第4802回「名探偵ポワロ中短編、その5&6、西部の星盗難事件ほか、ネタバレ」(ポアロ登場) | 新稀少堂日記

第4802回「名探偵ポワロ中短編、その5&6、西部の星盗難事件ほか、ネタバレ」(ポアロ登場)

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 第4802回は、「名探偵ポワロ中短編、その5&6、西部の星盗難事件ほか、ネタバレ」(ポアロ登場)です。ハヤカワミステリ文庫では、"ポワロ"はポアロと表記されていますが、以降"ポワロ"で統一させていただきます。


 第一短編集「ポワロ登場」には、14編の短編が収録されています。短めの短編で構成されていますので、謎の提起から解決まで一挙に展開します。そのため、後に生まれた独得の雰囲気には乏しいというのが実情です。2話ずつ、紹介していきたいと思います。


「その5、"西部の星"盗難事件」

 "西部の星"とは、"東洋の星"と並び称せられる有名なダイヤモンドです。依頼者は、アメリカのムービー・スター、メアリー・マーヴェルです。映画ロケのために、やはり俳優である夫のロルフと共にイギリスにやってきたのですが・・・・。


 マーヴェルは夫から"西部の星"をプレゼントされています。その稀代のダイヤモンドが、盗まれるというのです。『あの大きなダイヤモンドは神の左目なのだから、もとのところに戻らなければならない』(小倉多加志氏訳)という脅迫状が届いたと言うのです。


 もちろん"神の右目"とは、"東洋の星"です。その東洋の星の所有者であるヤードリー家の猟場で、マーヴェルとロルフは、映画のロケに行くというのです。当のヤードリー夫人は、アメリカ滞在中に、ロルフとスキャンダルが生じています・・・・。ポワロとヘースティングス大尉は、ヤードリー猟場に行きます。


 盗難が危惧される中、事件は発生しました。ヤードリー夫人がつけていた"東洋の星"が強奪されたのです。夫人は犯人を目撃していました。「中国人のようでした」、ヤードリー家も脅迫されていたのです。ロルフとマーヴェルは、ロンドンに帰ります。そして、・・・・。中国人がロルフの名前を騙(かた)って、"西部の星"を奪ったのです。


 ヘースティングス大尉は、ポワロの失敗を非難します。ですが、ポワロは平然としていました。以下、最後まで書きますので、ネタバレになります。


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 「中国人など、元々存在しないし、ダイヤモンドもただ一個しかなかった」、どういうことでしょう、西部の星と東洋の星は、一対のはずですが・・・・。ポワロは説明します。


 「ヤードリー家が保管していたダイヤモンドは、アメリカ時代のスキャンダルをネタに、ロルフに脅し取られていたんだ。ヤードリー夫人は、現在まで偽物でごまかしていた。一方、ロルフはマーヴェルにそのダイヤを"西部の星"としてプレゼントしたんだ。


 ところが、このポワロが事件に介入したために困ったのが、ヤードリー夫人だ。"東洋の星"が偽物だとばれてしまう・・・・、そこで、中国人に盗まれたという狂言をうったんだ。一方、ロルフもあせった、"東洋の星"を脅し取ったことが分かってしまう・・・・。そう考えた俳優であるロルフは、中国人に変装して"西部の星"を詐取されたことにしたんだ」(要旨)


 勝ち誇っていたヘースティングス大尉は、ぺしゃんこになります(ヘースティングスの一人称で書かれています)。"西部の星"の盗難は不必要だと思うのですが・・・・、ただ、保険金は入ります。


「その6 マースドン荘の惨劇」

 保険金詐欺は、探偵としては、最もリアリティのある調査です。高額の保険金に入っていた男性が不審死を遂げたのです。当時のイギリスでも、契約成立から1年以内に自殺した場合には、保険会社は免責されます。また、保険の受取人が、重過失とか故意に被保険者を害した場合にも免責されます。


 マースドン荘に住むモールトレイヴァーズは、中年の壮健な男性です。若い妻をめとっており、財務状況は破産寸前でした。保険会社は、若い妻のために、保険金が下りるように自殺したのではないかと考えました。そのため、ポワロに調査を依頼したのです。故人は、口から出血していましたが、地元医師の診断では、死因は心不全とされています。


 「人間に限らず心臓を持つ動物は、心臓が機能しなくなれば、原因の如何を問わず、死んでしまう。心不全とは、要するに死因が分からないことを表明したに過ぎない」(要旨)、医師であり作家でもある海堂尊氏は、多数の著作で、「死因不明社会」を力説しています・・・・。


 ほとんど自然死だと思われたのですが、ポワロは人々に聞き込みを始めます。そして、有力な情報を聞き出します。アフリカ帰りのブラック大尉は、モールトレイヴァーズ夫妻に、カラス撃ち銃で自殺した男の話をしたと言うのです。


 検死したアフリカ在住の医者も、わずかな出血だけで、弾丸が脳内にとどまっていたために、銃による自殺だと断定できなかったというのです(検死解剖すれば別ですが)。ポワロは、犯人と方法を突き止めます。犯人はモールトレイヴァーズの若い妻でした。


 「大尉の話を、実際に見せてよ」、もちろん夫に引き金を引けとは頼んでいません。夫に、カラス撃銃を足で固定させた上で、口に銃口をくわえさせます・・・・。その状態で、引き金を引いたのは、若い妻でした。怖い妻です。


(追記) 短編につきましては、デアゴスティーニ社の「1話1巻」方式に不満を感じていますので、購入は差し控えています。場所を取るだけに、「2話1巻」方式で出してもらいたかったというのが本音です。


 なお、スーシェ主演でドラマ化された作品につきましては、短編についても、原作に基づき、以降順次取れ上げていくつもりです。過去に書いたブログに興味がありましたら、お手数ですが、ブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に"名探偵ポワロ"と御入力ください。