第4103回「名探偵ポワロ全集、第22巻、ヒッコリー・ロードの殺人、その2ストーリー、ネタバレ」 | 新稀少堂日記

第4103回「名探偵ポワロ全集、第22巻、ヒッコリー・ロードの殺人、その2ストーリー、ネタバレ」

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 第4103回は、「名探偵ポワロ全集、第22巻、ヒッコリー・ロードの殺人、その2、ストーリー、ネタバレ」です。ドラマらしい映像が、冒頭に凝集されています。


 深夜、ネズミが徘徊しています。全編を通じて、このネズミは登場します。可愛いネズミです・・・・。1時を、大きな置き時計が打ちます(マザー・グースをイメージしています)。ある女性が、指輪を盗み出します・・・・。


 場面は変わり、港に旅客船が到着します。降りてきた若い男女は、アムステルダムを旅行していたようです。"目つきの悪い男"がそんな男女を見つめます・・・・。男女は、イギリスの入国審査、税関検査をパスします。


 そんな二人が向かったのが、ヒッコリー・ロードの学生専門の下宿屋でした。レナードは医学部の学生、サリーは文学部の生徒でした。7人の男女が下宿しています。経営者は、ギリシア人女性です。


 そのギリシア人経営者は、バックパックからダイヤを取り出し、同国人のバイヤーに渡します。ダイヤは、密輸品です・・・・。冒頭の10分ほどは、物語が凝集されています。後の展開の大きな伏線になっています。


 この下宿屋には、ポワロの秘書ミス・レモンの姉が舎監として勤めていました。その姉が、妹のミス・レモンにぼやいたのが、下宿で盗難事件が多発していることです。ポワロは、ミス・レモンと姉のために一肌脱ぎます。下宿人と直に話し合うために、下宿で探偵術についての講演会を開いたのです。


 もちろん、下宿経営者のニコレティスは嫌な顔をします、ダイヤの密輸という"傷"を持っているからです。ですが、講演会は、思わぬ効果をもたらしたのです。下宿人のひとり、シーリアという女子学生が、ポワロに犯行を告白したのです。


 彼女が盗んだと自白したものは、

1. 指輪(盗難後、間もなくスープから発見されています。もちろんシーリアが返したのです)

2. 婦人靴の片方(ポワロが交通機関の遺失物管理者から回収しています)

3. ライター(シーリアは、排水溝に捨てたと言います。当然回収できていません)

4. その他小物(ポワロに告白後、シーリアは返還しています)


 シーリアは、盗癖があることをカミングアウトし、下宿人にも謝罪します・・・・。ですが、消えうせた品物の多くは、自分は盗っていないとも主張します。聴診器、電球、ホウ酸、バックパックなどです。品目のひとつひとつが、伏線になっています。


 ですが、そのシーリアが亡くなったのです。死因は、モルヒネの大量摂取です。睡眠薬とすり返られていたのです・・・・。ポワロとジャップ警部が、事件解明のために乗り出します。


 ジャップ警部は、実は年休を取得していたのですが、左派系議員主催のデモを警備するため、年休を返上しています。奥さんは、予定通りリゾートに行っています。奥さんの不在中、ポワロはジャップ警部を自宅に招待します・・・・。ミス・レモンを交え、笑えるエピソードが多数盛り込まれています。


 一方で、ジャローのデモ行進が描かれています。1936年に実際に起きた出来事です。大恐慌にあえぐジャローの住民200人がロンドンまで行進したのです。ここでドラマは、フィクションを交えます。先導したのは左派系議員のアーサー・スタンリー卿です。


 アーサー卿には、10年前、大疑惑がありました。ジャップ刑事が妻殺しで追っていたのです。ですが、警察トップから捜査中止を命令されています。手口としては、今回のシーリア殺しと全く同じです。そのアーサー卿が主導するデモの警備のために、ジャップは休暇を取り消され、ポワロと一緒に住む破目になったのです・・・・。アーサー卿の事件は、大きな伏線になっています。


 そして、第二の殺人事件が起きます。下宿経営者のニコレティスが刺殺されたのです。ニコレティスは、シーリア殺しの真犯人を知っていたのです。動機は、当然口封じです。それぞれの伏線が、次第にひとつの事件像を浮かび上がらせます。


 ここで、容疑者となる下宿人たちを紹介します。ここまでに判明したことも記しておきます。

① レナード・ベイトソン・・・・ 医学生、モルヒネを手に入れることは可能な人物です。聴診器とリュックサックを盗まれており、盗んだ人物は分かっていません。ドラマの冒頭、サリー(⑤)とアムステルダム旅行から帰っています。事件当日、シーリアの部屋に入るのを目撃されています。


② コリン・マクナヴ・・・・ 心理学を専攻する学生です。独自の犯罪心理学を展開し、完全犯罪は可能だと断言しています。実は、殺されたシーリアは、コリンの気を引くために、盗癖を装っていたのです。


③ パトリシア・レーン・・・・ 政治学を専攻しており、アーサー卿を尊敬しています。地味な女性なのですが、最終的に彼女が事件を解決に導いています。一枚の写真によって・・・・。大学病院の薬局でバイトをしていますので、モルヒネ入手は簡単です。盗まれた指輪は、彼女のものでした。


④ ナイジェル・チャップマン・・・・ 中世史を専攻する学生です。コリン(②)が仕出かしたことを、警察に話すべきだと主張しますが・・・・。


⑤ サリー・フィンチ・・・・ アメリカからフルブライト留学生として、キーツの詩を研究しています。ですが、ポワロはシェリーの詩を暗誦し、偽学生だと見抜いています。何のために・・・・。レナード(①)とアムステルダムを旅行しています。


