後の世界 12月21日) 病院の個室で、"俺"は目覚めます。12月18日に、階段から転落し、後頭部をうったとのことです。外傷はありません。ハルヒは、泊り込みで見舞っていたようです。俺は、朝倉出現時の出来事を思い出します。後の時間軸の"俺"と小みくると有希の3人が、あの事件に立ち会っていたのです。


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 深夜、長門有希が、病室に現われます・・・・。映画では、病院の屋上で話し合います。燃えるような西宮の夜景が映し出されます。そして、雪が舞ってきます・・・・。美しい映像です。


(回復後の世界 12月24日) 終業式も終わりました。とりあえず、SОS団のパーティです。"俺"とみくると有希の3人は、もういちど12月18日の早朝に行く必要があるのですが、とりあえずパーティを楽しむことにします・・・・。 』


 エンディング・ロールが表示された後、図書館の館内が映し出されます。長門有希が本を読んでいました・・・・。

 

(補足) 写真は、原作のカラー口絵から引用しました。