それは仲秋も間近に迫ったある暮方
薄暗い住宅街をゆっくり歩く人影とすれ違う
まるで印象に残らない
特徴もない一人の女
若くはないが、年寄りでもない
すれ違いざま伺いみた横顔は
無表情に、携帯を耳にあてている
よくあるそんな景色に
興味を失い視線を外しかけたとき
ふと違和感に囚われる
無表情な女の顔
その顔はじっと動かない
ただ携帯を握り続けるだけで
話をしている様子もない
無表情なその口元も凍りついたようにかわらず
結局すれ違いきるまでずっと見つめ続けていたけれど、女はこちらに一瞥すらよこさなかった
どうにも気にかかり
一呼吸おいた後、ひっそり振り返るがその姿は薄闇に溶けたようにみつからない
小路に入ったのか、とも思いながら、けれど残る違和感が拭えない
月夜の
月明かりの届かない小路で
どこか違う時間に迷いこんだような
淡い齟齬に囚われていた
by blue