⑥ パレリー・ホプハウス・・・・ 服飾デザインを専攻しています。実際、アルバイターとして服飾店に勤めています。ミス・レモンの女性としての眼は、独得の縫い方が、バックパックにも使われていることを見抜いています。バレリーは、盗まれた指輪を、自分に注がれたスープの中で発見しています。


 盗まれたもので、犯人が分かっていないのは、下宿に取り付けられていた電球数個、切り裂かれて発見されたバックパック、医学生レナードの聴診器、ホウ酸一瓶(ゴキブリをとるため?)です。以下、最後まで書きますので、ネタバレになります。


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 聴診器を盗んだのは、心理学を専攻するコリン(②)でした。彼は、完全犯罪は可能だと豪語していました。下宿人仲間にも、そのことを話しており、話の成行きから、凶器となるモルヒネを調達すると断言していたのです・・・・。大学病院の薬局の事情にも通じていたコリンは、白衣に聴診器姿で堂々と薬局に乗り込み、モルヒネの入った瓶をポケットに入れています。


 ですが、コリンは仲間の見ている前で、モルヒネをトイレで流しています。ですが、犯行に使われたモルヒネは、やはり薬局から盗まれたものだったのです。モルヒネに見せかけて、犯人が、盗んだホウ酸とすり替えていたのです。では、レナード(①)の盗まれたバックパックは・・・・。彼は知らずに、ダイヤの密輸をしていたのです。ダイヤは彼のバッグに縫いこまれていたのです。


 第二の被害者である下宿経営者のニコレティスは、バックパックの販売店も経営していました。その他の資産も運用していたのですが、バックパック販売に関しては、ダイヤの密輸を意図していました。電球が盗まれたのは、警察のマークを避けると共に、下宿人からも見えないようにするために、照明を落としていたのです。


 シーリアは、ダイヤ密輸に関する重要なシーンを目撃しています。そのための口封じだったのです。コリンの部屋から、残りのモルヒネが発見され、彼は逮捕されます。一方、ポワロは拉致されます・・・・。拉致したのは、密輸捜査官でした。ポワロの捜査が、半年間に及ぶ密輸組織の解明を妨げていると・・・・。


 サリー(⑤)は、捜査チームの一員だったのです。ニコレティスを疑っていた捜査局が、サリーを下宿に潜入させていたのです。事情を聞かされたポワロは、釈放されます。その夜、中世史を研究するナイジェル・チャップマン(④)が、ポワロの自宅マンションを訪れます。


 パトリシア(③)が、犯人を知っているというのです。ポワロに直接話すべきだと説得したのですが、パトリシアは応じようとしません・・・・。そんな中、当のパトリシアからポワロの自宅に電話が入ったのです。最初電話に出たナイジェルは、ジャップ警部に電話を渡します。ですが、途中で電話が切れます・・・・。


 パトリシアは、靴下に錘(おもり)を入れたブラックジャックで殴殺されました。血が吹き飛んでいました。現場に駆けつけたポワロは、遺体から一枚の写真を抜き取ります。パトリシアが、アーサー卿の病室を訪れた際、卿は大事そうにアルバムを抱いていました。その中に貼られていた一枚でした。家族の肖像です。


 ポワロは、夜を徹して考え続けます。密輸捜査局は、ニコレティスの共犯者を急襲します。そして、12時45分、ポワロは下宿の一室に関係者を集めます。なぜ、電球、聴診器、ホウ酸、バックパックが盗まれたのかを語ります。事件関係者の関心は、犯人は誰かということですが、ポワロは論理を追っていきます。サリーを除くと4人に減った下宿人の可能性を追求します。


 密輸の共犯として最後に指摘したのが、バレリー(⑥)でした。バックパックと衣装の特殊な縫製が同じであることを根拠として上げます。バレリーは、密輸に関しては認めますが、殺人は実行していないと話します・・・・。ここで、ポワロは、亡きパトリシアが持っていた写真を取り出します。


 写っていたのは、ナイジェル・チャップマン(④)でした。偽名を使っていたのです。パトリシアは、ナイジェルがポワロを訪問する前に殺されていたのです。電話に出たのは、共犯のバレリーでした・・・・。時計が1時を打ちます。


Hickory,dickory,dock.     (ヒッコリー・ディッコリー・ドック)
The mouse ran up the clock.(ネズミが時計に駆け上がり)
The clock struck one.    (時計は1時を打つと)
The mouse ran down!    (ネズミは時計を駆け下り)
Hickory dickory dock.    (ヒッコリー・ディッコリー・ドック)・・・


 ネズミが随所に登場したのは、原題であるマザーグースの歌「ヒッコリー・ディッコリー・ドック」から取られたものだからです。時計が1時を打つと、ネズミは時計を駆け下り、部屋の中に入ってきます。驚いたミス・レモンは、悲鳴を上げます。その隙に、ナイジェルが逃げ出したのです。


 ナイジェルは、地下鉄に逃亡しますが、ジャップ警部に身柄を確保されます。画面は変わり、教会が映し出されます。アーサー卿の葬儀が粛々と行われています。警察の慈悲で、犯人のナイジェルも出席していました。葬儀が終わった後、弁護士がジャップ警部に告白状を渡します。


 10年前に、アーサー卿の妻(ナイジェルの母)を殺したのは、ナイジェルでした。アーサー卿は、以降、些細な犯罪でもナイジェルが犯せば、直ちに、警察に届けると脅していたのです。その告白状には、ナイジェルの自筆により、犯行が認(したた)められていました・・・・。


 クリスティとしてはめずらしく、根っからの悪党を描いています。


(追記) デアゴスティーニ版「ポワロ コレクション」につきましては、長編に限り、順次ブログに書いていく予定です。過去のブログに興味がありましたら、お手数ですが、ブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に"ポワロ全集"と御入力ください。