第4868回「名探偵ポワロ中短編、その30、クレタ島の雄牛、ネタバレ」(ヘラクレスの冒険)
第4868回は、「名探偵ポワロ中短編、その30、クレタ島の雄牛、ネタバレ」(ヘラクレスの冒険)です。クレタ島の牡牛は、迷宮(ラビリンス)にも少なからず関与するエピソードです。ウィキペディアから一部引用します。
なお、短編集「ヘラクレスの冒険」に関するブログでは、ウィキペディアから神話部分を引用しています。ウィキペディアでは、一般に馴染みのない「へーラークレス」のように長母音表記となっています。そのため、一般的な表記に改めました。御理解いただきたいと思います。
『 ・・・・ そこでポセイドンは海中から美しい牡牛を送ったが、ミノスはこの牡牛をポセイドンに捧げると誓っていたにもかかわらず、牡牛の美しさに惹かれて自分の家畜に加え、別の牡牛をポセイドンに捧げた。ポセイドンは怒って牡牛を凶暴にして暴れさせ、またミノスの妻パーシパエーに牡牛への異常な恋を芽ばえさせた。
恋に苦しんだパーシパエーが工匠ダイダロスに相談すると、ダイダロスは内部が空洞になった牝牛の木像を制作したので、パーシパエーはその中に入って思いを遂げた。その結果、パーシパエーは牡牛との間に牛頭の子ミノタウロスを生み、ミノスはこの奇怪な子を隠すため、ダイダロスに迷宮ラビュリントスを建設させた。
その後、ヘラクレスはエウリュステウスにクレータの牡牛を捕らえることを命じられたので、ミノスのところにやって来て協力を求めたが、ミノスは1人でやれと言った。そこでヘラクレスは牡牛と格闘して捕らえ、エウリュステウスのところに連れて行って見せた後、放逐した。・・・・ 』
40ページほどのこの短編は、精神異常をモチーフとしています。精神科医は信頼に値するか、登場人物は即座に否定します・・・・。
「ヘラクレス第7の功業 クレタ島の雄牛」
誇り高い女性が、おどおどとポワロの事務所を訪れます。身なりから判断すると、自由に使える金はさほどないようですが、育ちの良さは窺(うかが)えます。ポワロは、期待できる事件だとワクワクします・・・・。
ダイアナ・メイバリーだと自己紹介した女性は、最近婚約を破棄されたと訴えます。婚約していたのは、ヒュー・チャンドラー24歳でした。エリザベス1世以降の名家の子弟です。父親のチャンドラー海軍大将は、ライド・メイナーに先祖伝来の地所を持っていました。
一方、隣接地にチャンドラー家に劣らない地所を所有していたのが、メイバリー家でした。ふたつの家がひとつになれば・・・・、それが結婚のひとつの理由でした。ところが、チャンドラー家では、代々、隔世的に"精神異常者"が発生していたのです。
その徴候に気付いたからでしょうか、父親の海軍大将は、ヒューに海軍を辞めさせたのです。当時、ヒュー本人は不本意に感じていたのですが・・・・。退官後、ヒュームの異常が始まったのです。朝起きると血だらけになっていたのです。羊が殺されていました。その間の一切の記憶は飛んでいます。
しかも、羊殺しは一度に止まらず、深夜の虐殺は他の動物にも及びました。ダイアリーの依頼は、藁をもつかむ思いでした。ただ、ヒューも父親も、精神科医に診てもらうことを拒否しています。名門としてのプライドだけでなく、精神科医に対する不信感もあります。
大変な興味を持ったポワロは、ライド・メイナーに向います。この短編の主要登場人物は5人です。依頼者ダイアナを除き紹介いたします。
① チャールズ・チャンドラー・・・・ 海軍大将(提督)、ヒュー(③)の父親です。妻のキャロライン(②)とは、ヒューが幼少の頃に死別しています。慢性の眼疾に悩んでいるようです。
② キャロライン・チャンドラー・・・・ チャールズ(①)の妻、ボートで事故死しました。その時、同乗していたチャールズは助かったのですが、彼女は亡くなっています。遺された肖像画から判断すると、大変な美人です。
③ ヒュー・チャンドラー・・・・ チャールズ夫妻(①、②)の唯一の息子です。母親を幼時の段階で失くしています。ダイアナと婚約していたのですが、度重なる狂気のため、一方的に解約を申し入れています。ヒューの狂気は、精神異常を遺伝したためなのでしょうか・・・・。吹き出物に悩んでいます。そのため、最近は、シェープローションを使っています。
④ フロビッシャー大佐・・・・ 海軍大佐、永年にわたりチャンドラー家とは友人として付き合ってきました。そのため、年に半分ほどはチャンドラー家で過ごしています。どうも、キャロライン・チャンドラーに恋していたようです。インドでの従軍経験もあります。生涯、独身を続けています。
そして、今度殺されたのは猫でした。ヒューは血だらけで倒れていましたが、一切記憶がないと証言します。ヒューは、ただひとり猟銃室に向います・・・・・。以下、最後まで書きますのでネタバレになります。
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ヒュー(③)は、プライドの高い男でした。精神科医の診察を拒否したのは、精神異常者として檻の中で一生を過ごすことを怖れていたからです。先祖には、そういう惨めな一生を終えた長寿者もいました。銃を手に取ります・・・・。そんなヒューを押し止めたのが、ポワロでした。一緒に応接室に戻ります。そして、事件の全容を語り始めます。
ポワロが注目したのは、チャンドラー夫妻(①、②)とフロビッシャー大佐(④)との関係と、フロビッシャー大佐のインド体験です。ヒューの一時的記憶喪失を、点眼薬に使われている硫酸アトロピンに結びつけたのです。ベラドンナとかチョウセンアサガオなどに含まれています。当然、インドにも・・・・。アルカロイド系の劇薬です。
そして、キャロラインを巡る三角関係です。フロビッシャーは、自分が疑われていることを知り、強く抗弁します。しかし、ポワロは別の人物を指摘したのです。チャンドラー提督でした。ヒューが成長するにつれ、フロビッシャーの特徴が色濃く現われてきたのです。そして、事故を装い妻を殺します・・・・。さらに、不倫の子を抹殺しようとしたのです。
ここまで聞かされたチャンドラー提督は、憤然として兎狩りに行くと言い出します。追いかけようとするフロビッシャー大佐を止めたのは、ポワロでした。「これが最善の解決なのです」、一発の銃声が轟きます・・・・。
(蛇足) チャンドラー大佐が、ヒューを精神科医に診せることに反対したのは、万一、ヒューが正常だとバレることを怖れたためです。ですが、そのような精神科医は、イギリスにも日本にも存在しません。
年間3万人に及ぶ日本の自殺者のうち、60~70パーセントは、うつ病が引き金になっていると言われています。ですが、精神科医は無力です。ただ、抗うつ剤を渡すだけの存在となっています・・・・。
ところで、提督はヒューにアトロピンを投与するため、シェープローションに混入しました。そして、シェープローションを使うたびに、ヒューは昏倒することになります・・・・。
(補足) 2枚の写真は、ウィキペディアから引用しました。
(追記) 「ヘラクレスの冒険 全12編」は、スーシェ主演ではドラマ化されていません。なお、名探偵ポワロ・シリーズについて、過去に書いたブログに興味がありましたら、お手数ですが、ブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に"名探偵ポワロ"と御入力ください(ポ"ア"ロでは、一部しか検索できません)。