第4861回「名探偵ポワロ中短編、その26、アルカディアの鹿、ネタバレ」(ヘラクレスの冒険) | 新稀少堂日記

第4861回「名探偵ポワロ中短編、その26、アルカディアの鹿、ネタバレ」(ヘラクレスの冒険)

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 第4861回は、「名探偵ポワロ中短編、その26、アルカディアの鹿、ネタバレ」(ヘラクレスの冒険)です。アルカディアの近くにケリュネイアという地があり、女神アルテミスの黄金の角を持つ鹿が放たれていました・・・・。


 『 このケリュネイアの鹿は女神アルテミスの聖獣で黄金の角と青銅のひづめを持っていた。4頭の兄弟がおり、アルテミスに生け捕られ、彼女の戦車を引いていたが、この5頭目の鹿は狩猟の女神をもってしても捕らえる事ができないほどの脚の速さを誇った。


 女神から傷つけることを禁じられたため、ヘーラクレースは1年間追い回した末に鹿を生け捕りにした。その後この鹿はアルテミスに捧げられ、他の4頭とともに戦車を牽くこととなった。 』(ウィキペディア)


「第3の功業 アルカディアの鹿(ケリュネイアの鹿)」

 ポワロは、お抱え運転手の運転で、自動車で旅していました。ところがエンジントラブルを起したのです。仕方なく、自動車が修理されるまで、粗末な旅籠で過ごすことにします。粗末な食事中にやってきたのが、自動車修理工でした。


 テッド・ウィリアムソンと名乗った青年は、まさしくギリシア神話の神々を思わすほどの美貌をしていました。彼がわざわざポワロの元を訪れるには理由がありました。修理の件ではなく、恋人を探してほしいというのです。ポワロが人探し?、という展開です。


 テッドがニータという女性と会ったのは、ジョージ・サンダーフィールド卿の別荘でのことでした。修理の件で伺ったのですが、別荘にいたのは彼女だけでした。テッドは、ひとめぼれします・・・・。勇気をだしてデートに誘います。午後なら大丈夫だということで、楽しい時間を過ごしました・・・・。「ニータは、金の翼のような髪をしていた」、テッドは彼女をそう評します。


 再会を約束したのですが、次に別荘に行った時にはいませんでした。彼女は、ロシア人バレリーナの召使いをしていたのですが、マリーという感じの悪い女性が召使いになっていました。解雇されたのです。雰囲気からするとフランス人かも知れません。「見つけ出してくれましたら、ボクはニータと結婚するつもりです」


 テッドは、マリーからニータの姓と住所を聞きだしていましたので、一度手紙を出しています。ですが、宛先人不明で送り返されました。わずかな手がかりで、ポワロは「第3の功業」に挑むことになりました。ニータの住所だとされたアパートにも行きますが、目ぼしいことは分かりません。


 ニータ・ヴァレッタは、カトリーナ・サムシェンカというバレエ・ダンサーの召使いをしたというところまで突き止めますが、肝心のバレリーナは、体調を崩しパリに行ったようです。ジョージ卿に会いに行きますが、マリーの名前を出しただけで、彼の表情が凍りつきました。何か、マリーとあったようです。


 マリーにも会いますが、新情報は得られません。全く感じの悪い女です。ポワロは、意外に手間取らされることに驚きを禁じえませんが、捜査を続けます。貴重な情報を得たのは、亡命貴族のパヴロヴィッチからでした。現在ではロシア・レストランを経営しています。芸術家情報に詳しい人物です。


 「カトリーナ・サムシェンカは偉大なダンサーだ。惜しいことに、今ではスイスのサナトリウムで療養している。召使いのニータ・ヴァレッタ?、たしか故郷のピサに帰ったと記憶している」、ポワロはパリからイタリアのピサに移動します。しかし、彼女は亡くなっていたのです。


 以下、最後まで書きますので、ネタバレになります。


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 ピサで、ニータの死を確認したポワロですが、ひとつ腑(ふ)に落ちないことがありました。ギリシア神話を具現化したようなテッド青年は、ニータを「金の翼のような髪をした女性」と表現していたのです。ピサで亡くなった女性とはイメージが異なります。


 ここまで、イギリスだけでなく大陸を縦断してきたポワロですが、最後の旅に出ます。ニータを雇っていたカトリーナ・サムシェンカが入院しているスイスのサナトリウムに向ったのです。彼女と会った時に、すべての疑問は氷解しました。彼女こそ、黄金の翼の髪を持った女性だったのです。


 カトリーナは、病気のためにバレエ・ダンサーとして道を断念しました。テッドが別荘を訪れたあの日、遊山のために誰もいませんでした。病気であったカトリーナは、来客の用件を聞くために、ドアを開けました・・・・。こうして、テッドの恋が始ったのです。召使いだと名乗ったカトリーナにとっても、病気のことを忘れられる楽しいひと時でした。


 絶望する彼女に、ポワロは言います。「あなたは、田舎の自動車修理工と結婚したらどうですか。たくさんの子どもを生むのです。そして、その子どもたちに、かつて踊っていたあなたの素晴らしいバレエの全てを伝えるのです・・・・」


 テッドとカトリーナが結ばれることを暗示して、物語は終わります。


(補足) イメージとして使った2枚の写真は、ウィキペディアから引用しました。ポワロは、カトリーナの舞台を見ています。


(追記) 「ヘラクレスの冒険 全12編」は、スーシェ主演ではドラマ化されていません。なお、名探偵ポワロ・シリーズについて、過去に書いたブログに興味がありましたら、お手数ですが、ブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に"名探偵ポワロ"と御入力ください(ポ"ア"ロでは、一部しか検索できません)。