皆様ご存知の通り、衆院選は自公両党が326議席を確保し圧勝致しました。

多くの国民が安倍政権に日本の未来を託したと言っても過言ではないでしょう。


アベノミクスの是非を問い、この道しかないという安倍総理の訴えは、キャッチーで非常に分かり易く、多くの国民が自民党を選択せざるを得ない状況を作り出しました。安倍総理は自民党総裁としては正しい判断をされたのだと思います。


恐らく、今回の選挙結果を受けて景気回復、社会保障改革、規制緩和も進んで行くと思われますが、、

懸念されるのが「財政規律」についてです。


今回のアベノミクスの1本目の矢と言われる金融緩和は、今のところしっかりと機能していますが、これは諸刃の剣であり、一歩間違えれば(追加金融緩和を乱発すれば)国を破滅へと追い込みかねない政策です。


歴史を振り返ると、実は金融緩和による悲劇は世界で繰り返されています。

近代史における表例を2つほどご紹介したいと思います。


まずは18世紀フランスにおいて
経済思想家ジョン・ローは、それまで職を転々としていましたが、当時財政危機にあったフランス政府に取り入り、権謀術数を尽くして異例の出世を果たします。


更には当時の最高権力者ルイ15世を抱き込み、フランス王立銀行(現在の中央銀行にあたる)を設立し、フランスを金属貨幣経済から紙幣経済に移行させます。


ローは勢いに乗り一般銀行も次々に設立し、紙幣の使用をフランス中に広めます。


一方でミシシッピ会社という海外貿易特権や開発権を持つ会社を設立し、同社総裁に就任。インドや中国に利権を持つ会社も次々合併をさせ、最終的には当時開拓され始めたばかりのアメリカミシシッピ川流域に目を付け、大規模開発に乗り出して大量の株(今でいう転換社債)を発行します。




当時のミシシッピ流域


しかし巧みなIRとは裏腹に、ミシシッピ開発は頓挫していました。想像以上の沼地に当時の技術では埋立が困難を極め、更には黄熱病の流行により開拓者達の80%が死亡、大失敗に終わるのですが、ローはそれをひた隠し、ミシシッピ会社株は実際の20倍以上の価値を付けるバブルとなります。



ミシシッピ開発会社の株価


今の日本に例えると、日本銀行の黒田総裁が三井、三菱、住友などのメガデベロッパーを統合し、アフリカに乗り込んで大規模開発を行い、上場して資金調達を行って、その資金を供給する為に量的緩和を行うようなものでしょうか。


ジョン・ローは稀代の起業家であり、蛮勇を持った銀行家であり、詐欺師であり、夢想家とも言えるのかも知れません。


ちなみにジョン・ローのこの一連の経済政策は、数年間はフランスに空前のバブル景気をもたらし、フランス政府の財政赤字解消に貢献します。


しかし、終わりはあっけないものでした。

ミシシッピ開発に疑念を持った一部の投資家による取り付け騒ぎが起こると、それが全国に広がり、人々は紙幣を投げ出し、金銀貨幣に戻そうと躍起になります。


ミシシッピ開発の失敗が露見したのです。


ジョン・ローは経済を安定させるため更に追加の量的緩和に踏み切りますが、すでに従前の4倍となって世に溢れた紙幣はハイパーインフレを引き起こし、結局フランス経済を壊滅に追い込み、フランス革命の遠因になったと言われています。


信用創造で成り立つ現代の通貨管理制度とは、斯くも脆いものなのかと考えさせられる歴史の1ページです。


文豪ゲーテはこの一連の事件にインスピレーションを受け、代表作「ファウスト」を書き上げたと言われています。


悪魔にあの世の魂の服従を条件に、この世のありとあらゆる人生の快楽経験を約束させるファウスト。

財政規律に苦しむ国の皇帝に仕えたファウストは、悪魔のアドバイスを皇帝に囁く。


「紙幣を刷れば、世の中にお金が溢れ、国の景気は良くなる」

皇帝はこの政策を取り入れ、帝国の景気は浮揚し、財政規律は回復。


悪魔は言う。

「魔法の紙幣で酒と女におぼれましょう。紙幣は便利な道具なのです」


200年も前に、ゲーテは信用創造の恐怖を予見していたのです。


一方、約100年前に第一次世界対戦で敗れたドイツは、ゲーテの警告を忘れハイパーインフレによる国家財政破綻を引き起こしています。


このエピソードは多くの方がご存知だと思いますが、ドイツは第一次大戦の敗北によって連合国側に多額の賠償金の支払いをする為、そして疲弊した経済を立て直す為、紙幣を大増刷し空前規模の量的緩和を行います。


結果はご存知の通り、一兆倍ものハイパーインフレを引き起こし、パン一切れを買うのに紙幣をリヤカーに積んで支払いをするという異常な状況となり財政は破綻、ナチス台頭の遠因を作り出してしまいました。


現在のEUがこれだけ経済の低迷期にありながらも、量的緩和を渋っているのは過去の反省に基づいているのです。


日本も確かにここまでは正しかった。この道しか無かった。

しかし、ここからは歴史に学ぶ精神が肝要と感じます。