少しひんやりした空気をまとって、ミサキは学校へと向かった。
今日は中学の卒業式だ。
三年間続いた最低の悪夢を、やっと今日でおしまいにできる。
ミヤたちとは別の高校だから、もう煩わされることもない。
ミサキは口元をギュッと引き締めた。
これから起こすことを考えると、
自然に顔がほころび、口元が緩んでしまう。
「いつもと同じようにしておかなきゃね。」
そんなことを考えながら歩いていると、学校についた。
ミサキは体育館に向かう。
受付で胸に手作りの造花をつけてもらい、自分の席についた。
私立のこの中学校では、卒業式後に「思い出」というビデオ上映会が開催される。
卒業生たちが中学三年間で経験した出来事、行われた行事や、授業風景や部活など、その折々で撮影された動画を編集して、一本の作品に仕上げた傑作を、生徒だけでなく父兄や教師も楽しみにしているのだ。
そのビデオの中に、ミサキは、ミヤたちの洒落にならない言葉や、冗談ではけっして済まされない犯罪行為を撮影して、見やすくまとめて、ビデオ本編の中に繋ぎ入れたのだ。
ミサキはミヤたちに、
「こういう雑用はアンタにピッタリだよねw」
と、無理やり卒業委員にされたが、結果として、
卒業式の運営に携われたので、
この作戦を思い付き、作業も容易かった。
粛々と卒業式は進んでいた。
卒業式には中学だけでなく、系列の幼稚園や小学校、そして高校の教師たちも参加していた。
ミヤたちは全員この学校系列の高校に進むので、これから彼女たちがお世話になる教師たちも、いまここに来ている。
さぁ、素晴らしい上映会がはじまった。
ミサキはもう、笑いを押さえなかったので、その笑い声が会場内に高らかに響いた。
何度いじめを訴えても、無視して握りつふした担任の酷い態度や言動も、キッチリ上映の中で再現された。
たくさんの父兄たちが、卒業式からこの上映会までの流れをビデオに撮っていたので、いじめの証拠は拡散状態になっていた。
式場内は驚きと嫌悪でざわついていて、教師たちは青ざめていた。
素早くSNSなどに投稿している父兄もいた。
そしてこの様子の一部始終は、取材に来たテレビ局のカメラにも撮られていた。
昨今、起きているいじめ問題なとを特集しているテレビ局を選んだのは、正解であった。
その日の内に、スクープニュースとなり、全国放送されたのだから。
いじめ犯たちは、軽い気持ちで一線をこえたのだろう。
だから、人生を捨てる覚悟なんてなかったのだ。
ただただ、慌てているだけだった。
やりとげた充実感て、ミサキは幸せだった。
ミサキはミヤたちの方へ近づいて、まっすぐに目をみて笑った。
「これからも、一生よろしくねw」
ミサキは既に、もうミヤたちに何の興味もない。
本当に、彼女たちがどうなろうと、どうでも良かった。
だけど、最後に味わってほしかったのだ。
ミサキの怒りを。