設問1

第1考えられる反論

1 Cとしては、甲1部分の賃借権を占有正権原として主張することが考えられる。

2 反論となる理由としては、BはCに対して甲1部分の所有権に基づく返還請求権として甲1部分の明け渡しを求めているところ、同請求の請求原因は、甲1部分のB所有権および、C占有である。Cは、甲1部分を占有しており、B所有権を認める以上、Cの占有を正当化する権原の存在を主張し、請求原因事実から発生する法的効果を覆滅させることが考えられるからである。

第2 Cの主張の当否

1 要件

 上記主張について必要な要件は、甲1部分についての賃借権の存在、賃借権をCに対抗できること、が必要である。

2(1) まず、CはAと本件土地賃貸借契約を締結していることから、この賃借権をBに対して占有正権原として主張することが考えられる。しかし、Aは甲1部分の所有権者ではなく、これについての処分権限を有しないから、上記契約に基づく甲1部分の賃借権をCに対抗することはできない。

(2) そこで、Cが甲1部分の賃借権を時効取得したとして、これをCに主張することが考えられる。もっとも、賃借権の時効取得は認められるか、賃借権が「財産権」(163条)にあたるか。

 確かに、債権は通常1回的給付を目的とするものであり、継続的利用という時効取得の基礎になじまない。しかし、賃借権は目的物の継続的使用収益をその内容とすることから、継続性という時効取得の基礎を有する。また、その機能は、時効取得が認められている地上権に類する。

 もっとも、真の所有者の事項中断の利益を確保する必要が有ることから、①継続的用益という外形的事実があり、かつ、②賃借意思が客観的に表現されていると認められる場合に限り、賃借権も「財産権」として時効取得が認められる。

 以上のことに加え、Cが善意無過失での賃借権時効取得を主張すると考えられることを考慮すると、上記賃借権の時効取得が認められるための要件は、①継続的用益という外形的事実、②賃借意思の客観的表現、③自己のためにする意思、④平穏・公然性、⑤善意無過失、⑥①の開始から10年の経過、となる(163条、162条2項)。

(3) 本件において、Cは甲1部分を占有していることから、③自己のためにする意思の存在、④平穏・公然性、⑤のうち善意が推定される(186条1項類推適用)。また、CはAと平成16年9月15日本件土地賃貸借契約締結後、同年10月1日に同契約に基づく引き渡しを受けた後から、同契約の約定どおり、Aが指定する銀行口座に同月文以降の賃料を振り込んでいたことから、②賃借意思の客観的表現が認められる。

 しかし、平成16年10月1日にCが本件土地の引き渡しを受けた後も、本件工事は、請負人である建築業者の都合で大幅に遅れており、本件土地は全く利用されておらず、更地のままであった。確かに、請負人の都合のみでCがに不利益を課すのは妥当でないとも思われるが、継続的用益の外形的事実が要件として必要となるのは、上記のとおり時効中断の機会を確保するためであることから、本件土地が更地である以上、その時点で継続的用益の外形的事実は開始されていないというべきである。したとして、①Cが継続的用益という外形的事実を開始したのは、本件土地についての本件工事が開始した平成17年6月1日からである。そうすると、⑥BがCに対し、上記請求につき訴えを提起した平成27年4月20日には未だ10年の時効期間を経過しておらず、Bの訴え提起によって上記Cの時効は中断している(147条1号)。

 以上のことから、Cの主張は⑥10年の時効期間の経過を満たさず、認められない。

設問2

第1 解除の要件

 Aの解除の主張は、CのDへの転貸・賃借権譲渡を理由とするものと考えられる(612条2項)。612条2項に基づく解除の要件としては、まず、賃貸人の承諾なく賃借物を転貸・賃借権譲渡をした事実(同条1項)及び第三者に賃借物を使用・収益させたこと、が必要である。ここにいう使用・収益させたといえるためには、第三者に実際に使用収益させたことが必要である。なぜなら、612条2項が無断転貸・賃借権譲渡があった場合に解除できるとするのは、類型的に賃貸人・賃借人間の信頼関係が破壊されたといえることに基づくところ、第三者が転貸・賃借権譲渡に基づき実際に賃借物を使用収益した時点で初めて、このような類型的な信頼関係が破壊があったといえるからである。

 また、賃貸借契約は賃貸人・賃借人間の信頼関係に基づく継続的契約であることから、上記各事実に加えて、転貸・賃借権譲渡が背信行為と認められない特段の事情がないこと、も解除の要件となる。

