なぜ「ありがとう」と思うと夢が近づくのか
「ありがとう」という言葉は、単なる礼儀や習慣ではない。それは、私たちの脳と心に深く働きかけ、人生の流れすら変えてしまうような、大きな力を秘めた言葉だ。この言葉を意識的に、心から思い、口に出すとき、人は目に見えない次元で変化を起こしていく。そしてその変化は、やがて現実の中で夢を実現するというかたちで現れる。
私たちの脳には、想像を超えた潜在能力が眠っているといわれている。日常生活で使われている脳の力は、そのうちのほんの数パーセントに過ぎない。つまり、ほとんどの人が、自分の持っている本当の可能性に気づかず、そのまま人生を終えているということになる。では、どうすればその眠っている力を目覚めさせることができるのか。その鍵の一つが、「ありがとう」という感謝の心だ。
感謝の気持ちを持つとき、脳の中では「セロトニン」や「オキシトシン」といった、幸福感や信頼感を高める神経伝達物質が分泌される。これにより、脳の状態が安定し、前向きな思考が自然と育まれていく。すると、心の中で自分を否定する声が小さくなり、反対に「自分ならできる」という自己効力感が高まってくる。夢を追うには、自分を信じる力が欠かせない。そしてその土台をつくるのが、日々の感謝なのである。
「ありがとう」と思うことで得られる効果は、決して精神的なものにとどまらない。感謝を習慣にしている人ほど、人間関係が良好になり、チャンスが舞い込みやすくなるという研究結果もある。たとえば、職場で何かをしてもらったときに心からの「ありがとう」を伝えるだけで、相手の信頼を得て、協力を引き出しやすくなる。夢の実現には、人の力を借りる場面が必ず出てくる。そうしたとき、周囲の人から応援される人間かどうかが大きな分かれ目となる。
また、感謝の気持ちを持って生きることは、困難に立ち向かう力にもなる。人生は思い通りにいかないことのほうが多い。夢を追いかける途中には、必ずと言っていいほど、壁や試練が待ち受けている。そのとき、「なぜ自分だけこんな目に遭うのか」と考える人と、「この経験も自分を強くする糧だ、ありがたい」と受け止められる人とでは、成長のスピードも、たどり着ける場所も違ってくる。
現に、世界のトップアスリートや起業家、芸術家たちの多くは、日々の小さな出来事に感謝しながら努力を積み重ねている。彼らの中には、自分の夢を「与えられた使命」として捉え、その機会を持てたこと自体に感謝している人もいる。夢に対して「ありがとう」と思える人ほど、最後までその夢を追い続けることができる。そして、途中で挫けそうなときも、感謝の心が自分を支えてくれる。
ある若い女性がいた。彼女は幼いころから絵を描くのが大好きで、将来は絵本作家になりたいという夢を持っていた。しかし、現実は厳しく、大学では美術の専攻にも入れず、就職してからも絵とは無縁の事務仕事に追われる毎日が続いた。それでも、彼女は毎日、寝る前に「今日も仕事があることにありがとう」「絵を描ける時間が少しでもあることにありがとう」と日記を書き続けた。わずかな時間を見つけては絵を描き、子どもたちに読み聞かせるボランティアを始めた。やがて、彼女の絵と物語に感動した保育士から声がかかり、ある出版社との出会いへとつながっていった。彼女は今、自作の絵本を世に送り出している。
「ありがとう」と思う心は、現実を変える扉を開く。その扉の先に、夢をかなえる道がある。だからこそ、夢がまだ遠くにあるように見えるときこそ、自分の周りにあるすべてのことに目を向けて、感謝の気持ちを持ってほしい。友だちがいること、家族が支えてくれること、学べる環境があること、今日一日が無事に終わること。そうした一つひとつに「ありがとう」と言えるようになると、脳はポジティブな情報を集めやすくなり、潜在能力が自然と引き出されていく。
もう一つ大切なのは、「ありがとう」は他人に向ける言葉であると同時に、自分自身にも向けられるということだ。頑張っている自分に「ありがとう」、うまくいかなかったけれど挑戦した自分に「ありがとう」と言えるようになったとき、自信が内側から湧き上がる。すると、自分の価値を他人と比べなくなり、自分の道をまっすぐ進むことができるようになる。
若い世代が今、生きるのは簡単な時代ではない。将来への不安、社会の不確実さ、人間関係の難しさ。しかし、そんな時代だからこそ、「ありがとう」と思える心が、自分の人生に確かな方向を与えてくれる。そして、その心があればこそ、夢に向かって歩む力を失わずにいられる。
夢をかなえるとは、偶然や運だけでは成し得ない。日々の選択、思考、感情の積み重ねが、未来を形づくる。そしてその原点にあるのが、「ありがとう」と思う心なのだ。あなたが今日、何か一つにでも心から感謝できたなら、それはすでに夢へ一歩近づいたという証拠である。
だから、どんなときも忘れないでほしい。「ありがとう」と思える人は、未来をひらく力を持っている。そしてその未来には、きっとあなたの夢が待っている。