いずれにせよ、数か月にわたる格闘技トレーニングをほどこしたことから、水沢に香取を殺害させるつもりはないはず。タイマンでの勝負をさせるつもりと思われる。これはおそらく、厳しいトレーニングに耐えた水沢への報酬としての意味を持つに違いない。
そこまで考え、進士は気づいた。俺は世良という男を認めている。だからこそ罪を犯してほしくない。
さらに気づいた。
俺が世良に殺人者になってほしくないように、世良もまた、水沢に殺人者になってほしくないのだ。水沢の暴走を止めることを俺に期待している。ゼットにあてた置手紙の内容がそれを裏づけている。
水沢が自分の部下になったことをゼットに伝え、百合子への慰謝料と容易に想像がつく封筒を残したうえで、俺がタレントになる必要がないなどとわざわざ書いていた。
世良はゼットの頭の良さを認めている。あの置手紙を一読しただけで、これから香取に制裁するつもりであることに気づくだろうと計算したのだ。
俺が食べ物やゲームソフト、エロDVDを差し入れするうち、水沢は心を開くようになった。水沢自身、そのことを格闘技のトレーナーに話したのかもしれない。
それで世良は、俺であれば水沢の暴走を止めることができるだろうと計算したのだ。そんな世良を、身勝手だなんて思ったりしない。トレーニングをほどこした世良自身が水沢の暴走を止めたりすれば、水沢は裏切られた気持になるだろう。
俺自身、水沢の暴走を止める義務があると思っている。水沢を数か月にわたって匿った俺には、水沢が殺人者になることを防ぐ責任があるはずだ。
ゼットの携帯電話に発信し、言った。
「俺が話をつけてくる。お前はクルマで待機してろ」
『だけど……』
「俺を信じろ」
『ひとつ約束してください。丈成さんがいたら、すぐに俺を呼んでください』
『分かった』