【グーグル問題】 5月28日にGoogle和解原告団と会談●内容とコメント | こんな本があるんです、いま

【グーグル問題】 5月28日にGoogle和解原告団と会談●内容とコメント

来日原告団との意見交換、会長コメント

2009年 6月 2日

 流対協は5月28日11時から帝国ホテルで、来日中のGoogleブック検索和解の原告側法律顧問らと2時間にわたって意見交換した。出席したのは、 全米出版協会(AAP)法律顧問ジェフリー・P・クナード弁護士、全米作家組合(AG)法律顧問マイケル・ボニ弁護士、流対協は高須次郎会長(緑風出版)、上浦英俊経営委員長(柘植書房新社)、木下郁事務局長。またオブザーバーとして日本文藝家協会の坂上弘理事長らが出席した。
 席上、クナード氏らは、つぎのように述べた。


1 日本文藝家協会の招きで来日した。


2 今回の来日での一連の発言は、和解案の修正ではない。和解の規定の、解釈を明確にしたということである。書協、Amazon.co.jp、紀伊國屋ブックウエッブ、日外で「入手可能」とあった場合は、「inprint」(刊行中)とみなすということ。和解案では、(入手)方法についてどのデータを利用するかは、特定されていない。各国の状況にあわせて、どのデータを使うのがいいか、調べることも来日の目的である。


3 市販されている書籍とは、米国内の伝統的販売経路で販売されていることとの定義について、1つ以上のその時点における伝統的販売経路というGoogleの日本訳がおかしい。「one or more then-customary channels of trade」は「その時点おける習慣的というか一般的な販売経路」ということで、伝統的と訳すのはおかしい。書店だけでなく、インターネット販売も含む。


4 米国内というのは、本が米国内で物理的に販売されているということを必ずしも意味しない。米国に住んでいる人が注文して入手できればいいわけで、例えば米国の図書館がネットで日本のAmazon.co.jpや紀伊國屋ブックウエッブを使ってオンラインで注文して米国内で購入できれば市販されていることになる。


5 Googleはデータを整備中でAmazon.co.jpや紀伊國屋ブックウエッブのデータに加え、書協のBooks.or.jpも購入しているので、そうした点を考慮して数週間以内にデータ上で、それらの本は刊行中と表示されることになる。


6 図書館プロジェクトは第一に、絶版書籍が対象なのだが、Googleは刊行中の書籍もスキャンしていて、それは包括的な書籍のビブリオグラフィーをつくることが目的だからだ。第二に現在刊行中の本でも時間が経てば絶版となる可能性があるからだ。出版社が絶版にした本は商業的に入手が不可能になる。Googleはそうした本をデジタル化して読者に提供できる。和解がない状態では、あらゆる書籍がスニペット表示されていたが、和解(という枠組みができたこと)によって権利者はそれらをコントロールできるようになった。こうしたことで、出版社は和解に応じた。


7 和解案における書籍の概念はISBNを基準と考えればいいのかとの質問には以下のように答えた。
  例えば、ISBN付きの雑誌(月刊であれ季刊であれ)については定期刊行物なので、書籍ではない。
 ・ISBN付きの単行本の漫画については書籍である。ISBN付きの漫画が期限を決めずに毎月とか毎週とか定期的に刊行されていれば定期刊行物になる。しかし、雑誌連載を巻数ものとして刊行した場合は書籍となる。ただ、Googleは権利者の申し出は尊重する。
  ISBNは米国ではポスターなどにも使われているため、ISBNイコール書籍とはならない、ISBN導入以前の書籍も多数あるわけで、この点は注意してほしい。あくまでハードコピーという和解案の規定によって決まっている。


8 著作権者がオプトアウトしても、Googleがスキャンをしたり、スニペット表示をしていた場合、著作権者は個々の書籍についてそれを止めるよう求めても、Googleはそれをやめる法的義務はない。しかしGoogleはそれ(著作権者のオプトアウトの意志)に従うということをポリシーとして表明している。


9 オプトアウトは、著作権者に関することなので、書籍ごとにオプトアウトすることはできない。オプトアウトによって得られる唯一の利益は、Googleが書籍をスキャンしたり、ディスプレイ表示したりすることに対して、米国において米国法の下でGoogleに対して訴訟を起こす権利があるということだ。もしもそのようにオプトアウトをして米国に置いて訴訟をおこしたとしたら、フェアユース規定に関わる訴訟で、何百万ドルものお金がかかることになる。今日の説明を聞いてもオプトアウトするのかとのクナード氏の質問には、そうすると答えた。


 流対協は和解案に会員社の市販されている本の90%以上がリスト化され、10%以上がデジタル化されていることを問題視し、その原因が、米国内の伝統的販売経路で販売していない本は市販されていないとし、市販されていないものは絶版書籍となってしまうという和解案の問題点を指摘、このままいくと日本の本はほとんどが絶版扱いとなると警鐘をならし、NHKをはじめマスコミにも積極的にアピールしてきた。そしてオプトアウトの手続きを出版社として行うとともに、ニューヨーク南部地区連邦地裁への和解案棄却の要請文送付、Google本社への和解案反対の文書送付なども行ってきた。
 これと並行して、日本ビジュアル著作権協会など著作者団体の和解案反対や抗議ともあいまって、日本での和解案へ反対の機運がたかまった。

●高須次郎流対協会長のコメント

 流対協との懇談で明らかになったとおり、グーグル和解案の当事者たちは、日本の反発に譲歩し、これまで考慮すらしてこなかった日本の書誌データを用いることとし、和解リストに絶版と表示していたものを、刊行中と変えることを表明した。これは私たちの活動の一定の成果といえるが、和解案そのものが修正された訳ではない。したがって和解案に止まることの問題点が解決されたわけでもない。
 その問題点とは、以下の通りである。


1 和解案に参加すれば契約図書館から提供された書籍を休みなくデジタル化していく作業が中断されることはない。和解案に参加することは、著作権法違反のデジタル化を認めることになり、和解案が成立すればそうした“デジタル万引き的行為”が合法化される。


2 Googleは図書館プロジェクトを世界に広めようと考えているので、米国に限った問題ではなく、遠からず日本に上陸して、制度面でIT時代への対応の遅れている日本の出版界に大きな脅威となる。参加をすればその際、裁判などで争う大義名分を失う可能性がある。


 こうした点を踏まえれば、図書館プロジェクトの目的に照らしても、絶版書籍が刊行中と表示されると約束された今こそ、和解案からオプトアウトをし、和解案そのものに反対する必要がある。