人生という長い旅路を歩んでいく中で、私たちは様々な出来事に出会います。喜びもあれば、苦しみもある。成功もあれば、失敗もある。思い通りにいくこともあれば、全く予期せぬ方向へ転がってしまうこともある。そうした現実の波に揺さぶられながらも、私たちがしっかりと進んでいくために必要なのは、「心の姿勢」であると中村天風は語りました。

「心の姿勢が人生を左右する」

この一言には、実に深い意味が込められています。外側の環境や出来事に振り回されるのではなく、自分の心の在り方こそが人生を決定づける――それが天風の信念でした。

中村天風は、もともとは軍人として諜報活動に携わり、その後に結核という重い病に倒れました。絶望の淵に立たされるなかで、彼は「人間とは何か」「生きるとはどういうことか」を真剣に見つめ直し、インドのヨガ行者から学ぶことで人生を根本から変えていきました。その中で得た核心が、「心の持ち方を変えれば、人生は変わる」という悟りでした。

たとえば、同じような困難に直面したとき、人によってその受け止め方は大きく違います。ある人は、すぐに絶望し、すべてを投げ出してしまう。一方で、別の人は「これは自分を鍛える試練だ」と前向きに捉え、そこから学び取ろうと努力する。何がこの違いを生むのでしょうか。それこそが、「心の姿勢」なのです。

天風が言う「姿勢」とは、単に物理的な立ち姿ではなく、心の奥深くにある構え、つまり人生にどう向き合うかという基本的な態度を指しています。そしてこの姿勢は、鍛えることによって育てることができると、彼は教えました。

私たちはよく、環境が悪いから仕方ない、運がなかった、自分には才能がない、などと自分の外側に原因を求めがちです。しかし、天風はそれを一蹴します。「運命をつくるのは自分の心だ」と。つまり、心の姿勢こそが、私たちの行動を生み、行動が結果を生み、その積み重ねが人生を形作るのだというのです。

では、どうすればその心の姿勢を整えることができるのでしょうか。

第一に必要なのは、自分の内面に目を向けることです。現代社会では、情報があふれ、他人と自分を比べる機会が絶えずあります。SNSを見れば、誰かの成功や幸福が目に飛び込んできます。そうした中で自分を見失わないためには、「私は何を信じ、どう生きたいのか」という軸を持つことが欠かせません。天風は「自分の心は自分で統御するもの」と語っています。心は放っておくと不安に流され、怒りに支配され、他人に振り回されるものです。だからこそ、日々の鍛錬で心を整え、乱れた時にはすぐに自らの意志で立て直す力が求められるのです。

また、天風は「積極的精神」という言葉も大切にしていました。これは、ただポジティブ思考でいろという表面的なことではありません。どんな状況であっても、前向きにその意味を見出し、逃げずに向き合い、自分の責任で一歩を踏み出す精神を指します。たとえ失敗しても、それを「学び」として糧にする。誰かに裏切られても、それを通して「人を見る目」を養う。病気になっても、「命の尊さ」を実感する。そういう風に、すべての出来事を人生の教師とする生き方です。

天風自身も、結核という不治の病と闘い、死の淵を彷徨いました。しかし彼はその中で、恐れや不安に心を奪われるのではなく、「今この瞬間をどう生きるか」に集中することで病に打ち勝っていったのです。そして、病が治った後はその経験をもとに、人々に「心の力」「生きる力」を説き続けました。

このような天風の生き方を見れば、「心の姿勢が人生を左右する」という言葉は、単なる理念ではなく、現実の中で鍛え上げられた確かな真理であると分かります。

現代の日本に生きる若者たちにとっても、これは極めて重要な教えです。今の時代は、変化が激しく、先行きが読めず、社会の仕組みも複雑化しています。正解のない世界で、自分の道を切り拓いていくことが求められています。そんな中で、自分の内面が整っていなければ、簡単に不安に流されたり、誰かの意見に振り回されたり、自信を失ってしまうでしょう。

しかし、たとえ環境が厳しくても、自分の心の姿勢をしっかりと保っていれば、そこに信念が宿り、揺るがぬ生き方ができます。そうした人間は、周囲にも良い影響を与え、結果として人やチャンスが引き寄せられてくる。つまり、「心の姿勢」が未来をつくるのです。

そして何より、この教えは、年齢や立場に関係なく、誰にでも今日から実践できることです。どんなに小さなことでも、自分の心の姿勢を少しずつ整えていく。人のせいにせず、自分の選択に責任を持つ。すぐに結果は出ないかもしれませんが、心の姿勢は確実に積み重なっていきます。まるで山を一歩一歩登るように、やがては大きな視野と安定した自分を手に入れることができるでしょう。

中村天風の言葉は、時代を超えて、今もなお私たちの心に語りかけてきます。人生が思うようにいかない時、道に迷った時、焦りや不安に押しつぶされそうな時、どうか思い出してほしいのです。

「心の姿勢が人生を左右する」

この一言の中に、私たちが生きていくための羅針盤があることを。そして、それを信じ、歩み続けることが、自分らしい人生への確かな道しるべとなることを。

最後に、中村天風さんの生涯と教えに、心からの敬意と感謝を捧げたいと思います。あなたの言葉は、今を生きる私たちにとって、確かな灯火です。ありがとうございました。