葬儀を終えて帰阪した峰子と里美は、一柳の計らいで長めの忌引き休暇をもらっていた。
その日数は、二人が自分のペースで、自然に気持ちを切り替えていくのに最適なものだった。
それ以上長ければ間延びしてしまうし、それより短ければ消化できずに残る物があったはずだ。
どちらにしても何かが過不足したであろうと思われた。
その間、姉妹のどちらにも、マスコミからの取材はなかった。
一柳が穏やかに言った。
「この期間はお二人にとって大切な脱皮の時期として、静かに過ごしてもらいます。でも、脱皮が終わって羽化したら、記者会見してもらいますからね。」
この事からも、一柳の影響力の凄さと心遣いの深さが窺えた。
姉妹は、一柳にとても感謝した。
休み明け、峰子と里美は六甲にある一柳の事務所で記者会見をした。
沢山の記者が集まった。
会見での質問は、温かく思いやりに満ちたものばかりだった。
心が緩んだ二人は、熱い涙を流しながら素直に答えた。
この時、姉妹を包んでいる周りの世界には、ハッキリと愛が満ち溢れていた。
きっとこれからも、この波動を維持しながら進んでいけば、いつでも愛に包まれる世界で過ごしていける。
峰子と里美は理由もなく、唯、そう確信していた。
会見が終わると峰子と里美は、集まってくれた記者の方々と、準備をしてくれたスタッフの方々、そしてそれぞれのマネージャーと一柳に、心から感謝を伝えて控室に戻った。
しばらくすると、そこに一柳がやってきた。
姉妹が立ち上がり再び感謝を伝えると、一柳は笑顔になって言った。
「お二人に大切なお話があるのよ。この後一緒にお食事、いいかしら?」
里美が答えた。
「もちろんです。お腹ペコペコ!」
里美の言葉に、一柳と峰子が声をあげて笑った。
峰子も答えた。
「はい、ご一緒させていただきます。」
三人は神野の運転で、一柳が気に入っている老舗ホテルのレストランへ向かった。
そこに、後片付けで残っていた里美のマネージャーも合流して、食事会は5人となった。
食事がひと段落すると、マネージャー二人が席を外し、一柳と峰子と里美の三人が残った。
一柳が神妙な顔で口を開いた。
「里美ちゃん、私の養女になってくださらない?」
里美が驚いて声を上げた。
「ええっ?私ですか?」
「そうよ。里美ちゃんが嫌でなければ、だけど。峰子さんはどう思う?」
峰子が答える。
「素敵なお話ですね。里美が良ければ、幸せなら、私は構いません。」
「お姉ちゃん、私、長田里美より一柳里美の方が、今はもうシックリくるかも。」
「芸名、一柳里美やもんね。」
一柳が柔らかく笑って言った。
「峰子さんに特技があるように、里美ちゃんには、愛され大事にされる特技があるのよ。」
峰子が頷きながら言った。
「わかります。それってとっても強い特技ですよね。だから毒親でも搾取されなかった。辛くなかった訳じゃないだろうけど。」
里美が言った。
「お姉ちゃんよりはマシだった。」
「だよね~(笑)」
笑い終えると、里美が一柳に言った。
「社長、そのお話、有難くお受けいたします。」
峰子も一柳に言った。
「妹を、どうぞよろしくお願いいたします。」
二人の言葉を受け、一柳は安堵して言った。
「こちらこそ、お二人共ありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。」
峰子は、収まる所に納まった、という感じがして、満ち足りた感覚になった。
里美の事は里美自身が決める。
彼女にはその聡明さがある。
里美の特技は、変化していく結社の今後にとって、必要な能力なのだ。
峰子は、今、周りにある総てを祝福した。