とてもよく晴れた、暖かな春の日。
亡き母が大切にしていた三面鏡を、処分することになった。
形見なので、置いておきたい気持ちもあったが、これから引っ越す先には、置けないので仕方なかった。
私は、結構重い三面鏡を抱えて、大ゴミ回収場へ運んだ。
そこに、お隣のおばさんがいらしたので、引っ越しの挨拶と、少しの思い出話と、世間話をした。
このおばさんは、母と仲良くなくて、よく喧嘩をしていた。
それも今では懐かしかった。
記憶をめぐらせて、母の笑顔を見つけた。
私も笑顔になる。
おばさんも、笑顔になっていた。
その場所から去りづらくなっていた。
私は、これでお別れだからと、最後にもう一度、三面鏡を開いてみた。
すると、、、
鏡面すべてに水滴がいっぱいついて曇っていた。
これは三面鏡の意思表示だろう。
つつーっと流れ落ちる水滴をみていたら、私はとても悲しくて申し訳ない気持ちになった。
一緒にそれを目撃したお隣のおばさんは、とても驚いていた。
結局、三面鏡は、お隣さんにもらわれていきました。