第3620回「名探偵ポワロ全集、第2巻、ABC殺人事件、その2、ストーリー、ネタバレ」 | 新稀少堂日記

第3620回「名探偵ポワロ全集、第2巻、ABC殺人事件、その2、ストーリー、ネタバレ」

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 第3620回は、「名探偵ポワロ全集、第2巻、ABC殺人事件、その2、ストーリー、ネタバレ」です。ドラマならではの演出もありますが、"その1"の感想と同じく、原作について書いたブログ全文を再掲します。写真の「鍵になる人物」は、クリックすると大きくなります。


 この小説は、あるトリックを骨子としますが、"劇場型犯罪"と結合させたところに、クリスティの非凡さがあります。現実の事件でも、「グリコ・森永事件」など、最近では珍しくなくなっています。しかし、当時では抜群のアイデアです。


 ポワロの元に、一通の書簡が届けられます。

「ミスター・エルキュール・ポワロ――きみはうぬぼれているようだね、あわれなる、愚鈍なわがイギリス警察が手におえない事件でも、自分なら解決できる、と。では、お利口なポワロ氏よ、きみがどれほど利口か、みせてもらおうか。おそらく、このクルミは固くて、きみには割れないだろう。今月21日、アンドーヴァ(Andover)に注意せよ

   草々 ABC 」(中村能三氏訳)


 22日午前1時、アンドーヴァで、ミセズ・アッシャー(Alice Ascher)が遺体で発見されます。後頭部を一撃されての死です。そして、ポワロに第2信が届きます。

「親愛なるポワロ氏――どうだ。第一回戦は小生の勝ちのようだね。アンドーヴァ事件はうまくいったじゃないか。だが、おもしろさはまだ序の口だよ。こんどはベクスヒル海岸(Bex-on-Sea)に注意をおねがいしよう。時は今月25日。なかなか楽しんじゃないか。    ABC 」


 愚かしい犯人です。間違っても、ポワロに挑発してはなりません。しかし、当日ベクスヒル海岸で、エリザベス(ベティ)・バーナード(Betty Bernard)が絞殺されます。ABCの意図が明確になりつつあります。次はCの地名のつく場所で、CCのイニシャルを持つものが殺される・・・・。では、いつまで続くのでしょうか。Xという地名とか、XXのイニシャルの人っているでしょうか。


 いずれの事件でも、ABC鉄道案内が置かれています。全ては一つの方向を指し示しています。そして、第三の信書がポワロの元に。「・・・・こんどは、もっとうまくやれるかどうか、ためしてみようじゃないか。こんどはやさしいよ、チャーストン(Churston)で、30日だ。なんとかやってみるがいい! こちらのペースだけで行くのじゃ、なんとかやってみるがいい! こちらのペースだけで行くのじゃ、いささか退屈だからね!    よい獲物を期待して――    ABC 」


 しかし、着いたのは当日です、遅配したのです。チャーストンでカーマイケル・クラーク卿(Crarmicael Clarke)が殺されていたのです・・・・。後頭部を鈍器で殴打されています。当然、ABC鉄道案内も遺されています。さらにドンカスター(Doncaster)での殺人予告(長いですので省略します)が届きます。被害者は、イニシャルDDの者でしょうか。映画館で殺人事件が起きます。しかし、DDのイニシャルではありません。犯人の誤殺でしょうか。


 文章は、ポワロの友人であるヘースティングの手記で綴られていますが、カストというセールスマンの手記が何箇所か挿入されています。カストは、ABC殺人事件がおきた時、その場所にいます。しかも、癲癇の持病があります。


 以下、完全にネタバレとなります。



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 ポワロが、これほど挑発され、愚弄されたことがあるでしょうか。ポワロの灰色の脳細胞が蠢き始めます。一方、セールスマンのカストが逮捕されます。犯行時に犯行場所の近くにいたことが、最大の理由ですが、彼には時に記憶が飛ぶことがあります。そのことが、カスト自体を、疑心暗鬼に追い込んでいます。


 ポワロは、カストから事情聴取すると共に、個々の被害者の事情も調べ始めます。そして、一つの結論に到達します。真犯人と対峙します。ポワロは、犯行を説明していきます。一連のABC殺人事件は、一つの殺人事件のみが、犯人の狙いであり、その他の殺人は捜査方向をミスディレクションするためのものだったと語ります。そして、ドンカスターの事件は、目的を達成したといえども、ここでやめる訳にはいかないので実行した、映画館内なので多数の人がおり、誰でもよかったと・・・・。


 証拠も押えてある、逃れるすべはないと犯人に語ります。犯人は、追い詰められ、自殺しようとします。しかし、ポワロは弾丸を抜いていたのです。カーマイケル・クラークの弟には、法の裁きを受けさせるべきだと・・・・。クリスティの凄いところは、ABCトリックとも言うべき、真の目的を隠す連続殺人だけでなく、劇場型犯罪を提示したことです。


 クリスティ以前にも劇場型犯罪を扱った小説はあったと思いますが、これほどトリックと一体になったミステリは記憶にありません。ですが、トリックとかアイデアに特許はありません。独自の視点とか、別のアイデアを加えれば、如何様にもクリスティを超えられます。それが、推理小説を読み続ける理由でしょうか。


(追記) 感想につきましては、"その1"に書きました。http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10947807890.html