都青少年健全育成条例改正案の“妄想” | こんな本があるんです、いま

都青少年健全育成条例改正案の“妄想”

東京都は18歳未満を対象にした児童ポルノの規制強化のため、3月の都議会で「都青少年健全育成条例」の改正を目指していたが、内容に問題が多く、漫画家や出版社団体などの強い反対で、3月議会での成立を諦め、継続審議とした。流対協も反対のアピール(下記ブログに掲載)を採決直前に都議会各派に送った。

改正案には、実在する児童ではない漫画やアニメ(青少年性的視覚描写物)、ゲームのキャラクターを想定した「非実在青少年」の表現の規制や、ただ画像や図版を持っている行為を規制する「単純所持」規定などが盛り込まれている。

この何とも変な造語である「非実在青少年」というのはマンガやアニメ、ゲームなどに描かれたキャラクターで、「年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から18歳未満として表現されていると認識されるもの」と定義されており(18歳未満に見えるのであれば、規制の対象)、「性交又は性交類似行為に係る非実在青少年の姿態を視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として肯定的に描写することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの」を「青少年性的視覚描写物」と呼び、これを青少年が容易に購入したり閲覧できないようにする努力義務を事業者や都民に課している。

非実在青少年の作品には漫画やアニメ、ゲームなどが含まれるとされるが、東京都青少年・青少年課では「小説は含まれない」としている。

さらに、「青少年性的視覚描写物」のうち、「強姦等著しく社会規範に反する行為を肯定的に描写したもので、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を著しく阻害するものとして、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの」については、都知事が「不健全図書」に指定できるとし、青少年への販売などを禁止。これに違反し、警告に従わない事業者には30万円以下の罰金も科せられる。

報道によると、「青少年性的視覚描写物」への制限と同様、児童ポルノについても、都は根絶のために環境整備に努める責務があると規定。「何人も、児童ポルノをみだりに所持しない責務を有する」として、児童ポルノ法の改正をめぐり議論になっている単純所持規制についても踏み込んだ内容になっている。

都の青少年課は「現行でも不健全図書指定の対象の8割から9割は漫画だ。性的感情を刺激しないが、強姦や獣姦、何人もの女性への乱暴行為を賛美するといった反社会的な行為は、現在の基準では指定が難しい」と説明。単純所持規制についても「罰則はなく、児童ポルノを根絶しようという社会機運を高めるためのあくまで理念規定だ。国に先んじたわけではない」と話しているという。

もともと、ハードコア・ポルノは当然のこと、ポルノとは言えないものまで、刑法175条のわいせつ図画の頒布、販売目的の所持で引っ張られる国柄である。不健全図書指定以前の問題である。販売目的でもない私的利用の所持にまで規制を加えようなどというのは、とんでもない話しだ。

ポルノなどの表現については、被写体などにされる児童の人権などへの配慮は当然すべきだが、今回、規制派が目くじらをたてる漫画のキャラクターに人権などはない。ポルノは見たい人と見たくない人、同じ人でも見たい時と見たくない時など時期、年齢、場所、場面などさまざまである。問題は見たくない人にアクセスさせない方法を考えるべきで、表現そのものに規制を加えるべきではない。

1970年代にカソリック勢力の強いフランスがポルノ映画の解禁に踏み切ったとき、たまたま現地でフーテンをしていたので、その時のことを思い出した。当時、保守のジスカール・デスタン大統領のもとで、ミッシェル・ギ文化大臣によって「人間の尊厳を損なわない限り」という人権への配慮を条件に、ポルノの自由化が推進された。74年には上映禁止になっていた「エマニュエル夫人」が公開され大ヒット、75年にはハードコア・ポルノの解禁に踏みきった。自由化のやり方は、簡単に言えば、特定のポルノ映画館で見たい人は見られるようにして、ポルノ映画館の屋外広告も含めスチール写真など看板、ポスターへの使用を禁止し、見たくない人には目に飛び込んでこないようにしたということだ。ポルノ映画館の前を通っても何をやっているのか分からないくらいだ。私も当然、観にいって、シネマスコープの大スクリーンにその場面やあの場所が大写しになっていたのに度肝を抜かれた記憶がある。これらのポルノ映画にはXマークが付けられ、ポルノ映画には国の映画製作補助金がでないことになった。

都議会で共産党の古館和憲都議が、「漫画、アニメ等での青少年の性的描写が青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害するとする学問的知見にはどのようなものがあるか」と質問したところ、青少年・治安対策本部は「学問的知見は見いだせていない」と答弁した。条例案が目指す表現規制がまったく学問的知見、科学的根拠に基づくものでないことを自ら明らかにしている。根拠のないことをなんでやるのか。これは妄想で規制をかけようということか。ハードコア・ポルノを解禁した国で青少年の学力が極端に低下したり、性犯罪が激増している等という話でもあるのか?

学校現場の性教育を規制している性教育反対派と「都青少年健全育成条例改正」推進のポルノ規制派とはどうも同根のように思える。その旗振りを東京都がやっている。学校現場での性教育不在が今日のエイズの蔓延を引き起こしていることを考えれば、ポルノの解禁と性教育の強化こそが議論されなければならないのではないか。こんなことでは、青少年はマスターべーションも妄想も規制されかねない。フランスのポルノ解禁の議論のなかで、ポルノは若者よりもアクセス機会の少ない老人にこそ必要という意見があったことが、妙に印象に残っている。

改正案は、6月都議会で再審議されるという。廃案に追い込む必要があろう。


●高須次郎緑風出版 /流対協会長 )


『FAX新刊選』 2010年4月・194号より