第1683回「シャーロック・ホームズ、その37 金ぶちの鼻眼鏡」(推理・古典)
第1683回は、「シャーロック・ホームズ、その37 金ぶちの鼻眼鏡」(推理・古典)です。ある嵐の夜、新進のホプキンズ警部が、ホームズのアパートを訪ねます。ある殺人事件に関する捜査協力を依頼しにきたのです。ホームズは、明朝出発することにし、ホプキンズ警部に泊まっていくようにすすめます。
ホームズは、紅茶よりコーヒーをたしなむ習慣があった様です。朝、コーヒーを飲むシーンが数多く描かれています。その朝も、コーヒーを飲み、現場に向かいます。被害者は、老博士の秘書です。老博士の書斎で、頚動脈を切断され、出血死しています。メイドに「博士、あの女が・・・・」と言い残して亡くなりました。さらに、手には女性ものの鼻眼鏡が・・・・。
ホームズは、眼鏡を見ただけで、犯人像をこう絞り込みます。「淑女の服装をした、上品なものごしの婦人。鼻はきわめて肉が厚く、両眼が鼻に接近している。額には皺(しわ)があり、物を凝視する癖があり、おそらくは猫背であろう」(阿部知二氏訳) さらに付け加えると、強度の近眼だということです。
美人といえる容貌ではありませんが、理知的な女性のようです。屋敷には、2人の召使いがおり、雑役をこなす男性がひとりいます。犯人は、"金縁の鼻眼鏡"の女性に間違いないのですが、動機がまるっきり分らないのです。青年は、人に恨まれる性格ではありませんし、村の人々との交際もありません。
老博士は、タバコと研究だけが生きがいの老人ですが、現在は車椅子生活です。しかし、今回の事件でも食欲は衰えていません。ホームズは、使用人の事情聴取を開始します。そして、老人の部屋で、老人の話を聞くことにします。ホームズは進められるままに、タバコを吸い続けます・・・・・。
以下最後まで書きますので、ネタバレとなります。
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ホームズは、再度老博士の部屋に行きます。今度は、タバコをまき散らすという粗相をします。目的は、床を調べることにあったのです。前回タバコの灰を落とした床に、足跡があったのです。それは、本箱から続いています。隠しスペースがあったのです。
ホームズは、老博士に今回の事件の真相を語ります。その時、本箱が開き、婦人が現われたのです。彼女は、老博士の妻です。二人とも、ロシアで革命運動を続けていたのですが、夫は同士を裏切ることによって、多額の現金を当局から受け取りました。こうして、夫はロンドンにやってきたのです。
同士の一人は無実です。婦人は、その無実を証明する書類を取りに、老博士の書斎を探していたのです。そこへ偶然やってきた秘書ともみ合った際、ペーパー・ナイフと知らず、取ったもので防御しようとしたのですが、不運にも秘書の頚動脈を切断する結果となりました・・・・。その際、眼鏡を失っています。
方向を見失った彼女は、老博士の部屋に入ってしまいます。やましさのあった老博士は、彼女を匿(かくま)うことにします。そのため、召使いにとっては、食欲が衰えているようには思えなかったのです(二人前食べていたのですから)。「博士、あの女・・・・」は、秘書が屋敷の周辺を散歩した時、偶然見た婦人のことだったのです。
しかし、"金縁の鼻眼鏡"の婦人は、隠しスペースから出るとき、ある覚悟を持っていました。毒を飲んでいたのです。書類をロシア大使館に届けるように、死の直前、ホームズに頼みます・・・・。物語は、ホームズとワトソン博士が、馬車でロシア大使館に向かうところで終わっています。
(追記) 学生時代以降に再読した際には、この婦人の肖像と、ローザ・ルクセンブルグ(ドイツ)のイメージが、なぜか重なります。写真は、ウィキペディアから引用しています。