「世の中に恩返しする気持ちを持て」──大村智さんの言葉から未来を生きる若者へ
この言葉を語った大村智さんは、ノーベル生理学・医学賞を受賞したことで世界的に知られるようになった科学者です。しかしその偉業の陰には、科学の発展や自らの成功だけでなく、「誰かのために生きる」「世の中に役立つことをする」という一貫した人生哲学が流れていました。その象徴こそがこの言葉、「世の中に恩返しする気持ちを持て」なのです。
現代の若者にとって、「恩返し」という言葉は、少し古風に聞こえるかもしれません。競争社会の中で「まずは自分が成功したい」「自分の人生を確立したい」という思いの方が先に立つのも無理はありません。しかし、大村智さんの歩んできた道を見つめ、彼の言葉の真意を汲み取ると、この「恩返し」の気持ちが、自分の人生をより深く豊かにするための核であることが見えてきます。
大村さんは山梨の小さな農村に生まれ、決して裕福とは言えない家庭環境で育ちました。幼い頃から自然と共に暮らし、両親の働く背中を見て育った彼の中に芽生えたのは、「誰かの役に立ちたい」という純粋な志でした。そこには、地域社会への感謝、家族への感謝、教育を受けられることへの感謝があったのでしょう。
彼は大学で学び、教師としての経験を経て、やがて研究の世界へと進みました。そして「イベルメクチン」という薬の開発に貢献します。これは寄生虫によって命を脅かされていたアフリカなどの国々で、数億人以上の命を救ったとされています。大村さんが得た成功は、単なる科学的成果ではなく、まさに人類への恩返しだったのです。
この言葉は、「何かをしてもらったら返すべきだ」といった単なる義務感を説いているのではありません。「自分が生きてこられたのは、自分の力だけではない」と気づき、「その恩を、今度は別の誰かのために使いたい」と思える、そんな豊かな心の持ち方を勧めているのです。
現代の若者たちは、社会の不安定さの中で、孤独や不信を抱きやすい時代に生きています。家庭や地域社会とのつながりが薄れ、個人主義が進む中で、「恩」という言葉の意味や重みも、かつてに比べて感じにくくなっているかもしれません。けれども、誰しもが無数の「支え」の中で生きているのです。親、教師、友人、地域、社会インフラ、そして過去の先人たちの積み重ねた努力と知恵──それらに目を向けた時、自分がどれほど多くの恩に支えられてきたかが見えてきます。
「恩返し」とは、必ずしも同じ相手に返すことではありません。大村さん自身も、アフリカの人々に対して直接恩を受けたわけではありません。彼が返したのは、「この世界で自分が受け取った恵み」そのものでした。つまり、今の若者たちも、自分が持っている力や知識、気づきや経験を、誰か他の人のために使うこと──それがまさに「恩返し」なのです。
さらに、この「恩返しの気持ち」は、人間としての成長にもつながります。自分一人のために何かを成し遂げた時よりも、人のために動いた時の方が、心に深い満足感が残るものです。他者の笑顔や感謝の言葉に触れた瞬間、人は自分の存在意義を強く実感するのです。そうした経験の積み重ねが、自信となり、さらに人としての厚みを育てていきます。
一方で、現実社会では「損得勘定」や「見返りを求める心」が先に立つ場面も少なくありません。しかし大村智さんの生き方は、「損をしてもいい」「自分に返ってこなくてもいい」という姿勢を貫いたところに尊さがあります。見返りを期待しない恩返しこそ、本物の善意であり、そのような人は自然と周囲から信頼されるようになります。
このように、「世の中に恩返しする気持ちを持て」という言葉は、未来を切り拓いていく若者たちにとって、一つの大きな指針となります。それは、単に優しい人間になれという道徳的教訓ではなく、自分の人生をより確かに、より豊かに歩むための「生き方の技術」でもあるのです。
社会はますます複雑で、多様な価値観が交錯する時代です。だからこそ、「誰かのために」「世の中のために」と思う心は、時代に振り回されず、自分の軸を持って生きていくための力になります。迷った時には、自分に問いかけてみてください。「これは、誰かのためになっているか?」と。その問いが、あなたの行動をより意味のあるものに変えてくれるでしょう。
そしてもう一つ、大村さんの素晴らしい点は、得た名誉や賞金を個人のために使うのではなく、次の世代への教育支援や研究のために惜しみなく寄付したことです。彼の姿勢は、まさにこの言葉を自ら体現している証でした。
恩返しとは、誰にでもできることです。大きなことを成し遂げなくてもいい。日々の小さな親切や、他者への配慮、社会の中で自分が果たせる役割に真剣に取り組むこと。それこそが、立派な恩返しです。
若いあなたが、これからどんな道を選び、どんな人生を築いていくとしても、心の片隅にこの言葉を携えていてください。「世の中に恩返しする気持ちを持て」。その気持ちが、あなたの人生を照らす光となり、やがて誰かの道しるべにもなるのです。
大村智さん、本当にありがとうございます。あなたの言葉と生き方に、深く感謝を申し上げます。