第2 下線部①②の法律上の異議

1(1) まず、下線部①について、Cが丙建物をDに賃貸したことが、本件土地の転貸にあたるか。借地上の建物の賃貸が、借地の転貸に当たるか。

(2) 借地上の建物が賃貸されたとしても、当該借地の転貸には当たらない。なぜなら、あくまで建物賃貸借契約の目的物は当該建物であり、借地を建物賃借人が使用するのは、建物を賃借したことで従たる権利(87条2項類推)として事実上使用しているにとどまり、土地の賃借人はあくまで土地賃借人のままであるからである。

(3) したがって、Cの丙建物のDへの賃貸は本件土地の転貸には当たらず、下線部①は法律上の意義を有しない。

2(2)ア 次に、下線部②について、CとDは、専らCの診療所の患者容駐車場として利用されてきた甲2土地を、丙賃貸借契約以降は専らDの診療所の駐車場として利用することを確認している。したがって、これは本件土地のうち甲2部分の賃借権をCからDに譲渡する旨の契約であるといえる。

 また、この賃借権譲渡に基づき、平成28年5月1日以降、Dは自らの診療所の駐車場として利用を開始している。

 では、背信行為と認められない特段の事情があるか。

イ この判断にあたっては、物的側面のみならず、人的側面をも総合考慮して決する。

ウ 本件において、確かにその利用形態においては、Dの利用も、従前のCからの利用と同様、診療所の患者用駐車場と同一である。しかし、Dの利用開始後、3台の駐車スペースのうち1台は救急車専用のもとして利用されるに至っている。救急患者は昼夜問わず生じる可能性がある以上、これを搬送するために利用される救急車の出動も昼夜問わず行われることになる可能性があり、そうするとそれまでなかった近隣住民からの苦情に土地所有者であるAが対応しなくてはならなくなる危険性がある。

 さらに、DはCの単なる友人であり、家族等でもない。

 したがって、CのDに対する上記賃借権譲渡には、背信行為と認められない特段の事情はない。

 よって、Aは解除の要件をみたす。この意味で、②は法律上の意義を有する。

3 したがって、Aは本件土地賃貸借契約を解除することができる。なお、甲2部分は本件土地の一部を構成している以上、その賃借権譲渡を理由として本件土地賃貸借契約全体を解除することができるのは当然である。

設問3

第1 考えられる反論

 Cの反論としては、本件土地の賃借権をEに対抗できるとして占有正権原の抗弁を提出することが考えられる。その根拠は、本件土地の賃借権をEに対抗できれば、Eの請求である本件土地の所有権に基づく返還請求権としての丙建物収去土地明け渡し請求の請求原因である本件土地のE所有権及びC占有の事実と両立し、その効果を覆滅させることができるからである。

第2 Cの反論の当否

1(1) Cの上記反論が認められるためには、①Cが本件土地につき賃借権を有していること、及び②この賃借権をEに対抗することができること、が必要である。

CはAと本件土地賃貸借契約を締結している。したがって、①Cは本件土地につき賃借権を有する。

なお、上記のとおり、Aは本件土地賃貸借契約の解除権を有しているが、平成28年9月20日AとCは、AがCのDに対する賃借権譲渡を問題にしない代わりに、CがAに対して50万円を支払うという内容の和解契約を締結している(695条)。これによって、同和解契約の本質的要素であるAの上記自由に基づく解除権の放棄に確定効が生じることから(696条)、Cの上記賃借権は存続する。

そして、Cは本件土地上に丙建物を建築しており、これにつき平成18年2月15日にC名義の所有権保存登記を具備している。したがって、借地借家法10条1項により、本件土地についても対抗力を具備している。したがって、Cは上記賃借権を「第三者」であるEに対抗できる。

2(1)これに対して、Eは、Aと本件売買契約を締結する際、AからCの本件土地に関する賃借権はCの契約違反を理由に解除されており、Cは速やかに丙建物を収去して本件土地を明け渡すことになっている旨の虚偽の説明を受け、これを信じて本件売買契約の締結に至っていることから、Eの信頼を保護すべきでないか。CとAとの間に通謀はないので、94条2項の類推適用が問題となる。

(2) 94条2項は、虚偽の外観を信じたものに対して帰責性のある真の権利者の犠牲のもとで第三者を保護するという権利外観法理を採用したものである。したがって、①真の権利者の帰責性、②虚偽の外観、③相手方の信頼がある場合には、94条2項の類推適用が認められる。

(3) 本件において、①Eが上記信頼を有するに至ったのは、Aが勝手に虚偽の説明をしたことに由来するのであって、このことにつき権利者であるCには何らの帰責性もない。また、③Cの帰責性の低さに鑑みれば、Eとしては、CにAの説明が真実か確認すべきであり、その確認はCに連絡をとるのみで容易であるところ、Eはなんらの確認も行っていないことから、Eは善意だとしても、重大な過失がある。

 したがって、94条2項の類推適用は認められない。

3 以上より、Cの上記反論は認められ、Eの請求は認められない。

以上