「生きることは、それだけですばらしい。」
この短い一文には、やなせたかしさんという一人の人間の、深く優しいまなざしと、長く険しい人生を生き抜いた者だからこそたどり着いた境地がにじんでいます。

多くの人は、アンパンマンを「子どものもの」と思っているかもしれません。確かに、色とりどりのキャラクター、分かりやすい正義と悪、歌やダンス、そういった表面を見れば幼児向けに見えるでしょう。でも、あの世界の根底に流れているものは、大人でも、いや大人だからこそ、心に染み入る深いメッセージです。

やなせたかしさんは、戦争を経験し、青春時代に理不尽と苦悩のただなかを生きてきた人でした。食べるものがない、明日が見えない、夢も希望もすべて押しつぶされるような時代。そんな絶望の中で、それでも「生きること」そのものがどれほど奇跡で、価値あることなのかを実感したのです。

彼はこう語っています。
「本当の正義とは、困っている人に、いま一番必要なものを与えることだ。」

この考えは、アンパンマンそのものです。お腹をすかせた子がいれば、自分の顔をちぎって差し出す。力で悪を打ち倒すのではなく、弱き者を思いやる心で行動する。アンパンマンのテーマソングには、こんな一節があります。

「なんのために うまれて なにをして いきるのか
 こたえられないなんて そんなのはいやだ!」

人生の問いかけに対して、明確な答えを出すことは難しい。でも、生まれて、生きているだけで、それはもう素晴らしいことなのだと、やなせさんは私たちに静かに教えてくれているのです。

現代の若者たちは、いままた新たな苦しみの中にいます。社会の競争に疲れ、自分の価値を見失い、「生きる意味がわからない」とつぶやく若者がどれほど多いことか。でも、そんな時こそ、思い出してほしいのです。やなせたかしさんが命をかけて届けた、この言葉を。

「生きることは、それだけですばらしい。」

誰かと比べて劣っているとか、成功していないとか、そんな物差しで自分を否定する必要はありません。どんなにうまくいかなくても、笑えなくても、心が折れそうでも、それでも「生きている」ということそのものが、かけがえのない価値なのです。

アンパンマンの世界には「死」が登場しません。バイキンマンだって、倒されても次の回にはまた元気に悪さをする。あの繰り返しの中に、やなせさんは「生き続けること」の大切さを込めたのでしょう。完璧でなくていい。うまくいかなくてもいい。ただ、今日も生きている、それだけであなたには価値がある。

そして何より、誰かのために、ほんの少しでも心を寄せることができたなら――それはもう、十分に「生きている」証なのです。

やなせさんは、90歳を過ぎても筆を持ち続けました。「役に立たないかもしれないけど、誰かを元気づけることができるなら」と、日々命の火を注いでいました。だからこそ、彼の描く世界には、まっすぐで、あたたかく、そしてどこか泣きたくなるような優しさがあるのです。

若者たちよ、どうか焦らないでください。
自分がどんな人間なのか、どこに向かうべきなのか、分からなくてもいい。
答えを探す旅は、誰もが通る道です。

でも、その旅のなかでどうか、自分を責めないでください。
泣きたい夜があっても、何もできなかった日があっても、
生きている、それだけで本当にすばらしいことなのだと、胸を張ってほしいのです。

「生きることは、それだけですばらしい。」

この言葉が、今を生きるあなたの心に、そっと寄り添いますように。
あなたが歩く道に、小さな光が灯り続けますように。

そして、あなたが誰かの涙をぬぐう人になる日が、いつか訪れますように。
それこそが、「アンパンマン」の魂であり、
やなせたかしさんが、私たちに残した、本当のメッセージなのです。