第3644回「名探偵ポワロ全集第5巻、葬儀を終えて、その1、クリスティは20世紀のディケンズ?」 | 新稀少堂日記

第3644回「名探偵ポワロ全集第5巻、葬儀を終えて、その1、クリスティは20世紀のディケンズ?」

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 第3644回は、「名探偵ポワロ全集第5巻、葬儀を終えて、その1、クリスティは20世紀のディケンズ?」です。クリスティの魅力は何でしょうか。優れたトリックと、卓抜なストーリー・テリングにあることは言うまでもありません。では、クリスティの魅力は、それだけでしょうか・・・・。


 クリスティの作品の多くは、40年から50年前に読んでいます。「アクロイド殺し」も、「そして誰もいなくなった」も、「オリエント急行殺人事件」も、初めて読んだ時には、すべてネタバレ状態でした。当時は、さほどネタバレにうるさくなかったのです・・・・。


 それでも、クリスティ作品は、ミステリとしてだけでなく、小説としても面白かったのです。ビクトリア朝下のイギリスの風俗を、活き活きとして描いたのは、ディケンズでした。数々の名作を遺しました。いま読み直しますと、表現は晦渋ですが、読んでいること自体が楽しいのです。


 同じことは、クリスティにも当てはまります。第一次世界大戦と第二次世界大戦の間(はざま)のイギリスを溌剌として描いています。読んでいまして、個々の登場人物のキャラクターが、脳裏に浮かび上がってくるのです。もちろん、第ニ次世界大戦後も、クリスティは書き続けていますが、やはり傑作は大戦前に集中しています・・・・。



 この「葬儀を終えて」でも、当時の風俗が活き活きと描かれています。女性の権利が主張された時代でしたが、肝心の職業は限定されていました。中流階級の子女が、体面を汚さずに選べる職業は、学校の教師となるか、家庭教師になるか、コンパニオンになるかなど、極めて限定的でした。


 コンパニオンとは、デュ・モーリアの「レベッカ」のヒロインでもおなじみの職業です。『 レディズ・コンパニオンとは、上流または富裕な女性に雇われ、そのお相手をする生まれ育ちの良い女性のこと。使用人とは見なされていなかった。


 コンパニオンの役割は、雇い主と一緒に時間を過ごし、話し相手となり、雇い主が客をもてなすのを助け、しばしば社交行事に同行することであった。コンパニオンは賄いと住まいを提供され、お手当(決して賃金と呼ばれることはなかった)を支給された。 』(ウィキペディアから抜粋)


 イギリスの結婚式の風習として、日本でも定着し始めたのが、"ブーケ・トス"でしょうか。当時、新婚夫婦は、ケーキを知人・友人に送る習慣があった様です。未婚の女性が、枕の下に敷いて眠ると、幸運な結婚に恵まれると・・・・。


 そして、現在にまで通じる慈善活動です。故ダイアナ妃をはじめ、イギリス皇室のチャリティ活動は有名です。登場人物のひとりも、アフリカの慈善活動に情熱を燃やしています。これらの習慣は、ごく一部です。数々の風俗が、さりげなくドラマに織り込まれています・・・・。


 ドラマは、葬儀から始ります・・・・。次回、ストーリーについて書く予定です。好きな作品です。