第3645回「名探偵ポワロ全集、第5巻、葬儀を終えて、その2、ストーリー、ネタバレ」 | 新稀少堂日記

第3645回「名探偵ポワロ全集、第5巻、葬儀を終えて、その2、ストーリー、ネタバレ」

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 第3645回は、「名探偵ポワロ全集、第5巻、葬儀を終えて、その2、ストーリー、ネタバレ」です。


 映画は、葬儀のシーンから始ります。実は汽車の中で、弁護士がポワロに経緯を話していたのです。葬儀の場で何が起こったのか、さらに、翌日に起きたことについて・・・・。


 リチャード・アバネシーという実業家が急死します。目薬で財をなした人物です。一族のものが集まりますが、生前はほとんど交際のなかった親族ばかりです。特に親しかったのは弟の嫁であるヘレンと息子のジョージぐらいです。リチャードの遺体は、早々に火葬に付されています、イギリスでは異例のことです。


 遺産相続についても、ジョージが全額相続するものと思われていました。親族が集まったのも、単なる親戚としての儀礼に過ぎなかったのですが・・・・。葬儀に波乱を巻き起こしたのは、20年ぶりに顔を出したコーラでした。若い頃に、画家と駆け落ちし、奔放な人生を送りましたが、その画家とも今では離婚しています・・・・。


 コーラは葬儀の場に出ているのですが、喪服としては逸脱しています。しかも、執事と気安く昔話にふけります・・・・。そんな彼女が、一段落したときに、「上手くごまかせたわね、リチャードは毒殺されたって?」と言い出したのです。一座の視線が、コーラに集中します。


 一座に衝撃を与えたのは、それだけではありませんでした。相続から、ジョージが外されたのです。遺産は、ジョージを除く法定相続人に、均等に配分されます。全額がジョージに与えられるものと思われただけに、歓びの表情がジョージを除く全員から浮かび上がります・・・・。


 翌日、コーラの他殺死体が発見されます。孤独なコーラの世話をしていたのは、コンパニオンのギルクリフトでした。警察は、押し込み強盗の仕業と判断しますが、大したものは盗られていません。そこで、ポワロが呼ばれたのです。リチャードが殺されたと暗示したコーラが、翌日には早速殺された・・・・、ふたつの死には、因果関係があるはずだというのが、弁護士の判断でした。


 ポワロが、到着しましても、不可思議な事象は続きます。まず、屋敷の権利書が消えうせたのです。そして、コーラ付きのコンパニオンが、ヒ素を盛られたのです。ヒ素は、新婚カップルから送られるケーキの中に仕込まれていたようです・・・・。幸い、一命を取りとめます。


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 一族が集まった際、人間の顔について、他愛ない会話がなされます。人間の顔は、厳密には左右対称ではないと・・・・。有名な例が「モナリザ」の微笑です。左右不対象が、神秘性を与えています。そのことに、最も違和感を抱いたのは、ジョージの母親であるヘレンでした。彼女は、確認のために電話しようとしますが・・・・。


 ヘレンは、昏倒した状況で発見されます。脳震盪ですが、命に別状はありません。ヘレンについては、リチャードと甥ジョージのいさかいについて、ポワロがヘレンを問い質そうとした時、ヘレンは、蝋でできた造花をテーブルから落とし、壊してしまったのです。値打ちもののようです(他愛無いトリックですが、伏線になっています)。この質問は、遺言状の書き換えに大きく関与したものと思われたのですが・・・・。


 故リチャードの屋敷には、人形の館が置かれていました。一族のふとした会話から、一枚の遺言状を発見することになります。そこには、ジョージただひとりに遺贈すると書かれていました。葬儀の場で読み上げられた遺言書こそ、偽物だったのです。


 数々の疑問が出てきました。しかも、アバネシーの一族は,全員が示し合わせたように嘘つきばかりです。どこまでが真実であり、どこからが虚言でしょうか。いったんは消えた権利書も戻っています。ここで、一族(容疑者)を整理しますと、


① ティモシー・アバネシー&モード夫妻・・・・ リチャードの弟ですが、兄からは疎まれていました。ポワロの慧眼は、権利書を盗んだのは、ティモシー夫妻の仕業だと考えています。新遺言状が発見されたために、急いで権利書を返したと・・・・。車椅子生活ですが、実は歩けるようです。金銭的には困窮しています。


② スザンナ・・・・ アバネシー家三男(故人)の長女です。アフリカに教科書を送る運動をしている慈善家ですが、思うようには寄付金が集まりません。そのため、金銭的欲求はあります。ドラマは、ジョージ(⑤)との愛人関係を示唆しています。


③ ロザムンド・・・・ スザンナの妹(②)です。夫のマイケルと共に、新演出の舞台劇に情熱を燃やしています。それだけに、金は、喉から手が出るほど欲しがっています・・・・。


④ ヘレン・・・・ アバネシー家四男(故人)の嫁です。息子のジョージを溺愛していますが、賢明さも併せ持ちます。リチャードが亡くなる前、彼の世話をしていたのは、ヘレンです。殺されたコーラが言っていたように、リチャードが毒殺されていたのなら、最も疑わしい人物です。


