第4354回「ブラウン神父、その48、共産主義者の犯罪、ストーリー、ネタバレ」(醜聞) | 新稀少堂日記

第4354回「ブラウン神父、その48、共産主義者の犯罪、ストーリー、ネタバレ」(醜聞)

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 第4354回は、「ブラウン神父、その48、共産主義者の犯罪、ストーリー、ネタバレ」(醜聞)です。最終短編集が書かれたのは、1930年代です。20世紀は、壮大な社会実験であるロシア革命からはじまり、ソビエト連邦の崩壊で終わりました。当然、チェスタトンは、ボルシェビズムに脅威を感じていました。


 写真は、19世紀に活躍したウィリアム・モリスです(写真は、ウィキペディアから引用)。イギリスの共産主義者として有名ですが、父親が投機で資産を形成しており、モリス本人も多士済々の人物だったようです。詩も書いていますし、デザインの分野では、「モダンデザインの父」とも呼ばれています。もちろん、この短編でも、何度も話題になっています。


 そんな背景の中で、イギリスの大学マンデヴィルで事件が起きます。寄附を申し入れていた大富豪が殺されたのです。死体の第一発見者は、ブラウン神父でした。先ほど前まで、サロンで話し合っていたのですが、死後硬直が進んでいました。何らかの新しい薬物が使われたようです。


 物語は、サロンでの会話に戻ります。私をふくめて、現代の読者であればうんざりするような長い会話が続きます・・・・。もちろん、テーマは、資本主義と共産主義です。ここで、大学関係者を紹介しておきます。


① 学長・・・・ 自ら、保守主義者であることを明言しながらも、共産主義にも公平な意見を展開します。

② ベイカー・・・・ 大学の会計主任(事務長?)、徹底した自己責任を主張する竹中平蔵さんタイプの人物です。もちろん、資本主義を礼賛しています。

③ クインクン・・・・ 共産主義を奉じる歴史学者です。そのため、学内では疎(うと)まれています。

④ ウォッダム・・・・ 化学を専攻する教授です。富豪の変死状況から判断すれば、何らかの形で事件に関与しているように思われます。


 ブラウン神父の立場は、共産主義だけでなく、資本主義の矛盾も併せて指摘しています。大富豪のふたりは、殺される前に、学内を見学し、大學関係者に質問をしていました・・・・。以下、最後まで書きますので、ネタバレとなります。


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 逮捕されたのは、共産主義者のクインクン(③)でした。彼の所持していたマッチから、毒物が検出されたのです。ですが、ブラウン神父はあくまで、クインクンは犯人ではないと断言します。マッチのような安価な物は、他人が借りても、そのまま、ポケットに入れがちなものだと・・・・。


 意図的に、クインクンにマッチがないことを気付かせたのは、会計主任のベイカー(③)でした。クインクンがパイプに火をつけようとした時に、毒入りのマッチを渡したのです。ベイカーは、化学者のウォッダム(④)の部屋に入り浸っていました。ウォッダムが開発した化学兵器をマッチに仕込んだのです。クインクンは、そのマッチで、大富豪の葉巻に火をつけます・・・・。


 大富豪は、主義については無知でも、経理的な内容については敏感です。ベイカーとのわずかな会話の間に、ベイカーの横領の実態に気付きました・・・・。


(蛇足) 意識せざる共犯者ふたりを使ったチェスタトンならではのトリックです。ですが、共産主義論争に辟易した、というのが実感です。


(追記) ブラウン神父シリーズについては、あとわずかになりました。トリックの宝庫です。興味がありましたら、お手数ですが、ブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に、"ブラウン神父"と御入力ください。