設問1 小問(1)

1(1) Dが賃料60万円を、Eが報酬40万円を、甲社に対して支払うよう請求することができるためには、AD間賃貸借契約及びAE間雇用契約の効果が甲社に帰属する必要がある。では、上記契約の効果は甲社に帰属するか。そもそも、設立中の会社の法的性質が問題となる。

(2) 設立中の会社は、会社成立を目的とした団体として、いわゆる権利能力なき社団としての性質を有する。したがって、発起人がその権限の範囲で行った行為の効果は実質的には設立中の会社に帰属しているといえることから、会社が成立すると、その権利義務関係は自動的に成立した会社に帰属する。

2(1) では発起人の権限の範囲はどの限度で認められるか。

(2) 発起人は会社設立の企画者として定款に記載された者をいうことから、その権限は直接会社設立を目的とする行為のほか、会社設立のために必要な行為まで含まれる。したがって、発起人の権限の範囲は、会社の設立に際して法的・経済的に必要な行為の限度において認められる。

(3) 本件において、発起人Aが行ったDとの設立事務所の賃貸借契約、及びEとの設立事務を補助する事務員としての雇用契約は、ともに甲社設立のために事実上必要な行為であるといえる。したがって、発起人Aの権限の範囲内の行為であり、その効果は甲社に帰属する。

3(1) もっとも、会社法(以下法名略)28条4号は、会社財産保全の観点から、「設立に関する費用」については、定款に記載しなければその効力を生じないと規定する。

(2) 判例は、この規定について定款記載の価額の限度で会社に請求でき、それ以上の価額については発起人に請求できるとするものと解する。しかし、このように解すると、設立費用を会社に請求する第三者としては、本件のように実際に設立に要した費用が定款記載の価額を超えた場合に、誰がどの限度で会社に請求できるのか、その優先関係はどうなるのかについて把握することが出来ず、取引の安全を害することになる。

 そこで、28条4号は、第三者は会社に全額請求でき、請求額が定款記載の額を超えた場合には、会社が発起人に求償できることを定める規定であると理解すべきである。このように解することが、第三者との取引の安全の確保にも資する。

(3) 本件では、Dは賃料60万円、Eは報酬40万円を、それぞれ全額甲社に対して請求することができる。甲社は20万円を発起人Aに求償できる。

設問1 小問(2)

1(1) 本件購入契約の締結は、発起人Aの権限の範囲に含まれるか。

(2) 上記のとおり、発起人の権限の範囲は、会社の設立に法的・経済的に必要な行為の限度で認められる。そして、開業の準備を目的とする行為は、これに含まれず、これを発起人の権限の範囲とすると会社財産が脅かされ、また、開業準備行為については成立後の会社の経営判断に委ねられる時効であることからも、発起人の権限の範囲には含まれない。

 そして、会社の成立を条件として会社成立前から存在する財産を買い受ける契約の締結をいう財産引受もこの開業準備行為に含まれることから、発起人の権限の範囲に含まれない。

(3) したがって、本件購入契約の締結は財産引受けに当たる以上、発起人Aの権限の範囲には含まれず、無効である。

2(1) これに対して、本件購入契約を成立後の会社が追認できるかが問題となる。これが可能であれば、当初の大金額である800万円での本件機械の購入が可能となる。

しかし、これは出来ないと考える。なぜなら、財産引受けは開業準備行為として原則として発起人の権限の範囲に含まれないが、その必要性の高さ故に定款記載を条件に法が例外的に発起人の権限の範囲としたものと解され、定款記載がない場合は絶対的無効と解すべきだからである(28条2号)。そうでないと、財産引受けについて検査役による調査を原則として必要とした法の趣旨の容易な潜脱を認めることになる。

(2) そこで、事後設立の規定を用いることが考えられる(467条1項5号)。

 467条1項5号は、当該株式会社(25条1項各号に掲げる方法により設立された会社に限られる)の成立後二年以内におけるその成立前から存在する財産であってその事業のために継続して使用する財産の取得であって、当該会社の純資産額の五分の一を超えるものの取得である場合、株主総会の特別決議による承認が必要であると定める(309条2項11号)。

 本件において、本件機械は、甲社成立前から存在するものであり、甲社の事業活動に不可欠なものである。そして、甲社は平成23年6月14日に成立(47条)した後の2年以内である同年6月20日頃に本件機械を購入しようとしているのであり、その価額は多くて850万円と甲社の純資産額3000万円の五分の一を超える。したがって、事後設立として467条1項5号の適用があり、株主総会の特別決議による承認が必要である。

 以上より、甲社株主総会の特別決議の承認があれば、本件機械を購入し、引き渡しを受けることは可能である。

設問2

第1 訴訟要件

まず、現在は平成28年7月20日であり、本件決議が成立した平成28年6月20日の3ヶ月以内である。

 また、本件決議の成立によって平成28年7月11月の時点で株式併合の効力が発生し(180条1項)、平成28年7月20日の時点でGは乙社株式の端数しか有していないが、本件決議の取り消しによって株主となる者に当たるから原告適格も有する(831条1項柱書後段)。

第2 取消事由

1(1) まず、本件株主総会において、Lの入場を認めず、Lが議決権行使をできなかったことについて、決議方法の法令違反にあたらないか(308条1項、309条2項4号、831条1項1号)。Lは基準日後に株式を相続した者であり、そのような者は基準日にかかる株主総会において議決権を有する家が問題となる。

