いつから予備校生物はダメになったのだろう。私が受験生のころ使った生物の問題集参考書の著者は,吉田邦久先生,柴山文雄先生,中嶋寛先生,などであるが,この方たちの著書は今見ても愚かな誤りはほとんど見当たらない(古いので解釈が変わってしまっているものには対応できていないが)。それに比べて,今,売れ筋の書店に平積みになっている参考書問題集の愚かさは何度も本ブログに書いた通りだ。なんでこんなにダメになったのだろうか。現代のダメ講師=孫引き講師がデビューするころからインターネットによる検索が充実し,なんでも手軽に調べられるようになったというのは,関係ないだろうか? おそらく,大学生のころから,レポートや卒論なんかネットで拾ったものをそのままペーストしたりできた時代なのかもしれない。まさに孫引きなのだが。このため,大学の図書館にこもって文献をあさり,いろんなものに目を通すことで,計らずも調べたいこと以外の周囲の知識まで得たり,いろんな視点から物を見る目が鍛えられたり,基本的な事項の解釈でも学者間でかなり異なっていることを知ったり,という大切な経験をしていないのではないか? 手軽に検索で虫食い的に知識をつまみ出すことに慣れてしまい,またその知識が正しいと信じ込んでいる。だから今,大学の分厚い教科書を読む気にはなれないし,ほとんど読んだことが無い。だから岩波生物学辞典が限界だし,岩波は絶対だと盲信している・・・,のかもしれない()

 ここを見た受験生さんは,前記の3氏の本を使ってみようと思うかもしれないが,現代の,口語体でイラストが多く必要以上に説明が充実している(まちがっているのだが)参考書に慣れている人にはたぶん合わないと思う。

 いきなりだが,受験生諸君は次の用語を知っているだろうか?

 ① サーモジェニン

 ② 表層果粒

 ③ ビコイド

 ①は帝京医学部,②は杏林医学部,③は愛知医大医学部で近年出題されたものだ。これらの用語自体を問われているわけではないのだが,これらが関連する生物現象の知識を備えていないと考察に時間がかかったり,解答不可能だったりするのだ。これらの用語の知識は単に直接問われたときに役立つだけではない。より深くて広い思考が可能になり,他の知識を獲得しやすくなるのだ。


 受験生諸君は次のことを区別できるか?

 ① 酵素とタンパク質

 ② 遺伝子とDNA

 ③ コドンとトリプレット

 ①はいささか易しいが,②と③はやや難しいであろう。これらを同じ形式で区別できることは,生物を理解するうえで大変重要なことなのだが十分には指導されていないであろう。


 受験生諸君は次のような不適切な思い込みをしていないか?

 ① 「膨圧」は細胞膜が細胞壁を押す力。

 ② 濃い液体を「高張液」という。

 ③ 卵黄が少ない部分を「動物極」という。

 ①は,膨圧が低下すると細胞が膨らむというセンター試験でも出題されたあたりまえの現象を説明できない。②は海水生硬骨魚の濃い尿を「等張液」ということを説明できない。③はウニなどの等黄卵の動物極を説明できない。


 生物の勉強や入試問題の演習では次が重要である。

 ① 正しい知識

 ② 正しい比較

 ③ 正しい理解

 ①正しい知識は次のステージに発展しやすい。②正しい比較は知識の定着が容易になり,③の正しい理解にもつながる。


 なんか抽象的で申し訳ないが,思いつくままに書いてみた。具体例の紹介は次の機会にする(一部はもう示してあると思うが)

詳しく説明して欲しいものがあったらコメントしてください。

213 記憶細胞は記憶B細胞だけ。→記憶ヘルパーT細胞と記憶キラーT細胞もあります。

214 自然状態の植物でも原形質分離を起こすことがある。→起こりません。

215 BCGとは結核菌のこと。→違います。

216 染色体は分裂中期に細胞の赤道面に並ぶ。→誤った表現です。

217 体細胞分裂は均等分裂である。→でたらめです。

218 ヒトはヘビ毒に対する抗体をつくることができない。→できます。

219 糖質コルチコイドは脂肪からのグルコース生成を促進する。→動物にはそんなことはできません。

220 抗原提示するのはマクロファージだけ。→他にもいっぱいあります。

221 リンパ球には食作用がみられない。→B細胞は食作用をもちます。

222 アユはコケ植物を食べる。→食べません。

223 交感神経の興奮で,呼吸運動が速く浅くなる。→なりません。

224 教科書などのウニ卵の図に極体が描かれていないのは,小さいので省略したから。→違います。

225 カエルの受精卵は受精膜をもたない。→もってます。

226 「中間遺伝」という生物用語は存在しません。

226 「碁盤目法」という生物用語は存在しません。