第3707回「名探偵ポワロ全集、第13巻、愛国殺人、その2、ストーリー、ネタバレ」 | 新稀少堂日記

第3707回「名探偵ポワロ全集、第13巻、愛国殺人、その2、ストーリー、ネタバレ」

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 第3707回は、「名探偵ポワロ全集、第13巻、愛国殺人、その2、ストーリー、ネタバレ」です。


 マザー・グースの童謡“One, Two, Buckle My Shoe”が流れます。「ひとつ、ふたつ、バックルとめて♪・・・・」、カメラは歯科医を撮り続けます。スローモーションです。客と思われる“男”が手袋を取り出し、銃を取り出します。歯科医の顔に穴があきます・・・・。


 場面は、イギリス皇太子(エドワード8世)のインド訪問を伝えるニュース映画に変わります・・・・。そして、旅芸人の舞台が映し出されます・・・・。主演女優ガーダと女友達メイベル・セインズベリー・シールは、皇太子の歓迎レセプションに行きます。


 その席で、ガーダは、メイベルに結婚相手であるアリステア・ブラントを紹介します。一介の銀行員ではないかと言うのが、メイベルの正直な感想です。「ガーダほどの女優であれば、もっといい結婚相手が・・・・」 そして、12年・・・・。そのアリステア・ブラントは、イギリス経済界を牛耳っていたのです。


 メイベル・セインズベリー・シールは、イギリスに帰っていました。ガーダが結婚した後、しばらくは女優をしていたのですが、今では、伝道の仕事をしています。インド帰りのためか、どうしても野暮ったく見えます。そんな彼女が、歯医者を訪れた際に、ばったりブラントと出会ったのです。グラントは露骨に嫌そうな顔をします・・・・。


 ホテルに戻ったメイベルは、同じ船便でイギリスに来たアンペリオティス(インド人?)に、ガーダの夫であるアリステア・ブラントと再会したことを話します。歯痛に悩むアンペリオティスに、通っている歯科医を紹介します・・・。話の途中から顔色の変わっていたアンペリオティスは、部屋から電話をかけます・・・・。


 こうして、偶然は、ポワロ、ブラント、メイベル、アンペリオティスの順で、歯科医のモーリーの予約簿に載せることになります。ポワロも、歯痛に悩まされていたのです。一方、メイベルは、ホテルを引き払い、ガーダのアパートに引っ越すことにします。ふたりは、12年ぶりの再会を喜びます・・・・(ただし、ガーダは映し出されていません)。


 運命の日、歯科医のモーリーは、不機嫌でした。秘書のネヴィルが、おばの急病を理由に、突然休んだのです。「今どきの若もんには困ったものだ。どうせ男と会っているのだろう」、確かにネヴィルには付き合っている青年がいました・・・・。


 ポワロは、歯科医を訪れます。待合室で、不安にさいなまれます。そこに入ってきたのが、無礼な青年です(後で、ネヴィルの恋人だと分かります)。ポワロの治療は今回で最後です。半年後の再診を約束して帰ります。次の患者は、アリステア・ブラントです。建物を出たポワロが出たときに会ったのが、メイベルでした。


 メイベルは、真新しい靴のバックルをタクシーのドア部分にひっかけ落としてしまいます。ポワロは、親切にメイベルに渡します・・・・。女の子たちが、“ケンケン”をしています。「ひとつ、ふたつ、バックルとめて・・・・」 歯科クリニックの治療室では、グラント、メイベル、アンペリオティスと順調に治療が進みます・・・・。あの青年は、いつしか消えていました。


 治療室の異常に気付いたのは、待たされた次の客がクレームをつけたからです。その客は、怒って治療を受けずに帰っていきました。案内係りのボーイが、治療室をのぞくと・・・・。モーリー歯科医は、拳銃を握って倒れていました。自殺のように思えます。冒頭の殺人とは、明らかに違っています。ドラマは、犯人が偽装したことを暗示しています。


 事件の担当は、ジャップ警部です。ポワロも同行します。ジャップ警部は、自殺の方向で捜査を進めていたのですが、その説を補強する事件が起きたのです。治療から6時間後に、ホテルの一室で、アンペリオティスが亡くなったのです。ジャップ警部は、麻酔の打ちすぎに気付いたモーリー歯科医が、自らを罰したと・・・・。


 ですが、ポワロはその説に納得できません。経済界の重鎮であるブラントに事情聴取をしましたし、あの無礼な青年フランク・カーターにも会いました。カーターは、英国ファシスト連合に所属し、黒シャツで行進したりしています・・・・。


 ブラントは、インドから帰国後、婿入りし、現在の地位を得ましたが、妻のレベッカを亡くしています。ガーダとは結婚しなかったのでしょうか、それとも重婚を犯していたのでしょうか。後者であれば、アンペリオティスの不可解な行動にも納得がいきます、ブラントを恐喝していたのです・・・・。


