第3637回「名探偵ポワロ全集、第3巻、青列車の秘密、その2、ストーリー、ネタバレ」 | 新稀少堂日記

第3637回「名探偵ポワロ全集、第3巻、青列車の秘密、その2、ストーリー、ネタバレ」

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 第3637回は、「名探偵ポワロ全集、第3巻、青列車の秘密、その2、ストーリー、ネタバレ」です。ドラマに則して、ストーリーを紹介します。舞台は、パリ~マルセイユ~ニース~リヴィエラと移ります。移動手段は、ブルー・トレイン(寝台特急)です。


 ドラマは、伝説のルビー"炎の心臓(ハート)"から始ります。歴史上、数々の血で彩られた巨大ルビーです。そのルビーを、石油王ルーファス・ヴァン・オールデン(エリオツト・グールド)が、娘のために手に入れたのです。早速、強盗に襲われますが、撃退します・・・。


 その伝説のルビーを手に入れた娘ルースは、デレック・ケタリングという青年と結婚していました。デレックは、バクチと酒で身を持ち崩しています。父親のルーファスは、娘とデレックを離婚させるために、10万ポンドの提供を申し入れますが、デレックは応じません。ルースだけでも200万ポンドの資産を持ち、父親の総資産は余人には予想がつかないほど巨額に上ります・・・・・。ですが、デレックは、あくまで妻を愛していると主張します。


 ルーファスには、ナイトン少佐という秘書と、アダ・メイソンという召使いがいます。長年、ルーファスが使ってきた使用人です。ルーファスは、娘をナイトンのようなグズだが真面目な男に嫁がせたかったとふと洩らします。それは、ナイトン少佐の耳にも入ります・・・・。


 ポワロが、ルーファス父娘と会ったのは、偶然の機会からです。娘がポワロのファンでした、是非にと誕生パーティに誘われます。パーティで、ポワロは数々の不愉快な出来事を目にします。ポワロの目がひかります。デレックは、ラ・ロッシュ伯爵にカードでカモにされていました。実は、妻のルースの不倫相手でもありました。


 ポワロの出会いは、不愉快な出来事ばかりではありませんでした。キャサリン・グレイという女性に出会ったことです。ポワロは、ひとめで、キャサリンに好感を抱きます(恋心ではありません)。キャサリンは、両親を亡くし、召使いの仕事をしていたのですが、最近巨額の遺産を手にしたのです。


 キャサリンは、従姉妹のロージー・タンプリンに、リヴィエラの別荘に招かれています。タンプリンの家族も、青列車で同行することになります。ですが、彼女は破産状態だったのです。キャサリンを招待したのも、もちろん彼女の金目当てです・・・・。

 
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 青列車の1等個室に乗り込んだ人物を部屋別に記しますと、

① ルース・ケタリング・・・ 大富豪の娘、自らも200万ポンドの資産を保有しています。現在価値としては、200億円ぐらいになるのでしょうか。

② レノックス・タンプリン・・・・ レディ・タンプリン(③)の娘です。キャサリンの友人になります。はっきりした性格の娘です。

③ ロージー・タンプリン&コーキー・タンプリン夫妻・・・・ ロージーは、キャサリンの従姉妹です。破産しているのですが、見栄で一等個室に乗っています。コーキーは、年下でしょうか、軽薄さが目立つ青年です。

④ ポワロ・・・・ われらが名探偵です。

⑤ キャサリン・・・・ ポワロが庇護している遺産相続人です。

⑥ ミレーユ・・・・ 大富豪ルーファスの愛人です。ルーファスは、意図的に青列車に乗せました。その意図とは・・・・。

⑦ デレック・・・・ ルース(①)の夫です。大富豪の女婿です。義父から離婚を言い渡されていますが、応じません。


 1等個室以外では、ラ・ロッシュ伯爵が乗りあわせています。

⑧ ラ・ロッシュ伯爵・・・・ いわくつきの人物です。デレック(⑦)からカードで金を巻き上げています。イカサマを使っているようです。ルース(①)とは、不倫関係にありますが、炎のハートを狙っているようです。