⑤ ジョージ・・・・ ヘレン(④)の息子であり、直情径行な青年です。遺言状の変更以降、酒で身を持ち崩しています。その性格といい、動機からしても、最も疑わしい人物ですが・・・・。


 スザンナは、コーラの別れた夫である画家のジョバンニを呼びます。コーラ自身、多数の画を描いていたのですが、コレクションもありました。その鑑定を依頼したのですが・・・・。部屋に多数置かれた絵からは、大したものは、見つかっていません。


 ここで、一族以外の事件関係者を列挙しておきます。

⑥ ギルバート・エントウィッスル・・・・ 故リチャード・アバネシーの顧問弁護士です。遺言状の開封などに立ち会っています。ポワロの依頼人です。


⑦ ジョバンニ・・・・ 故コーラの別れた夫です。画家であり、コーラの遺品である絵画を鑑定しました。


⑧ ギルクリスト・・・・ 故コーラのレディズ・コンパニオン(※)です。召使いではありませんが、アバネシー一族から、不快な対応を受けています。ポワロは、彼女の立場を嫌というほど理解しています。彼女は、コンパニオンになる前には、花屋を開いていました。ですが、店はつぶれています。


 事件の解明の前に、数々の謎を列挙しておきます。

1. そもそも、リチャードは毒殺されたのか。

2. コーラ殺しは、物盗りの仕業だったのか。それとも、リチャード殺しを原因とする連続殺人なのか。

3. 遺言書を偽造したものは何者なのか。ジョージ以外の相続人すべてに動機があるが・・・・。

4. コンパニオンのギルクリストにヒ素を盛ったのは誰か、そして、その目的は。

5. へレンは、何を確認するために電話していたのか。


 ポワロは、遺品の形見分けと称して、事件関係者全員をリチャードの屋敷に招集します・・・・。以下、最後まで書きますので、ネタバレとなります。


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 集まった一族は、形見分けの話で盛り上がります。ロザムンド(③)は、蝋の造花が舞台に映えると言い出します。家族扱いのコンパニオンであるギルクリスト(⑧)も、賛意を表します・・・・。最大の伏線です。


 ポワロの矛先は、ティモシー(①)に向かいます。権利書を隠したことを指摘したのです。次に、スザンナ(②)とジョージ(⑤)の密会を指摘します。そして、ジョージを問い詰めます。なぜ、叔父であるリチャードと口論になったのか・・・・。ジョージは、実は愛人関係にあったヘレンと叔父であるリチャードの間に生まれた子どもだったのです。


 ジョージは、そのことをリチャードから聞かされたのです。ジョージは、若さから、その事実を激しく嫌忌します。それが口論の原因であり、遺言書を偽造した理由です。彼は、そんな男から相続されたくなかったのです(3の真相、うまいミスディレクションです)。ここで、ポワロは、コーラの形見分けとしてもらいうけたギルクリスト所有の絵を取り出します。コーラの元夫に鑑定を依頼していたのです。


 素人画家が描いたとはいえ、ポワロはキャンバスの四周にナイフを入れていきます。すると、別の絵が現われました。レンブラントです。コーラは、コレクションしながら気付かなかったのです。ポワロは、続けます。すべては、リチャードの突然死から始まった、と・・・・。リチャードは自然死でした(1の真相)。


 ですが、レンブラントの絵を手に入れるために、ギルクリストはコーラ殺害を決意しました。そのために実行したのが、自らコーラに扮して葬儀に出席することだったのです。コーラ自体奇抜な女性でした、しかも20年以上、一族と会っていません。ギルクリフとの性格と、現状に対する不満が、大胆な行動を可能にしたのです(妙にリアリティがあります)。


 そして、「リチャードは毒殺された」と全員に暗示をかけたのです。翌日のコーラの死は、警察が強盗殺人だといっても、リチャードの死と関連付けられて考えられます・・・・。誰も、レンブラントの絵があったなどとは考えないはずです。これが、コーラ殺しの真相でした(2の真相)。もちろん、ギルクリフトのヒ素騒動は、自作自演でした(4の真相)。


 では、ヘレンの殴打事件は、何故起こったのでしょうか。へレンが、20年以上前の記憶を確認するためでした。利き手が逆転していたのです。それが、ヘレンの違和感を誘いました。ギルクリストは、鏡を見ながら練習していたためです。ポワロは、ダメ押しをします。蝋の造花をギルクリストが見られたはずがないと指摘します。既に壊れていたからです(へレンが壊しました)。ギルクリストが実際に観たのは、コーラに扮していた時でした・・・・。


 こうして、ギルクリフとは連行されていきます。ポワロは、ギルクリフトの動機について話します。「花屋を再開させたかった・・・・」  振り返ったギルクリフトは、コーラの口調で言い返します。「あたしゃ馬鹿だったよ。あんたら、馬鹿に使われ、さげすまれていた。花屋を開ければ、誰の命令にも従わなくてもいい」


(追記) コンパニオンの実態などにつきましては、感想と共に、"その1"に書きました。興味がありましたら、アクセスしてください。http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10955144846.html


(補足) 「モナリザ」と「レンブラントの自画像」につきましては、ウィキペディアから引用しました。