 そして、モーリー歯科医が殺された時間帯のもうひとりの客であったメイベルの行方が分からなくなっていたのです。ポワロとジャップ警部は、メイベルが宿泊していたホテルの線から、チャップマン夫婦の部屋にたどり着きます。メイベルとガーダが再会したあの部屋です。そこで、ふたりが見出したものとは・・・・。


 顔面をつぶされたメイベルの遺体でした。モーリーの患者のカルテは、別の歯科医に預けられていました。カルテの歯の治療実績から、メイベルではなくチャップマン夫人の遺体だと断定されます・・・・。


 事件が一挙に動いたのは、庭師として潜入していたフランク・カーターが、ブラントを狙撃しようとして、女性秘書に取り押さえられてからです(何か不自然です)。


 カーターは、当然逮捕され、一連の殺人に関与したとの容疑で拘束されます。ですが、フランク銃撃事件では、いきなり銃が足元に投げつけられ、ただ拾っただけだと供述するのですが、にわかには信じられない話です・・・・。


 モーリー殺害時の患者をポワロから記述しますと、

① ポワロ・・・・ 不審な青年、フランク・カーターを待合室で目撃しています。治療後、待合室でブラントとすれ違い、路上でメイベルのバックルを拾っています。


② ブラント・・・・ モーリー歯科医は、治療にブラントを絶賛しています。「時間に正確だし、医院に来るにも歩いてきたりと、地位にも関わらず、謙虚な方だ」と話しています。ただ、来る前の重役会では、かなり荒れていました。


③ メイベル・・・・ 路上で、ポワロと会っています。いったんは殺されたと認定されましたが、今では重要参考人になっています。


④ アンペリオティス・・・・ メイベルの紹介で、モーリー歯科医のクリニックを訪れました。麻酔の過剰投与が、直接の死因であることは間違いありません。


⑤ フランク・カーター・・・・ 予約外の患者(?)、終始イライラし、何時帰ったのか分からない人物です。医院に来た目的は、恋人のヘレン・モントレザーに会いに来ただけかもしれません。


 ポワロは、拘禁中のフランク・カーターに会います。カーターは、自分が診察室に入ったときには、既に歯科医は自殺していたと、証言します。


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 ポワロは、ブラントの銀行に事件関係者を集めます・・・・。ですが、事件関係者はわずかです。最大の謎は、元女優でありブラントと結婚したとされるガーダの行方です。以下、最後まで書きますので、ネタバレになります。


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 まず、ポワロは、第二の殺人、チャップマン夫人殺しの被害者は、やはりメイベルであったと断定します。チャップマンと名乗るある女性とメイベルのカルテのラベルを入れ替えていたと言うのです。その「ある女性」が、ブラントの共犯者でした。ブラントが犯行を実行している間に、カルテの入れ替えをしていました。


 ミステリ上の矛盾としては、メイベルとしてやってきた女性のカルテには、何も記載されていないか、犯人が書き加える必要がありますが・・・・。そうしないと、疑惑はブラントにまで及びます。そして、アンペリオティスと面識のないブラントは、平然と、治療と称して過剰な麻酔薬を打ちます・・・・。


 その間、歯科医の遺体は別室に運んでいますが、アンペリオティスが帰ると元の位置に戻します。当時も、硝煙反応の鑑定が行われていなかったのでしょうか、そのことについては触れられていません(していたのであれば、ブラントは偽装の必要があります)。


 「ある女性」とは、ガーダでした。最近は、ブラントの秘書として働いていました。庭師のフランク・カーターを取り押さえています。これも、彼らの策謀でした。事件の発端は、メイベルの帰国です。ブラントとガーダの結婚について聞き出したアンペリオティスは、ブラントを脅迫したのです。ここで、ブラントとガーダの邪魔になる存在として浮かんできたのが、メイベルとアンペリオティスです。


 ブラントとガーダは、モーリーのクリニックで、医療過誤に見せかけ、アンペリオティスを殺します。モーリーは気の毒です、ただ舞台に選ばれただけで殺されました。メイベルの遺体偽装は、捜査を撹乱するためでした。連行されながら、ブラントは嘯(うそぶ)きます。


 「イギリスという国家と経済を支えてきた私を逮捕するとは、この国も終わりだ」(要旨) これに対するポワロの答えは、「たとえ、あなたであっても、私であっても、あの3人であっても、殺すことはよくありません」(要旨)。


(蛇足) メイベルは、事件の日を除いてモーリー歯科医のもとを訪れていますが、事件の日には、ガーダが行っています。それが、ポワロに違和感を与えました。女優の過信だったかと思います。

 フランク・カーターとグラディス・ネビルは、もちろん結ばれます。


(追記) デアゴスティーニ版「ポワロ コレクション」につきましては、順次ブログに書いていく予定です。過去のブログに興味がありましたら、お手数ですが、ブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に"ポワロ全集"と御入力ください。