酸化的代謝とは、代謝反応における第Ⅰ相反応の一つである。
反応は、高電子密度の部位で起こりやすい。
また、
・N, O, S などの孤立電子対を持つヘテロ原子
・π電子を持つ二重結合
・ベンジル位の水素原子
なども、一般的に反応性が高いことが知られている。
これらは、水素引き抜きを経て、水酸化を受ける。
酸化的代謝は、薬物が代謝酵素に結合した後、
酵素側が反応性の高い部分骨格を認識、酸化しているものと考えられる。
したがって、
・代謝酵素に対する結合性
・化合物固有の電子物性、分子軌道的知見
上記2点を考察する必要がある。
よく知られている酸化的代謝反応は、以下の通りである。
赤のやじるしで示した反応は、酵素が介在することによって進行する。
一方、黒のやじるしで示した反応は、非酵素的に進行する。
■ 脂肪族酸化 (ω酸化)
■ 脂肪族酸化 (ω-1酸化)
■ オレフィンのエポキシ化
■ 芳香環の酸化
■ O-脱アルキル化
■ N-脱アルキル化
■ 脱アミノ化
■ N原子の酸化
■ S原子の酸化
■ アルコールとアルデヒドの酸化
■ アリル位の酸化
■ ベンジル位の酸化
■ 酸化的脱ハロゲン化
塩素系農薬であるDDT, BHC, ヘキサクロロシクロヘキサンなどは、
酸化的代謝を受けて、脱ハロゲン化される。
ハロタンやメトキシフルランも酸化的脱ハロゲン化を受ける。
その結果、トリフルオロ酢酸、ジクロロ酢酸にそれぞれ変換される。
■ 簡単な例
例として、シンナーの主成分であるトルエンの代謝経路を以下に示す。
トルエンが体内に入ると、第Ⅰ相反応により、安息香酸まで酸化される。
次に、第Ⅱ相反応によって、安息香酸がアミノ酸抱合を受ける。
最終的には、馬尿酸として体外に排出される。
各ステップを、logPの計算値で追跡すると、
まず、ベンジルアルコールが生成した段階で、
脂溶性が大きく低下しているのが分かる。
第Ⅱ相反応の段階では、logP が0.53まで低下している。
その結果、水溶性の劇的な向上が見られている。
上記の例における第Ⅰ相反応の役割は、トルエンの水酸化による無毒化だけでなく、
第Ⅱ相反応を実施するための「反応拠点の形成」と見ることができる。
プロセスの初期で修飾拠点を形成し、続く反応で多様性や目的指向性を高める。
この考え方は、昨今の触媒的C-H官能基化反応の研究とも通じるところがある。
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