魔法だ。
「この靴をぴったりはける者を探している。試してみるものはおるか?」
そのサイズはまさにアタシにぴったりだったので、ぜひ履かせていただきたいと申し出た。するとほどなく箱一杯の靴とドレス、異質に思えたがめっぽううれしいキャンドルセットがご使者によって届けられた。
それらはアタシが手にしたことも無いような、そのどれかを一足買うのにも多大な勇気がいるような高価な品々。リトルシスターともども、この降って湧いたビッグプレゼントに狂喜乱舞になるわいさ。
これをわれらに賜った感激と感謝をご使者のかたに託して、その夜は興奮でねむれなかった。どの靴をはいて、何処へ行こうなんていう悩みがあること自体知らなかったが、そんな煩悩の種類もあったのか。
翌日、トイレットペーパーを買いに出る用事があったので、さっそく、とにかくはいてみようと中でもお気に入りの靴を選んで出かけてみた。
このささやかな買い物に靴に悩んでみるなんて!それも履くものがないんじゃなく、選ぶのに苦労してみるなんてなんて新しい分野だろう!
その眠り続けてきた新しい靴は、この外出で時間を取り戻してしまった。
いっきに塵にかえっていくさまを呆然と見送った。
真新しい姿を留めていたのに・・・。
ああ、おとぎ話のお姫様のよう。時間を取り戻すのがどういうことかの残酷よ。
それでもまだまだ靴はたくさんあるのだ。飽食だ。酒池肉林だ!?
ご使者のかたも言っておられたうちの出来事ではあった。
永い間眠っていた靴たちだから風化する可能性は十分にあると。
惜しみつつ、止められない風化に立ち向かう心の準備と、このすばらしい贈り物をどこに保存していくかでまた考えねばならなかった。器は決まっているのだ。入れるのであれば何かを出さねば納まらない。
それは30日の真夜中の事。
再びご使者が現れて、前回の3倍とも4倍ともわからない大量の贈り物を届けてくださったのだっ!「要らぬものは捨てるがよい。」靴・靴・靴、そして衣装に装飾品・・・!魔法でしょ、やっぱりこれは!捨てていいような品じゃない。
ちらりと、悪魔の影がよぎった気がした。アタシは悪魔に強欲振りを試されているのか?物欲の満たされた嬉しい中で死ねるならそれは本望であろう、とでもいわれているのか!?この幸運は、まるまるラッキーで片付くものなのか?
それらに眼を通すだけで、かるく夜が明けた。
部屋一杯の靴の箱やら衣装やらで、からだを横たえる場所も無い。
収納場所を、作らなくては。そして31日、とっくにハロウィン当日になっているというのに祭りの準備だの実感どころか、こともあろうにこのアタシが、押入れの大手入れでのっぴきならない状態に陥ってしまったのだ!
最後に大手入れをしたのは何年前だったか。衣替えもついでに、ますます部屋はカオスと化した。いや、ほんと、にゃあたち大興奮なんてはんぱねぇ・・・。
どれだけ格闘した事か。何袋のゴミ袋をいっぱいにしたことか・・・。
やっと外見上、いつもの部屋にもどった。部屋は相変わらず雑然としているが、押入れの中は整然だぜ!
片付け終って最後に残った茶色の小箱はキャンドルセット。
ああ、これは。
最初見たとき異和感と共に意味深に思えたのは、今のこの状況を暗示していたからなのかな。それはかわいい、りんごのセット。
水に浮かべて灯火をゆらす手の中に入るりんごが4つと、びんづめのりんごの香るキャンドルに、りんごの絵のついた紙ナプキン。かわいいだけで、こころ惹かれていたんじゃなかったのかな。
「りんご」で「ハロウィン・・・カボチャ・・・カボチャの馬車」からの「プレゼント」じゃ、キーワード的にズバリ魔女のお仕事じゃないか。出来すぎってもんじゃないか?
アタシはすっかり心奪われ、ぶっ続けでの一昼夜の掃除によって魂も抜かれ、今けっこうな放心状態でハロウィンナイトを迎えようとしているんだよ。それでもまだ部屋の地表は手つかずだけども。
やっぱりすごい手際と手並み。
ここに現れた魔女は、しっかりアタシを踊らせて、タマシイの欠片のかわりのプレゼントを置いてったんだ。
せめて。何も出来なかったに等しいハロウィーンパーティーだけれど、そんな魔法な世界があったことを書き留めておこう。
そして牧場を、一面のカボチャ畑に変身させよう。
そのうちに、カボチャパイが出現するかもしれないし、
そしたらこのりんごのキャンドルを水に浮かべて 葡萄酒で乾杯しよう。
どうだろうかな?あの靴たちのどれだけ分が風化の魔法にかかってるのかな?
どきどきしながら、これからは、片っ端からはいていく。
Happy Halloween!!