(2) アそもそも、他の株主にかかる違法事由を主張できるのかが問題となるも、株主総会決議取消の訴えの制度は、決議の適切・公正を担保することをその目的とする制度であるから、他の株主にかかる違法事由も主張できるというべきである。

イ 確かに基準日後に株式が相続された場合、基準日株主が議決権行使をすることは不可能であるから、相続人に議決権行使を認めても基準日株主の権利を害するとはいえない。しかし、基準日制度(124条)は、多数の絶えず変動する株主の取扱について、一定時点の株主に権利行使を認めることを許容することで、会社の事務処理上の便宜を図った点にある。そうであるならば、基準日において株主名簿に記載されていない者である以上、当該基準日にかかる株主総会において議決権行使を認めなくとも、124条4項本文に反することはないというべきである。124条4項本文も議決権を行使「できる」と定めるにとどまる。

(3) したがって、Lに本件株主総会において議決権を行使することを認めなかった乙社の上記取扱は308条1項、309条2項4号に反せず、決議方法の法令違反に当たらない。なお、実質的な株主の請求により株主名簿の名義書換をすることは会社の義務である以上、平成28年6月3日にLについて株主名簿の名義書換をしたことをもって、議決権を行使することを認めなかったことに矛盾挙動に基づく信義則違反があるとはいえない。

2(1) 次に、株主でないKがHの代理人として本件株主総会に出席し、議決権を代理行使したことについて決議方法に定款違反があるといえないか(定款16条、会社法831条1項1号)。

(2) まず、議決権の代理行使を特定の者に限る定款も、合理的な必要のための相当な制限であれば310条に反しないものというべきところ、株主にのみ代理行使を認める旨の定款も、株主総会の撹乱を防止するという合理的必要性が認められ、かつ、代理行使が一切不可能でなくなるわけではないという意味で相当な制限であるといえるため、310条に反しない。もっとも、総会の撹乱防止のおそれがなく、代理行使を株主以外の者にも認めることが相当であるといえる場合には、定款の効力が及ばない。

(3) 本件においてKは株主であるHの株式にかかる議決権を代理行使しているところ、Hは本件持株会の理事長として、その持株会の会員で実質的な株主である会員たる従業員20名から、その各持分に相当する株式の管理の信託を受けている(規約10条1項)。そして、それらの株式の株主名簿における名義は理事長名義とされるところ(同2項)。さらに、会員による議決権行使についての「特別の指示」(規約11条)は本件ではなかったことから、その議決権行使はHに依存していたといえる。このような状況下において、Kは、管理の信託を受けた理事長Hが作成した委任状の交付を受け、これを乙社に提出しており、K自身本件持株会の発足以来その会員であることからしても、Kに議決権の代理行使を認めても、総会の撹乱のおそれがあるとはいえない。また、常に持株会の株式にかかる議決権行使をHのみしかできないとすると、その議決権行使が著しく困難になり、相当性を欠く制限となる。

 したがって、Kの代理行使について上記定款の効力は及ばない。よって、Kによる議決権の代理行使を認めた乙社の取扱に決議方法の定款違反はない。

3(1) もっとも、本件決議の真の目的は甲社による乙社の完全子会社化にもかかわらず、本件決議に甲社が議決権行使して、これが成立していることから、特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議に当たらないか(831条1項3号)。

(2)ア ここにいう特別利害関係人とは、当該決議の成立により他の株主と共通しない利益を得、または不利益を免れる株主をいうところ、本件において本件決議が成立すれば甲社による乙社の完全子会社化が実現することから、甲社は特別利害関係人にあたる。

イ では「著しく不当な決議」といえるか。

 少数株主の締め出し目的の決議について、公開会社においては「著しく不当な決議」にあたらないのが原則である。公開会社において、株主は適切な金銭対価が保障されれば株主たる地位に固執する必要が無いのが通常だからである。もっとも、特段の事情があれば別である。

 本件において、Gは乙社の創業者の一族であり、乙社が甲社の完全子会社となることに強弁に反対する立場にあった。このような立場の株主については、金銭対価の確保によっては償いきれない株主たる地位にとどまることについて価値があると言える。したがって、上記特段の事情があるといることから、本件決議は「著しく不当な決議」にあたる。

ウ そして、本件株主総会の総議決権数が10000株で、甲社が有する乙社議決権数は6000株であることから、甲社の本件決議への賛成がなければ本件決議は成立しなかったといえる。したがって、甲社の議決権行使に「よって」本件決議が成立したものといえる。

 以上より、本件決議は特別利害関係人の議決権行使によって成立した著しく不当な決議に当たる。よって831条1項3号の取消事由がある。

設問3

1 Lの経済的利益は、株式併合の際の株式買取請求権の制度によって保護される(182条の4第1項)。

2 同制度は株式会社が株式の併合をすることにより株式の数に端数が生じる場合に、反対株主が、会社に対しこれを買い取ることを請求することができる制度である。

 本件において、Lは株式併合によって保有株式が1株に満たない端数となる。そして、Lは本件株主総会の前平成28年6月3日に株式併合に反対する旨乙社に通知しており、かつ、本件株主総会で議決権を行使できていないから、「反対株主」にあたる(同条第2項1号)。したがって、Lは乙社に株式の買い取りを請求できる。

3 この株式買取請求があった場合、効力発生日から30日以内に協議が整わない場合には、裁判所に対し価格決定の申し立てをすることができる(182条の5第2項)。この際、買取価格は、株式併合が無かった場合に当該株式が有していた価値に加えて、併合によって生じる利益をも含んだ価額である。同制度は、株式併合の機動性と株主の利益保護を目的とする制度であるからである。

以上