第4841回「名探偵ポワロ中短編、その20、スペイン櫃の秘密、ネタバレ」(CPの冒険) | 新稀少堂日記

第4841回「名探偵ポワロ中短編、その20、スペイン櫃の秘密、ネタバレ」(CPの冒険)

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 第4841回は、「名探偵ポワロ中短編、その20、スペイン櫃の秘密、ネタバレ」(CPの冒険)です。スペイン櫃について、クリスティは若干の説明を加えています。日本の長持のような物でしょうか。このエピソードに登場する櫃には、多数の装飾が施されています。


「その20 スペイン櫃(ひつ)の秘密」

 新聞報道によれば、極めて単純な事件に思われました。リッチ少佐は、5人の客を自宅マンションに招待し、ホーム・パーティを開きました。ですが、招待客のひとりクレイトン氏は、所用のため、直前に参加を見合わせます・・・・。


 ところが、翌朝、召使いが出勤してくると、スペイン櫃の底から、大量の血が流れ出していたのです。蓋を開けると刺殺されたクレイトン氏が発見されました。召使いは、警察を呼びます・・・・。逮捕されたのは、マンションのオーナーであるリッチ少佐でした。


 逮捕理由は、リッチ少佐と召使い以外に、クレイトンの死体を持ち込むなど不可能だからです。ですが、召使いに動機はありません。一方、リッチ少佐は、第三者の目から見ましても、クレイトン夫人を愛していました。ポワロとしても、新聞情報から判断せざるをえないため、これ以上の考えは浮かびません。


 そんな時に、クレイトン夫人が、ポワロのマンションを訪ねて来たのです。依頼内容は、もちろん、リッチ少佐の無実を証明することでした。ポワロは、この事件を引き受けます。ポワロは、残りの事件関係者4人から事情を聞くことにします。


 ここで、当日パーティに出席(あるいは出席を予定していた)した6人を紹介しておきます。

① チャールズ・リッチ少佐・・・・ 典型的な軍人です。明らかに、マーガリータ(③)を愛しています。彼は、翌朝召使いに教えられるまで、死体に気付かなかったと証言しています。では、誰が、スペイン櫃の中にクレイトンの死体を入れたのでしょうか。現在、警察によって拘束されています。


② アーノルド・クレイトン・・・・ この事件の被害者、優秀な大蔵官僚です。当日は、個人資産の関係で出席できなくなったとリッチ少佐に話しています。パーティの始る前にリッチ少佐のマンションに立ち寄っていますが、そののまま駅に向いました。クレイトンがパーティに出られなくなった直接の原因は一通の電報ですが、その電報を誰も見た者はいません。


③ マーガリータ・クレイトン・・・・ 被害者の妻であり、容疑者・リッチ少佐(①)の無実を立証してほしいとポワロに依頼しています。美人であることに間違いないのですが、さほど際立った美人というわけでもありません。ただ、男を惹き付ける魅力には長(た)けているようです、しかも、天然で・・・・。そのことが、リンダ(⑤)など、他の女性の反発を買っています。


④ ジェレミイ・スペンス・・・・ 小役人です、明らかに事件を詮索されることを嫌っています。凶器となったイタリア剣は、彼のもの?


⑤ リンダ・スペンス・・・・ ジェレミイ(④)の妻、痩身型の現代的な美人です。マーガリータを酷評します。「美人というのではありませんが、彼女には何かあります。あらゆる男を振り向かせて、それで、何って表情をします。それが男を狂わせるんです」


⑥ マクラレン大佐・・・・ 誇り高い軍人です。寡黙なタイプですので、ポワロは、しゃべらせるのに苦労します。リンダ(⑤)をおしゃべりだと酷評します。マーガリータ(③)とは、彼女が16歳の時からの付き合いです。


 ポワロは、捜査担当者であるミラー警部にも話を聞いています。ポワロとミラー警部は、日頃から、お互い好きになれません・・・・。ポワロの新たな視点を切り拓いたのは、リッチ少佐の召使いバージェスでした。バージェスは、遺体発見時の状況を、現場で直に説明します。


 ポワロが注目したのは、遺体の入れられていたスペイン櫃(ひつ)と衝立の位置関係でした。さらに、穴があけられていることにも気付きます。バージェスの観察では、事件当日に、衝立が微妙に動かされていたと・・・・。「遺体をスペイン櫃に入れられた人物は、リッチ少佐と召使いのふたりだけだ」と考えていたポワロに、第三の視点が浮かび上がります。


 以下、最後まで書きますので、ネタバレになります。


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 ポワロは、男性であるクレイトン(②)が殺されたのですが、この事件を「オセロ」になぞらえます。イアーゴの姦策よって、妻への嫉妬を吹き込まれた黒人将軍オセロは、デスデモーナを殺してしまいます。ですが、妻の潔白を知ったオセロは、自決します・・・・。


 ポワロが言いたかったのは、この事件には、根拠のない噂を煽った人物(イアーゴ)と、それに乗せられていた人物(オセロ)がいたということでした。オセロは、クレイトン氏だったと言います。切れ者の財務官僚が、イアーゴに乗せられ、自らスペイン櫃の中に入って、パーティの様子をうかがっていたのです。


 そのために、のぞき穴もあけていました。妻が万一、自宅に帰らず、リッチ少佐(①)宅に泊まれば・・・・。ですが、イアーゴは、抵抗のできないクレイトン氏を、パーティ中に一刺しにしたのです。イアーゴは、微妙に衝立を動かし、目隠しのために使いましたが、召使いの眼を逃れることはできませんでした。


 ここで、ポワロはイアーゴの正体を明かします。ずばり、マクラレン大佐(⑥)だと・・・・。ミラー警部は、決定的な証拠に欠けると反論します。ポワロは、即座に再反論します。「証拠など要らないさ。大佐は、このことをマーガリータに知られることを最も怖れている。私の推理を話せば、大佐は自白するさ」


(補足) 絵画「オセロとデスデモーナ」は、ウィキペディアから引用しました。


(追記) 短編につきましては、デアゴスティーニ社の「1話1巻」方式に不満を感じていますので、購入は差し控えています。場所を取るだけに、「2話1巻」方式で出してもらいたかったというのが本音です。


 なお、スーシェ主演でドラマ化された作品につきましては、短編についても、原作に基づき、以降順次取れ上げていくつもりです。過去に書いたブログに興味がありましたら、お手数ですが、ブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に"名探偵ポワロ"と御入力ください。