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          劇場でもらったカードです。

 

ブルース・リーにとっての詠春拳の師匠、イップ・マンを主人公にしたシリーズの3作目。

前々作と前作をDVDで鑑賞しましたが、ナショナリズムを刺激する要素が強すぎる印象を受け、このシリーズの完全なファンにはなれませんでした。

それでも今作を劇場で観る気になったのは、予告編を観たのが先日レビューを投稿した『アシュラ』鑑賞の際だったから。悪人だらけの『アシュラ』の世界観とラストシーンが強烈すぎ、「ピカレスク作品も大好きだけど、正義の味方が活躍する映画が恋しいよ~!」になってしまったのです。

 

もうひとつの理由は、ナショナリズムを刺激する要素が強かったとはいえ、前々作と前作における主人公の造形は好ましかったから。

今作でも、普段は謙虚で物静かで、敵と対峙した際も殺気立った様子を見せず、必要以上の攻撃をくわえないというスタンスは健在。

 

特に冒頭、息子が同級生とケンカしたという報告を受け小学校の職員室を訪ねるシーンは、本当に最高だった。

相手の男の子の怪我を案じ、空腹をおぼえていると知るや家に招いて夕食の団欒に参加させる。さらには息子に仲直りをうながすという、モンペアが存在しなかった頃の正しい親としての姿を見せられるにいたっては、その後の主人公を無条件で応援したくなります。

学校の職員室のシーンでは、女性教師とイップ・マンの妻の言動も素晴らしく、女性への敬意もしっかり表現されてました。

 

その後、イップ・マンが戦う動機も普遍的な正義そのものなので、勧善懲悪の快感に安心して浸ることができました。

「小学校に物理的な攻撃をしかける悪徳不動産業者なんて、いるわけねえ~」と一瞬思いそうになったりもしましたが、「いや、悪党にリアリティがないからこそ、イデオロギーを背景にした勧善懲悪と違い、現実世界から切り離された娯楽として純粋に楽しめるんじゃないか」と気を取り直し、素直な気持で、童心にもどって楽しむことができます。

さらに言えば、不動産業者が校長先生に土地売買の契約書への拇印を強制しようとするシーン。「おいおい、校長先生に土地売却の権限があるのかよ!」と一瞬突っ込みそうになりましたが、『北斗の拳』のケンシロウのような完璧なタイミングで職員室に登場したイップ・マンの活躍に溜飲をさげられるにいたっては、「野暮なこと考えて悪かった! この作品の世界観はもう理解したから、存分に勧善懲悪してくれ!」と改心し、心の中で喝采を送ることができました。

 

そのおかげで、主人公をはじめとした登場人物たちの正義感や優しさが、現実世界で疲れて傷ついた心に深く染み入り、涙ぐみそうになったりします。

実際、私の隣で鑑賞していた上品そうな年配女性、誘拐された子どもたちをイップ・マンが救出すべく戦うシーンでは、嗚咽をもらしてました。

その気持、よく分かります。普段の生活で蓄積されたストレスはもちろん、ここ最近の国内、国際問題の報道を見聞きするうち、心と神経がささくれ立ってしまうのは当然のことですから。

 

ネタバレにならないよう、ストーリーにはこれ以上言及しないことにしますが、主演のドニー・イェン、今までにいなかったタイプのカンフーアクションスターかも。

ブルース・リーはどの作品でもブルース・リーにしか見えず、ジャッキー・チェンはジャッキー・チェンにしか見えない。ジェット・リーも同じく。

彼らに演技の才能がないと言いたいわけでは、決してありません。このジャンルの作品では、ファンが自分にいだいているイメージをそのまま演じることこそが、観客を満足させる上で効果的であると、上記スターたちは考えていたのだろうと想像しているだけです。

ドニー・イェンはそれとは違う考えを持っているようで、作品に応じそれぞれまったく別の人格を演じ切ってます。

 

悪役のひとりを演じたマイク・タイソン。

彼が現役時代、リングの上で見せた醜態を忘れることはできませんが、俳優としての才能はかなりあるかも。

イップ・マンとの激闘シーンでは正直、現役時代と違いメトロノームのように上体を左右に往復させる動きがぎこちなく、頭で描くUの字も鮮やかではありませんでしたが、セリフ回しがかなり達者。

悪党として振る舞う凶暴さと、娘や妻と接するシーンでの優しさと、見事に演じ分けてます。

 

名前は分かりませんが、イップ・マンの妻役の女優さん。この人がいたからこそ、このシリーズの世界観が成立したと思います。