中学受験をする上で悩ましいのが、いわゆる前受け校問題ですね。前受けという表現が正しいのかは難しいところですが、いわゆる前受け校と言われる学校はその魅力と合格難易度からしても決して滑り止めやお試しにはならないところも多々ありますし、もちろん第一志望校の受験生も大勢います。
首都圏では日程的に埼玉県の学校の入試が最も早く始まり次に千葉県が続くので、これらの県にある学校で複数回試験日程がある学校が候補になることが多いです。有名なところでは栄東中学校や昨年度は出願者数が日本一にもなった開智所沢を含む開智学園などが挙げられます。
大体の塾が推奨する前受けですが、費用、年明けの貴重な時間、あと何より感染症への罹患のリスク、疲労、合否結果が及ぼす2月入試への影響などが読みづらく、躊躇してしまうのも理解できます。
結論を先に申し上げますと、何かしらの形での「入学試験」としての前受けは必要だと判断します。「入学試験」として、と書いたのは学校が提供する本番環境を体験する事を意味しています。
9月から始まる各塾の模擬試験の中には、実際の志望校となる中学校を試験会場として使用する場合もありますし、志望校の入学試験との類似性という意味では各塾が用意する学校名を冠した模試や過去問には前受け校の本番は遠く及ばないでしょう。
塾が喧伝する「合否や受験生の中での順位などで自らの立ち位置が分かる」のは前受け校受験のあくまでも2次的な効果のようなもので、やはり一番の目的は本番環境に「慣れる」事です。慣れるは言い過ぎでも経験する事が何より大切です。
我が家の経験では前受け校として受験した栄東は立地の関係から通学は厳しく、本番環境の経験を得ることだけが受験の目的でした。過去問も数年分はこなしましたし、従前の模試の判定などでも特に問題は無さそうでした。それでも受験当日のあの本番の独特の雰囲気に息子は飲み込まれていました。いつもの模試とは違い明らかに緊張感、焦燥感に駆られていました。
他の受験生も同様で、強張った表情で無言のまま歩き続けている親子もいれば、逆に気持ちが高ぶってか「今日は大丈夫だ」みたいな趣旨の事をわざわざ他人に聞こえるように放つ子どもがいたりしました。また、こころなしか親子で痴話喧嘩みたいに言い合っているケースも普段より少し多いなと感じました。
やはり誰もが初めての入学試験というものに対する漠然とした不安があって、多くの受験生で溢れかえる試験会場で増幅された環境だったと思います。
学校に到着し試験会場に送り出す直前、保護者がこの先には進めないエリアの端で息子が「あ〜まずいなあ、でもやるしかないな」と独り言を言ったのを覚えています。体調こそ良さそうなものの、前泊したホテルの当日の朝食は普段と比べ少な目、同じ学校の受験生と思われる大勢の小学生とその親がいるホテルを早めに離れたがってもいました。今思えば緊張の極限に近い状態だったのかも知れません。
試験終了後親と合流した後の第一声も「やらかした、算数の〇〇と〇〇の答え、入れ違いで記入した。普段やった事無いのに」と吐露。どんなに点数の悪い模試でも、終わった開放感から試験自体への言及が無かった息子が初めて漏らした試験に対する後悔でした。それほどプレッシャーがかかるのが入学試験本番なんだと思います。
我が家の場合この栄東の受験の次が2月1日の第一志望校受験となるスケジュールでしたので、栄東の受験後に「こんなに本番緊張するのであれば2月大丈夫か?」と急遽別の前受けを増やすべきかと心配になったくらいです。直前での受験校追加はハードルも高く、実現はしませんでしたが少し影を落とした出来事でした。
なお、受験が終わって一段落した頃に、中学受験通して一番緊張した瞬間は?と息子に問うたところ「栄東の受験直前」と即答。第一志望校に関することを差し置いての1位です。また「前受け受験に意味はあった?」に対しては「あれ(前受け)は緊張した、本番慣れは一回は絶対必要」と。実際、一回経験した事で気持ちの整理をつけられたのか2月1日は適度な緊張感を持ったベストコンディションで迎えられました。
これから6年生は受験校や併願校などの一連の受験スケジュールを固めていくことになると思いますが、その際に以上のような経験が少しでも参考になればと思います。