前回のブログで,神経を刺激しているのに筋肉を刺激しているような解説の問題集を批判した。とても重要なことだからだ。次に,神経を刺激しているのか筋肉を刺激しているのかが重要な問題を紹介する。
問題
脊椎動物は,心臓・血管・リンパ管をもちいて体液を循環させている。心臓は血液を循環させるはたらきを担っている。心臓の拍動の調節のしくみを調べるため,カエルの心臓を使って実験1~4を行った(図1)。
実験1 カエルの心臓の拍動は,2種類の自律神経である神経Xと神経Yを含む心臓神経で調節されている。カエルの心臓を心臓神経を付けた状態で取り出し,リンガー液中に浸したところ,心臓は拍動を続けた。
実験2 神経Yのはたらきを抑える化学物質をリンガー液に加えて心臓神経を電気刺激すると,拍動が遅くなった。この心臓を取り除き,拍動している別の心臓をこのリンガー液に浸したところ,その拍動も遅くなった。
実験3 神経Xのはたらきを抑える化学物質をリンガー液に加えて心臓神経を電気刺激したところ,拍動は速くなった。
実験4 心臓を直接電気刺激すると,刺激している間は拍動が乱れたが,刺激をやめると拍動はすぐに元にもどった。
問3 実験1~4の結果の説明として最も適当なものを一つ選べ。
① 取り出した心臓がリンガー液中で拍動するには,常に神経XとYのはたらきが必要である。
② 電気刺激された神経Xを介して心臓が電気刺激され,拍動を遅くする化学物質が心臓から放出された。
③ 神経Xが電気刺激されたことで,拍動を遅くする化学物質が神経Xの末端から放出された。
④ 神経Xが電気刺激されたことで,拍動を遅くする化学物質が神経Yの末端から放出された。
⑤ 神経Xが電気刺激されたことで,化学物質が神経Xの末端から放出され,それが別の心臓の神経Yを刺激して拍動を遅くした。
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本問は一見考察問題のようだが,実は考察するのは,神経Xが副交感神経,神経Yが交感神経であることだけで,あとはすべて教科書レベルの知識で解ける。
実験1:心臓の右心房壁に独自に拍動のリズムを作り出す洞房結節(「とうぼうけっせつ」と読む)があるのだから当たり前だ。(厳密にはカエルでは洞房結節とはいわない)
実験2:Yを抑制すると拍動が遅くなった。これはYの,拍動を速めるはたらきが抑制されたと考えられるので,Yは交感神経である。
実験3:同様の考え方で,Xは副交感神経とわかる。
実験4:筋肉は外部からの電気刺激で収縮する。洞房結節の作用で一定のリズムで収縮と弛緩を繰り返しているところに電気刺激を与えるのですから拍動が乱れるのは当然である。
① 実験1から否定できるが,知識で否定すべきであろう。心臓は神経とは無関係に一定のリズムで拍動する。これを心臓の自動性と言う。自動性の中枢は(ヒトでは)洞房結節である。
② ちょっと騙されそうな文である。神経を介して心臓を電気刺激することはできない。それに,心臓という筋肉が電気刺激されたらリズムとは別の収縮が起こって拍動が乱れるはずだ。副交感神経である神経Xを刺激したら,拍動が遅くなるのであって,乱れることはない。この程度の知識は持っていて欲しい。心臓が拍動を遅くする物質(アセチルコリン)を放出するもおかしい。誤りだらけの選択肢である。
③副交感神経である神経Xを刺激したら,拍動を遅くする物質アセチルコリンが末端から出る,といっている。教科書レベルの知識で間違っていないことがわかる。
④副交感神経のXの興奮によって,交感神経Yからアセチルコリンが放出・・・。もうめちゃくちゃで,わかりやすい誤りである。
⑤実験2を説明しているフリの選択肢である。前半はまちがってないのだが,後半で,アセチルコリンが交感神経Yを刺激して,といっているので,これも教科書レベルで否定できる。
以上より,正解の選択肢は③だとわかる。刺激部位が,神経なのか心臓という筋肉なのかちゃんと区別する必要のある問題だということが分かったであろうか?
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補記:本問の図では交感神経と副交感神経が束になって1本の心臓神経(束)として心臓につながっているが,副交感神経は延髄から出る迷走神経に含まれ,交感神経は胸髄から出ており(いずれも教科書レベル),両者は一体となって心臓に接続しているのではない。ただし,私はカエルの専門家ではないので,カエルはそうなのかもしれないが・・・。