彼女が座敷に上がるのを見送るのは嫌いだ。
俺は楼主で彼女は遊女だから、見送り見送られるのは当たり前の事なのだが。
平静を装い、送り出すいつもの言葉をいつも通りに吐くのが、日々苦痛だ。
そして夜。
戻りを告げる彼女を迎えて、漸く落ち着く。
…いつもなら。
漂う少し渋みのある香り。
あの男のいつも身に纏う香り。
だから嫌なんだ、あの男の元へ遣るのは。
あの男が来た日には、
俺の苛立ちは彼女の笑顔を見ただけでは消えない。
それと分かっていて、わざと強く香りを残す…
その嫌らしさが気に食わない。
だから、腕を引いて、閉じ込める。
いっそこの娘の肌の中まで、この香が行き渡れば
何時何処でも、俺だけのものだと、知らしめられるのに。
こんな事で心乱される自分を嘲笑いながら、
不快な香りのする着物を彼女から離した。
***
香り描写のある2人だからこそ、香りへの執着が強そうだったので…。