一気に肌寒くなって、樹々が紅葉する前に、空気は冬の気配を連れてきた。
峰子はダウンジャケットを羽織り、大阪城公園でファッション雑誌の撮影をしていた。
冬物のコート特集の撮影だった。
まだ10月なのに、厚手のコートを着ていても丁度良かった。
撮影が終わり、峰子はコートを一点買い取った。
古着のような柄で、大きめのザックリした着心地が気に入ったのである。
着替えを終えた峰子は、ご機嫌で神野の車に乗り込んだ。
神野は笑顔で、温かい缶の紅茶を後部座席の峰子に渡した。
「お疲れさん。寒かったね。」
「お疲れさまでした。わあ嬉しい!ありがとうございます🎶」
「何かあったでしょ?」
「え?あは、わかっちゃいます?」
「マネージャーだからね(笑)」
「さすがですねっ(笑)」
「そういうのはさ、貯めないように小出しにしておいてよ。」
「素敵なコートが手に入って、気分一新ですよ。」
「なら良いけど。君の大きなエネルギーで爆発されたら、僕は逃げるからね(笑)」
「あら、私、そういうの他人にはぶつけませんよ。環境に配慮して愛にリサイクルするので。」
峰子は、わざとらしく神野を睨んだ。
峰子の作った「怒った顔」は人間らしくて、ちょっと可愛らしい。
神野は笑って言った。
「それは失礼いたしました。お詫びに美味しいサラダバーをご馳走しますよ(笑)」
「やった!ありがとうございます🎶」
峰子は神野の、こういう気遣いの仕方に感謝した。
峰子は、自分から誰かに悪意を向けたり、意地悪をしたり、利用しようとする事はない。
しかし、勝手に悪意を向けて来られる事は偶にあって、その都度、丁寧に、向かってきた悪意を相手にお返しするのだった。
昨日もそういう面倒な出来事があった。
他人軸で自分本位で生きる人にとって、峰子は攻撃対象になりやすいようだ。
峰子は言った。
「私、とっても短気で欠点も多くて出来た人間じゃないけど、一生懸命だし可愛らしい所も一杯あるんです。でも、私の事が嫌いな人、増えてくんです。だから、サラダバーいっぱい食べますっ!」
「うんうん、サラダバーは正義だ!たらふく食べな🎶」
峰子は味方のいる心強さを感じて、柄にもなく涙ぐんだ。
神野は知らないふりをして、カーステレオのスイッチを入れた。
車の中に、最近峰子のお気に入りになった「インストゥルメンタル」の曲が流れる。
峰子が曲に合わせてハミングする。
「赤い鳥逃げた、いいですね。」
少し寂しいサンバの曲調に、峰子は程よく癒されていた。
