人生を歩んでいく中で、誰もが避けて通れないものがあります。それが「苦しみ」です。多くの人は、苦しみや困難をできる限り遠ざけたいと願います。できれば楽をして成長したい、成功したい、幸せになりたい――そう思うのは当然の感情でしょう。しかし、上甲晃さんは、あえてその正反対を語ります。「成長は、苦しみの中でしか得られない」と。

この言葉には、人生を深く見つめてきた人の真実が詰まっています。

上甲晃さんは、かつて松下政経塾の塾頭として数多くの若者を指導し、また「志」を貫く生き方を日本各地で説き続けてきました。彼の言葉には、現場で感じたリアルな体験、若者の葛藤に寄り添ってきた深いまなざしがこもっています。

私たちはつい「苦しみ=悪いもの」と思いがちです。現代社会では、効率よく、失敗せず、楽に成果を出すことが良しとされる風潮があります。ですが、本当の意味で自分を高め、人間として成長しようとするならば、どうしても避けて通れないのがこの「苦しみ」という壁なのです。

苦しみには、さまざまな種類があります。勉強が思うように進まない苦しみ、人間関係で悩む苦しみ、夢が叶わず諦めかける苦しみ、自分の限界を感じて立ち尽くす苦しみ……。どれもできれば経験したくないものですが、上甲さんはそれらこそが、自分を鍛える最大のチャンスだと教えてくれます。

では、なぜ「苦しみ」が成長につながるのでしょうか。

それは、苦しみが自分の弱さを見せてくれるからです。自分の思い通りにいかないとき、人は初めて、自分の未熟さや甘さ、慢心、依存心に気づくことができます。そして、どうすれば乗り越えられるのかを真剣に考え、自分の内面と向き合い始めます。

その過程こそが「成長」なのです。

楽な状況にいるとき、人は本気になれません。本気にならなければ、自分の殻を破ることもできない。むしろ、うまくいっているときほど、自分の力を過信し、慢心し、努力を怠ってしまいがちです。だからこそ、上甲さんはあえて苦しみの中に飛び込んでいくようにと語るのです。

苦しいときこそ、自分を変えるチャンス。苦しいときこそ、志が試されている瞬間。

上甲さん自身、講演や著書の中で、若い頃の迷いや不安、試練について語っています。自分の信じる道が正しいのか分からないまま、それでも一歩を踏み出し続けた日々。責任の重さに押しつぶされそうになりながらも、若者たちに真剣に向き合い続けてきた姿があります。彼が苦しみを知り、そして乗り越えたからこそ、語る言葉に重みがあるのです。

そして、成長の先には必ず「光」があります。

今は見えなくても、苦しみのトンネルの先には、かならず新しい自分が待っています。少しずつでも前に進んでいけば、気がついたとき、自分が以前とは違う目線で物事を見ていることに気づくでしょう。人を思いやる心が生まれ、感謝が生まれ、謙虚さが育ちます。それこそが、本物の人間としての成長なのです。

若い人たちに伝えたいのは、「苦しむことを恐れないでほしい」ということです。

苦しい時期は、人生にとって必要な時期。焦らずに、自分の課題と向き合い、自分なりの答えを探してほしいのです。悔しさも、怒りも、悲しみも、すべてを受け止めて進む中で、きっとあなた自身の「芯」がつくられていく。

そしてその芯は、やがて他人を支える強さになります。

上甲晃さんが大切にしている「志」とは、自分の人生を何のために使うかという問いへの答えです。志を持ち、その志のために苦しみ、もがき、努力する――その先にこそ、真の喜びと感動が待っています。

だから、どんなに苦しくても、その時間を無駄だと思わないでください。

あなたが今、苦しんでいるなら、それはあなたが「成長しようとしている証拠」です。その痛みは、未来のあなたを形づくっている最中なのです。

苦しみの中で得た経験は、あなたの生き方そのものを変えます。そして、その経験を通して、他者を思いやれる人へと変わっていくのです。

上甲晃さんの言葉が、あなたの心の奥に届いて、次の一歩を踏み出す勇気となることを願います。

苦しみは敵ではありません。成長の扉を開く鍵なのです。