このマーヴィンのラウンドは、ある時計店のボール紙の箱の中から発掘したもの。

オーバーホールは済んでいたものの、展示などされず、大量のエニカに紛れていたのをみつけたのだった。

マーヴィンは数年前に日本へと再上陸を果たし、現在もベーシックなラウンドモデルからビビッドなカラーリングのものまで、魅力的なコレクションをリリースしている。

アンティーク市場でのシェアはどれほどのものか分からないが、少なくとも日本では決して多くないだろう。

ケース径は32mm。

今やレディースウォッチのサイズではあるが、飾り気のない顔つきはメンズのそれだ。

全体像

正面

文字盤は一部が酸化しているものの、ギラギラし過ぎず、良い雰囲気を保っている。

真鍮にクリアのラッカーだろうか。


インデックス、ブランドロゴは植字だ。

文字盤アップ

アラビア数字、楔、ポイントの組み合わせと言う、なんともユニークなものである。

しかし、決してくどい顔つきではなく、むしろ良いアクセントとなっているように感じる。

プリントのにじみが見受けられないことからも、手抜きは無いといって良い。


側面のバランスは、個人的に非常に好みである。

側面

ラグの凝った作りも良い。

ラグ

小径であることから、一見厚く見えるものの、実際は薄く作られている。

当然のことだが、その厚さは自動巻きと比べると天地の差であり、ストレスを感じない、吸い付くような着用感だ。


形状は平坦でシンプルながら、長針と短針の間が詰められた針。

針立て付け

秒針のみ余裕を持って取り付けられているが、違和感を感じない。

文字盤同様、酸化が進んでいるものの、インデックスと同じ処理が施されているのか、文字盤より濃い金色だ。

それがコントラストとなって視認性を高めている。


裏蓋はポリッシュされたスナップバック。

裏蓋

内側には目の詰まった丁寧なペルラージュが。

裏蓋の裏

見えないところに手を掛けるのは一流の証拠だ。


ムーブメントのサプライヤーは不明。

ムーブ全体

刻印からCal.560、3姿勢調整、17石と分かる。

耐震装置が付いていない事から見て、1940年代のものか。

脱進機アップ

地板、受け共にヘアラインが施されており、ネジの頭はポリッシュされている。

プレートアップ

一見地味に見えるが、製造された(予想される)年月を考えると、手を掛けた仕上がりと言えるだろう。

ブルーのひげゼンマイが実に美しい。


購入した時計店の主人はどこまでこの時計の価値を理解していただろう。

発掘しなければ、おそらくボール紙の箱に収められたまま、日の目を見ることは無かったのではないだろうか。

その時はエドックスの古時計を購入するつもりで行ったのだが、展示していないストックがあるか聞いて良かったと思っている。

エドックスも良かったが、個人的にはこちらの方にオーラを感じたのだ。

一見、劣化を感じる時計ではあるが、バランスの良い仕上げといい、デザインの良さといい、一目惚れと言ってよかった。

現行品には感じない魅力を感じさせてくれる好例ではと、今でもそう思う。