 パリに残った人物としては、

⑨ ルーファス・ヴァン・オールデン・・・・ 自らも豪語するように、石油王です。娘とデレック(⑦)を別れさせようとしていますが・・・・。

⑩ ナイトン少佐・・・・ 第一次大戦が終わって以降、ルーファスの秘書を務めてきた真面目な人物です。

⑪ アダ・メイソン・・・・ ルーファスの召使いです。長年仕えています。リヨン駅(パリ)まで、ルースの身の回りの世話をしています。


 そして、青列車で事件が起きたのです。キャサリンの取っていた部屋で、顔面をハンマーで潰された女性が発見されたのです。第一発見者は、レノックス・タンプリン(②)です。ですが、事前に、ルースとキャサリンは部屋を交換していました。果たして殺されたのは、・・・・。殺人があったことを教えられたポワロは個室に向かいます・・・・。


 以下、最後まで書きますので、ネタバレとなります。


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 原作となった小説につきましては、アガサ・クリスティも満足していませんでした。書き続けなければならない職業作家としての苦悩も語っています。犯人は誰か、本格ミステリである以上、ポワロが犯人を特定するまでの推理過程が問題になるのですが・・・・。ところが、普段のクリスティの"切れ"が見られないのです。"×曜サスペンス"のような安易な解決で終わっています、ただ、華麗さはありますが・・・・。


 キャサリンが殺されたと教えられたポワロは、慌てて客室に向かいます。ですが、キャサリンとばったり出会ったのです。部屋を交換した経緯も聞き出します。そうすると、被害者はルースということになります。ただ、バールストン・トリックは否定できません。事前に用意した死体の顔面を潰し、自らの死体として擬装したというトリックです・・・・。炎のハートも、消えうせていました。


 死体を発見したのは、終点であるニースについてからです。ポワロ主導で、地元警察と関係者の訊問を続けます。とりあえず、ポワロは、ロージー・タンプリンの別荘に泊まります。娘を殺されたルーファスも、秘書のナイトン少佐と召使いのアダ・メイソンを連れて別荘にやってきます。


 そんな時に、キャサリンが深夜に襲われたのです。犯人を撃退したのは、同じ部屋で寝ていたレノックス・タンプリンでした。しがみつき、犯人の首筋に噛み付いています。歯型が残ったはずです。ですが、ポワロの灰色の脳細胞は働いていません。


 ポワロが、ニース駅に出向いた時、ふと思いつきます。「ある事実があって、そのことによって次なる事実が起こった。いずれも、ウソだったのだ」(後の展開とも上手くつながっていません)、そう駅員に話すと、事件関係者を青列車のラウンジに集めます。


 ひとりひとりに、不愉快な事実を突きつけていきます。ラ・ロッシュ伯爵には、ルースの愛人になったのは、炎のハートを盗み出すためだったと・・・・。ミレーユは、ルーファスの愛人であり、そのことについて悩んでいた・・・・。ロージー・タンプリンには、あなたは破産していたと・・・・。全員に、他人には触れられたくないことを次々と暴露していったのです。


 最後に、リヨン駅で降りたはずのアダ・メイスン(⑪)を指差します。そして、首筋をチェックします。噛み跡が残されていました。ルースは、マルセイユ到着前に、ルームサービスを頼みました。ですが、その段階では既に殺されていたのです。ルースに扮していたのは、アダでした・・・・。


 ですが、ポワロはさらに共犯者の名前を指摘します。秘書のナイトン少佐(⑩)です。ふたりは、嗜虐的な殺人の愛好者であり、愛人同士でした。そのため、少佐が被害者の顔面を叩き潰したと・・・・(このような連続殺人については触れられていません)。そんな少佐が、キャサリンに興味を抱いたと・・・・。嫉妬したアダが、キャサリンを襲撃します。


 その時、ナイトン少佐は、キャサリンの首筋にカミソリを当てていたのです。ポワロは、ナイトン少佐を説得しようとします。「きみは、最高の宝石泥棒だ」、炎のハートを盗んだのは、少佐だったのです。少佐は、死を選びます。ルビーをキャサリンの手に押し込んだナイトン少佐は、爆走する列車の前に立ちます・・・・。


 原作も、ドラマも、うーーんという内容です。ただ、サスペンス・ドラマとして観るのであれば、十分楽しめる作品に仕上がっています。クリスティは、それだけミステリ作家として、質の高さを問われ続けた作家だと思います。まさしく、ミステリの女王であり、トリックの女王でした。


(補足) 2枚目の写真は、ウィキペディアから引用しました。